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書写を上達させる、双鉤塡墨(そうこうてんぼく)

文字を書く。その上達のためには、練習しかない。

しかし、練習してもうまくならないと言う人がいる。

それは、おそらく、練習の仕方が間違っているとしか言いようがない。

サッカーでシュートを外す子供に、キックの仕方を教えてもダメだと、サッカーコーチの池上正さんは言う。キックの仕方は技術であり、それは一番最後なのだ。シュートは、

1.ボールや敵の位置をよく見る

2.どう言う動きをするか考える

3.考えた動きに従ってボールを蹴る

この認知、判断、行動の三段階が必要で、これを高速に正確に行えるようになると、シュートが決まるのだ。

だから、蹴り方を指導してできるようになっても、1,2がダメならば決まらないのだ。まずは、何を見たのかを、何を見るべきなのかを指導するべきなのである。

なんのことはない、文字の練習も同じなのである。

1.お手本の字をよく見る

2.どう言う筆使いをすればいいのかを考える

3.考えた動きに従って、筆を動かす

この認知、判断、行動の三つなのだ。

そして、サッカーと同じように、よく見ることが大事なのである。

ところが、このよく見ると言う指示が抽象的で、どうすればよく見たことになるのかがわからない。指導している方も、よく見ているのかどうかはわからないのだ。

しかし、この抽象的な指示を克服する方法が、中国の伝統的な指導にはあるのだ。

それは、双鉤塡墨(そうこうてんぼく)と言う。

もともとこの双鉤塡墨は、書のお手本を複写するために生まれた技術である。

お手本の上に、薄くて強い紙を置き、下の文字の輪郭に沿って丁寧になぞる。そして、中を塗るのである。もちろん、筆でやる。

このことにより、筆で細い線をコントロールする技術も身につくが、何と言っても、ゆっくりとお手本を見ることになるのだ。

双鉤 九成宮醴泉銘冒頭

添付した写真で言えば、

成と言う字の二画目の横線は、一画目の縦線にくっつかない。

宮と言う字では、一画目の点が、三画目の横線よりも下にはみ出ている。

監と言う字の皿の中の線は、点と線でできていて、点の方は、最終画の横線の上部にギリギリ接しているぐらいだ。

また、入筆、収筆の際の筆先の形や文字の止め方、刎ねる方向、払い方なども理解する。

こう言うのがわかる。

逆に言えば、こう言うようにかけていなければ、見えていないと言うことになる。

そんな細かいことに注意して書くのか?と言われれば、書くのだとしか言いようがない。古典を身につけると言うのはそう言うことの繰り返しなのだ。

これをして、その後なぞり書きである「摹書・摸書」を行う。

そして、その先に、お手本を「見て」書く、臨書を行うのだ。

私は学生時代に、佐野光一先生の指導を受けて、このように学んできた。

あの時は、双鉤塡墨が面倒で面倒で

(なんでこんなことするんだよ。コピーでいいじゃん、コピーがあるじゃん)

と思っていたが「(^^;。

恩師の教えは、若造にはわからないと言う典型のお話である。

学校教育の書写では、いきなり臨書に入っている。

私から言わせれば、原稿用紙を配っていきなり

「さあ、作文を書いてください」

と言われるのと同じである。無謀である。

視覚優位の子供は、この指示でも書けるだろう。

しかし、通常の子供は書けないだろう。

古典の学習では、今で言うところのスモールステップで、古典を見る技術を身につけさせていた。筆先のコントロールの仕方も教えていた。お手本を複製させながらそれをさせていたのだ。

今回の作品は、九成宮醴泉銘の最初の12文字を双鉤塡墨してみたものだ。

ここで使ったペンは、いつものSignoではなく、PILOT Juice up 0.4 ゴールドである。

流石に、書写の初学者に、筆で双鉤塡墨をさせるのは大変だ。(と言いつつ、私、初任の頃、中一の生徒に双鉤塡墨をさせてたことを思い出す。若気の至りだ、すまん)

しかし、双鉤塡墨はさせたい。シャープペンシルでもいいのだが、間違えたら消せると言うのが良くない。よく見て、間違えずに完成させる。この集中が大事。だから、ペンがいいと思っていた。

今回、ヨドバシカメラで見つけたPILOT Juice up 0.4 ゴールドでやってみたところ、かなりいい。私が調べた中では、ジェルインクのゴールドで一番細いのではないかと思う。やりやすい。

Signoゴールドというジェルペンに出会ったことから始まった、Signo書道だが、どうやら一つの指導の体系が見えたきた感じがする。

1.PILOT Juice up 0.4 ゴールドで、双鉤塡墨

2.Signo 0.8 ゴールドで、摹書

摹書 九成宮醴泉銘

3.Signo 1.0 ゴールドで、臨書

臨書 九成宮醴泉銘


こうすることで、筆の扱いが難しい子供達にも、字が美しくなる上達の方法をスモールステップで示せるように感じる。

まずは、自分の字を教科書体で縦書きで、一文字五百円だまぐらいの大きさに印刷して、上記の三つのステップで練習させてみるといいのではないかと思う。

写真は、輪郭で書いているのが双鉤。ここの中を塗ると双鉤塡墨。二行半写っているのが、摹書。一行だけのが、臨書です。

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