脚本供養1(2023年3月頃?)

『か』

(区役所のような場所)
A「ちょっといいですか」
B「なんでしょう」
A「この紙の横にある、モザイクのような、クロスワードパズルのような、これ一体なんなんですか」
B「…あなた、カードを取得したいんですよね」
A「ハイ、もうかれこれ30分待っています」
B「私もね、あなたのとなりで30分待ってますから、そうなんだろうとは思ってますが」
A「じゃああわせて60分ですね」
B「イヤ、同時に待ってますから30分は30分です」
A「あなた、おいくつですか」
B「73です」
A「わたしは74なんで、あわせて147ですね」
B「なんであわせちゃうんですか」
C「あ、ちょっと私も話に入ってもいいですか、私も73なんです」
A「うわぁ、220歳ですね!」
B「なんで220歳なんですか、73年の老人が3人で、あなただけそこに1年加わっているだけでしょう、足して何になるんです」
C「今から220年前というと1800年あたりですね、そう考えるとここだけ江戸時代に戻ったような気もします」
A「江戸時代ですか。江戸時代といいますと、やはり五人組ですが、いや、これは三人組ですね」
B「さっきから私を勘定に入れないでもらえますか」
A「我々は生きた年輪なんですよ」
C「あなた、さっき何か聞いてませんでしたか」
B「そうですよ、モザイクがどうとか言ってましたよね」
A「あ、そうなんです、私ね、この歳で仕事しなくちゃいけなくてですね」
C「あなたもですか。私もね、そうなんですよ。仕事をするのにカードが必要だって言われて。」
A「おたくもですか。私もそうなんですが健康診断うけてから来て下さいって言われましてね、15000円かかるんですよ。だから今の時代カード作ったらポイントもらえるって言うじゃありませんか。そのポイントで15000円分うかせようかなって。ポイ活です、ポイ活。」
B「ポイントで健康診断受けられるわけないでしょうが」
A「何言ってんですか、今やポイントポイントの時代ですよ、ポイントさえあればサイフいらないんですから。いつまで江戸にいるつもりですか」
B「江戸に行った覚えありませんよ。…あなた、ひょっとしてスマホもってないんじゃないですか?」
A「あら、よくわかりましたね、もってないんです」
B「あなたの話を聞いてると、便利なことだけをニュースかなんかで見て、よくわからずにここに来たって感じがしますよ」
A「よくわかりましたね、昔から深く考えない思想でして…深くて1㎝くらいです。」
C「おや、おたくもですか。私も難しいことは苦手で、1㎝くらいしか考えない主義です」
A「あなたは10㎝は考えそうなタチですね。ハッ、これで3人で12㎝は物事を考えられますね」
B「自分でも何を言ってるのかイマイチわかってないでしょう。あのねぇ、サイフいらないということはスマホでバーコード決済をするでしょう。その時にアプリをインストールして、手持ちのカードを集約させ…」
A「あなたこそ何を言ってるのか、イマイチわかってないでしょうが」
C「おや、じつは私もなんですよ。カードとかポイントとかイマイチわかってないんですよ」
A「ということは、これでイマイチから、イマサンになったわけですね」
B「足した結果、何かが起きてるんですか?そしてあなたはなんで数に加わろうとするんですか。あなたが言ってたモザイクみたいなものはQRコードですよ。それをスマホで読み込んで情報を入力したりするんです」
A「なんのために?役所に来てるんだからいいじゃないですか」
B「だからね、ここにこなくても家でできたりするんですよ」
A「つまり行政がウチにくるということですか?行政イーツですね」
B「なんですか、それは」
A「知りませんか、ウーバーイーツ、それを…」
B「あなた人生、楽しかったでしょう」
A「何を言ってるんです、こないだ仕事がなくなったばかりで…」
C「どんな仕事をやってたんですか?」
A「大きい声じゃ言えませんがね、他県ナンバー狩りってあったでしょ」
C「よその県のナンバーの車をムチャクチャにしたりしてましたね」
A「その他県ナンバー狩りのハンターをこないだまでやってたんです」
C「こないだまで!」
B「他県ナンバー狩りハンター…」
A「2020年の春が1番忙しかったんですよ。狩り入れ時でね、でもその時だけでしたよ。あとは私の方が白い目で見られるように…たくさんの人を助けたんですよ…!…先日、廃業しました」
B「よく2年ももちこたえましたね」
A「インボイスにたどり着く前に負けました」
C「私も…大きい声じゃ言えないんですが…
じつは、お肉券の印刷をまかされてましてね…」
B「え!最初、お肉券ですませようとしてたあのお肉券!」
A「10万円の給付にはなりましたけど、印刷しかけてたんだ…」
C「そうなんです、ずっと待っていたんですよ、国民にお肉券配るからって、デザイン考えて、紙もそろえて、あとは印刷するだけ…だったんですが、マスク2枚になり、Go Toトラベル、Go Toイート、いつまでたってもお肉券の出番はこず…
2年待ったんですが、持ちこたえられず廃業しました」
A「まさに行政いーつ?ですね」
B「…なんですか?
しかし2年もお肉券の印刷を待っていたなんて…この歳になっても知らないことばかりですね…」
A「そういうあなたは何か仕事していましたか」
B「ええ、まぁ…」
A「なんです」
B「いや、まぁ」
C「我々も恥をしのんで言ったんですよ、あなたは何をやってたんです」
B「タピオカの喫茶店を経営してましてね」
A「時短営業で経営悪化したとか?」
C「夜の8時まででしたねぇ」
B「いえ、その影響を受ける前なんです、2019年の年末で店をたたみまして…」
A「はぁ。それでそこからまた何か店をやったりして、飲食店がやり玉に…」
B「いや、特にそこからは、何も…」
C「誰もが『渦中』の人だったじゃないですか。あなたの『か』を話してみて下さいよ」
B「ですから、2019年に店をたたんだんで、『か』の影響は特に…」
A「いやいや、あなたの『か』をくれよ!この場で『か』を出してくれよ!」
B「コロナ『か』では特に何もしてなかったので影響なかったんですよ!」
C「そんな人いるわけないだろ!無『か』の人なんて!」
A「いいよ、ちょっとあんたどいてろよ、おれがこの人の『か』を狩ってやるよ」
B「今度は共感狩りですか!」

おわり

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