忘れない
「いってきまーす」
普通に家を出た。学校に向かっている。
今朝、地震があったというのに。
6時半に起きる予定だった。
5時59分の地震のおかげでそれより前に目が覚める。
長く、大きい揺れ。
玄関の吹き抜けにぶら下がっている照明がユラユラとしていた。
揺れが収まると、母は二度寝をした。
私も同じく、二度寝。
ずいぶんと地震に慣れてしまったようだ。
目覚めた先に映るテレビの中では海の荒ぶる姿があった。
「ひなん!にげて!」
大きくて赤い、避難を誘導する文字が画面上にある。
久々に、怖い、と思った。
横揺れに合わせて家がそのままだんだんとペシャンコになってしまうことを想像した。
注意報が出るたび鳴る音にいちいち驚いては箸を落とした。
でも、どんなに怖くても私は学校に行かなきゃならない。
単位のために、行かなきゃならない。
だからもう最悪帰れなくなった時のことを想定して、大きめのマフラー2つとカイロ2つとタオルをカバンにいれた。母に家を出るとき、「頑張って帰ってくるからね!約束!」とわざわざ告げた。
それでも地震は起きなかった。
今でも朝の揺れの感覚は体に残っていて、ぼうっとしていると、突然それがやってきて私に、地震?と勘違いさせる。勘違いで良かったとそのたびに思う。
もし本当に出先で地震にあったら、一人の時に地震にあったら、私はどう過ごすだろうと考えながら授業を受けた。当然、今日の授業内容は全く覚えていない。
今日、もしくは明日、明後日…
きっと忘れた頃に、また自然に襲われる。
その時後悔があるようならば意味がない。
だから、忘れちゃいけない。
5年前のことを。2011年3月11日のことを。
東日本大震災のことを。
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