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難病治療の為の特定医療費受給者証発行の問題点改善

以下、活動報告です。(門真市の話ではありません。固有名詞は、一部匿名で記載します。)

◆70日間の空白

2020年9月23日。知人のAさん(大阪府Z市民。女性)からLINEがはいった。
息子さんBくん(23歳)の病気のことで、相談したいという。電話をかけると、驚くべき話を聞かされた。

Bくんは、小学5年生の時にいじめられて不登校になり、中学でも不登校になった。
9年前、中学3年生の時に、血小板急降下で緊急入院し、指定難病の全身性エリテマトーデス(SLE)の診断を受けた。2か月後、都島区の大阪市立総合医療センターに転院し、退院後も通院治療を続けながら、通信制の高等学校、4年制の専門学校を卒業した。今春、就職が決まり、他県X市へ転居した。
総合医療センターの主治医は、BくんがX市に転居すると聞き、すぐ3月のうちに、X市のY病院に医療データを送り、治療が断絶しないよう配慮していた。Bくんは、新たにY病院に通院するために「特定医療費受給者証」(以下、医療証)の申請を4月17日にX市内の区役所に提出した。ところが、なかなか、医療症が手元に届かない。しびれを切らして、6月18日に自費でY病院を受診した。治療費4,290円と、薬代31,860円、合計36,150円の医療費を支払った。
医療証について、市長の認定がおりたのは、結局6月26日だった。申請日から、実に、2か月と9日かかっている。

ここで、疑問である。
なぜ、70日もかかるのか。

Bくんは、Z市で9年前に医療症の発行を受けている。その後もほぼ毎月通院治療を継続、医療証を毎年更新している。12月に申請し、更新の1月1日までに手元に届き、空白期間はない。それが、今回、就職のためにX市に転居したら、新たな医療証が発行されるまで、70日間もかかっているのである。

今の時代、文書を送るには、インターネットを使えばほぼ瞬時に可能なわけであるから、国民がZ市からX市に転居しただけで、医療証の発行に70日かかるというのは、理解できない。一体どういうことなのか。

Bくんは、体調不良になり、7月7日にZ市の実家に戻った。その後全身がむくみ、力が出なくなり、下血、7月31日に呼吸困難になり救急車で総合医療センターに緊急入院した。
首に長い針を刺しての治療は見るに堪えず、胸水、腹水、全身むくみの水分を20キロも抜いた。
診断は、全身性エリテマトーデスに伴うループス腎炎再燃による急速進行性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群。末期腎不全の状態となったため、生命維持のために透析療法が必要になり、身体障害1級相当の診断となってしまった。(障害確定は8月4日。診断書は10月8日発行)

Aさんの、ショックと悲しみは計り知れない。
自分の息子が、いじめられ、不登校になり、そのうえ指定難病になってしまった、しかし彼はそれを自らの努力で乗り越え、就職を果たした。これから社会人として洋々たる未来へと、歩き始めるはずだったのであり、母親のAさんは、やっと子育てにひと段落して、ようやく落ち着いた時間が始まるはずであった。

それが、X市に行ってわずか3か月の間に、容体が急速に悪化し、生命が危ぶまれる状態に陥り、長期入院治療を余儀なくされ、結果として会社も退職することになった。
わが子の人生が、台無しになった! 信じられない! この子の未来を返してほしい!
母親の叫びである。

◆調査開始

Aさんの想いに寄り添い、この問題について調査を開始した。

調査項目は次の通り。
1.なぜ、転居に伴うX市での「特定医療費受給者証」の発行に、70日かかったのか。
2.X市は、申請者に対し、必要と思われる説明を充分に行ったのか。

このほか、「Y病院受診時の治療は適切であったのか。」という疑問もあるが、民間病院の医療の内容となると別の話になるので、まずはX市役所の対応(1.2.)について調査をスタートした。

 はじめに、X市が在る県の、県議会議員(自民党)に連絡し、事情を聞いていただいた。県議は、それはたいへんなことだと親身になってくださり、突然のお願いにもかかわらず、調査に協力しましょう、と約束してくださった。

そして、Z市選出の衆議院議員(自民党)にも、ご相談申し上げた。代議士はこの件について、Aさんの母親としての心情にも深く心を寄せ、理解を示してくださり、真っ先に温かいお声がけをいただいたうえ、お見舞いのメッセージも頂戴した。なお、後日代議士事務所より、難病についての補助制度を一覧表にまとめて、情報提供いただいた。

10月6日、Aさんと共に、X市に足を運んだ。まず、窓口の区役所へと出向いた。Bくんが自費で支払った医療費の償還払い申請書の提出と、転出届を出すためである。区役所は、広々としたつくりの立派な建物だった。しかし、ちょうど昼休みで障害福祉の窓口では「わかる者がいない」ということで1時過ぎまで待たされた。また、転出届の窓口は、1時を過ぎても対応窓口に職員の姿はほとんどなく、待っている市民はかなり多かったので、結局時間切れとなり、届を出せぬまま区役所をいったん後にせざるを得なかった。人員配置は適切なのか、疑問に思った次第だ。

県議の計らいで、X市役所本庁自民党市議団控室にて、県議、市議2名、X市の担当部長、担当課長、担当課(難病対策担当)主査 同席のもと、Aさんと私の意見を聞いていただく場を設定していただいた。

Aさんからは、これまでの経緯と、現在の悲惨な状況をお話しし、このような現状を招いた原因には、医療証の発行に70日もかかったことと、窓口での説明が不十分だったことがあるのではないか、と疑問をぶつけた。

◆医療証の発行になぜ70日かかるのか

当日、「新規申請」の場合の流れを、資料を使って担当部より説明を受けた。
Bくんのケースでは、転入に伴う申請なので、医療的な審査は省かれるということで、新規よりも多少流れが速くなるそうだが、それでも実際に70日かかっている。

以下、70日かかった原因分析と、改善提案を順番に述べる。

《A 区役所→担当課 「進達」が月2回》

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これは、市民の方が、窓口である「区役所」に申請書類を提出してから、実際に作業を行う「担当課(市役所本庁)」に送るのが、月に2回の決まった日にしか行われていない、ということ。すなわち、市民の申請書類は、最長で半月、15日間ものあいだ、区役所に滞留したままなのである。
これは、あまりにも、非情であり、杜撰としか言いようがない。率直に、ひどい、と思う。

この書類は、難病患者である市民が、病院へ通院するために必要な医療証を発行する書類だ。いわば、市民の命をまもるための書類なのだ。なぜ、半月も、ほったらかしにできるのか。X市職員は、病気になったことがないのでしょうか? 家族が病気になったことがないのでしょうか? 理解ができない。

ここは直ちに改善してほしい。
書類を送る作業は、スキャンしてメール添付しても10分とかからないわけですから。
半月、溜める必要性が一体どこにあるというのか。

《B 申請書類の内容確認、不備があれば医療機関等に照会 に2~4週間》

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申請書類の確認作業に、2週間もかかっているのはなぜでしょうか。
作業そのものは、数分で済むはずである。これも、確認日が2週間に1度と定められているのだろうか。それとも、人員不足で確認できる人が足りないのか、仕事量が多すぎて手が回らないのか。
不備があれば医療機関等に照会ということであるが、これも前述のように、大阪市立総合医療センターは、転居予定を知った3月に、直ちに、患者の医療データをY病院に送付していた。患者の命を守るための当然の措置であったと考える。

最大で、4週間、確認作業に費やしている。
難病患者に対して、あまりにも認識が足りないのではないか。

《C  保険者照会※月1回(月初め)に2週間》

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この作業は、いったい何なのか。
担当者に尋ねると、保険者(このケースでは、就職先の会社の社会保険組合)に、「所得区分」を問い合わせ、「適用区分」を決めるための作業だという。その、保険者からの返答期限を2週間と定めているので、最大2週間かかるらしい。
次の表は、「平成29年度版 公費医療難病医療ガイド」に掲載されていたものである。
これによれば、適用区分とは、標準報酬月額による所得区分に連動するようだ。

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しかし、本人の所得については、すでに申請時に「該当する方は必要な書類」として
次の項目がある。

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今回のケースでは、マイナンバーを提出しているので、本人の課税状況はすぐに確認できるはずである。

そもそも申請時に、課税状況を確認しているのに、新たに保険者に対して所得区分を確認する必要はあるだろうか。事業者が提出する標準報酬は、これから支払う予定の給与の標準額を示すものであるが、企業の経営状況や勤務状況により、実際の支払額は変動する。課税状況は過去の事実に基づく結果なので、これを基準に医療証を発行することが実態に即しているのではないだろうか。適用区分については、国の規定であり、実務を担う市の担当者も必要性には疑問を持っていた。他の種類の医療証には適用区分欄は無いという。この、所得区分を保険者に問い合わせる作業が省略できれば、発行までの日数も最長2週間短縮できる。国には、ぜひともご検討いただきたい。

なお、この作業も、「月1回」と書かれていて、書類を滞留させているようである。
繰り返しになるが、命をまもるための医療証である。病気は、待ってはくれないのだ。

《D システム入力とデータ処理に1週間》

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これも、作業そのものは1件10分とかからないであろう。
1週間に1度しか入力しないと決めているのか、入力作業者が週に1度の勤務なのか。
工夫すれば、この期間はすぐに縮小することができよう。

これらの分析から導き出せるのは、少なくともA,B,Dのプロセスは、市の裁量で大幅に短縮することが可能と思われ、C については、国に提言していくことが必要と思われる。
医療空白の70日を、せめて1か月に短縮できるように、提言を続けていくつもりである。

◆窓口で必要な説明は行われたのか。

今回のケースでは、申請から発行まで70日かかり、医療証が手元に届かなかったことから受診が遅れ、結果として病状が急速に憎悪し、再燃による末期腎不全を引き起こし障害1級相当の透析治療が必要な状態になってしまった。

申請者は、学校を卒業したばかりの新社会人であり、親元を離れ、X市に引っ越してきたばかりの単身者である。そして、指定難病と闘いながら、これから社会に出て行こうとしている若者なのだ。
通常の社会人であれば、積極的にサポートしてあげようという気持ちが出てくるものではないだろうか。
そして、通常の想像力を働かせるならば、金銭的には余裕があまりないだろうと考えるのが、おおかたの意見ではないだろうか。

窓口の職員が、もしもひとりひとりの市民に心を寄り添わせて対応していれば、次のような声掛けができたのではないだろうか。
・X市にきたばっかりで、ひとりで不安ですね。
・なにか困ったことがあれば遠慮なく相談してくださいね。
・難病の闘病は、たいへんだと思いますが、頑張ってくださいね。
・医療証の発行までに、3か月かかりますが、その間、受診(立替払い)は大丈夫ですか。

そして、これらの声掛けによって、結果として今日の状況は変わっていたのではないだろうか。

2名の市議と県議が最も問題視したのも、この点である。なぜ、職員が、市民の立場に寄り添って、一歩踏み込んだ声掛けをしなかったのか。
もしも、自分の子どもだったら、と考えるならば、もっと真剣に思いやりの言葉がかけられたのではないだろうか、と。
人間が窓口を担当することの最大のメリットは、心が使えるということだと私は思う。
事務を効率よく処理するだけならばコンピューターでも可能かもしれない。しかし、私たちは人であり、人は不完全なものであり、ゆえにお互いに助け合うことが日常なのであり、
その場面で必要なものは心、心づかい、配慮、思いやりである。
23歳の、難病を抱え、転入してきた人に対して、何の言葉がけもなされなかったことが、悲しい。
ぜひとも、この点について、改めていただきたい。

一通り要望を述べて、この日の会議は終了した。早急に改善策をとりまとめて、文書で回答をいただくという約束になった。

◇◇◇


◆X市からの回答

10月15日 X市の担当課長より、メールで回答をいただいた。

今後の特定医療費の事務の流れについては、次のとおり改めることとしましたのでご報告いたします。
 
1 申請から受給者証交付までの期間を短縮します。(資料1-1、資料1-2)
※  資料中、保険者照会を月2回としておりますが、これについてはさらに回数を増やせるよう調整中です。
    
2 転入時に、受給者証交付までの間、医療費の支払いに不安がないか、ヒアリングを行うことを徹底します。
(1)  転入者全員に別紙(資料2)をお渡しし、医療費の支払いに不安のある方のご相談に応じます。
(2)  X市で転入手続き中であることを証明し、前自治体発行の受給者証とともに、医療機関の窓口で提示できるようにします。
(3)  上記1によらず、個別対応にて受給者証を早期に交付します。
  
今後とも、必要に応じた改正をしながらより良いサービスを提供できるよう努めてまいりますので、よろしくお願いいたします。

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◆改善点
1.特定医療費受給者証発行までの期間を短縮
A  区役所から市の担当課への「進達」が、「月2回」から「随時」に
B 申請書類の内容確認が「2~4週間」から「1~2週間」に
C 保険者照会が、「月1回」から「月2回」に。
「2週間」から「2週間以内」に。(届いたものから処理をすすめる)
D システム入力が「1週間」から「2日程度」に

これらを総合して、申請から交付までの期間が
2か月程度(実際は70日)から、1か月程度に短縮された。

2.転入者へのヒヤリングを徹底
特定医療費受給者証の発行にはある程度の日数がかかることを伝え、
医療機関への受診や医療費の支払いなど、不安のある方はご相談ください という一文を追加し、窓口において申請者にヒヤリングを行うことを徹底することになった。
さらに、X市で手続き中であることを証明し、前自治体発行の受給者証とともに、医療機関の窓口で提示できるようになった。

今回、私たちの要望が認められ、大きな改善につながりました。
今回の件は、難病に侵された息子を思う、母親として当たり前の気持ち、当然の疑問を持った、ひとりの女性の声を、行政に届け、その結果、改善につながった。
府県を越えて、各級議員が、人として、親の気持ちに寄り添って真摯に取り組んでいただいたおかげで実現することができた。
なお、「適用区分」の記載について、撤廃を含め検討いただくよう国に要望していくことも確認し、引き続き取り組んでまいる所存である。

ご指導とご尽力をいただいた、関係各位の皆さまに、あらためて衷心よりお礼申し上げます。

                     門真市議会議員 池田治子

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