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🎊小説 ダンスチャンプ・コウジ✨

大学1年生編    * 社交ダンスとの出会い

* 武道じゃなくて舞踏部
キャンパスには五月の風が吹いていた。
東京ドーム11杯分の広さを持つ愛智学院大学。
高校まで野球一筋だったコウジには、
入学して一月経ってもあたりのすべてが目新しい。
きょうからサークルの新歓イベントが行われている。
中庭はちょっとしたお祭りのような賑わいだ。



コウジもいい気分で歩いていると、
後ろからとんとん、と肩をたたかれた。



「ねえきみ、ちょっと寄っていかない。ぼくたちブドウ部」

仲村トオルに似たかっこいい男子学生だった。



「武道部ですか」
「そう、ブドウだよ」
「武道には興味ないですよ」
「いやちがうの、ぶとう部」
「ぶとう、ぶ」
「踊りだよ、舞踏。ダンスダンス」



いや、ダンスなら武道よりもっと興味がない、
といおうとしたのだが、
なぜかコウジは舞踏部のブースに連れこまれていた。
そこにはちょっと太めの男子学生もいて、
仲村トオルと二人でコウジを両脇からはさんで座る。
仲村トオルは饒舌だった。



「社交ダンスって見たことあるかな」
「いやないです」
「女性が綺麗なドレスを着て髪をアップにしてさ、男は燕尾服」
「はあ」
「抱き合って踊るんだよ」
「そうですか」
「きみも踊ってみないか。ダンスって意外といいもんなんだよ」


太めの学生のほうも、にんまりしながらうなづいてコウジを見つめる。


「ぼく、三重の田舎の高校で野球ばっかりやってたんです。
 ダンスなんてとても無理です」

「ぼくたちだってみんなそうさ。
 社交ダンスは大学に入らないとできないんだ。
 全員初心者スタートだよ」



大学に入ってまで体育会系のサークルに所属するつもりは
さらさらなかったが、ダンスなんて自分とはかけ離れている。
すみません、といって立ちあがろうとしたとき、仲村トオルがいった。


「練習はね、女子大でするんだよ」


女子大で。
コウジのジョシセンサーの針がぴんと跳ねあがった。


「どこの女子大ですか」


声が若干うわずった。


「瑞穂女子大学。パートナー校なんだよ」
「そうなんですか」
「女子大のなかに入れるんだよ。飲み会もいっしょ」
「い、いいですね」
「だろ。夏合宿もいっしょ。もちろん泊まりで宿はいっしょ」


コウジは心のなかでは大興奮だったが、
気取られないように平静を装った。
先輩たちにはお見通しであるとも気づかずに。


「あさっては女子大で体験会するよ。
 ここから車で送るから、おいでよ」


コウジの脳裏には、すでに
女子大生でいっぱいの女子大の様子が浮かんでいた。
かわいい子や綺麗な子たちが
そこかしこからコウジに笑顔を送ってくる。


「わかりました、いきます」
「うおーっ」


両脇の二人が、コウジの頭上でハイタッチをする。
二日後、四限が終わったら校門のところで待ち合わせることになった。

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