実況

警察への通報が電話だけでなくなっていることを知らない日本人は多い。もちろん現代社会で通報が電話しか無いなんていうナンセンスなことがあってほしくないというのもまた当然の感覚である。
ただ、警察との連絡ツールとして開発されたアプリケーションを利用している人はおそらく多くなく、平和ボケしている我々には依然関係のないことである。

警察への連絡手段が増えたということは警察へ伝えられる情報量の増加も意味する。今までは音声、電話内での大小さまざまな聴覚情報と電話回線の逆探知という手段でしか事件を調査できなかったのだが、GPSによる位置情報と写真及び動画といった映像記録まで残せるためイタズラの通報よりもよっぽど信憑性が高く、なおかつ事件性が増した通報がされるようになっているのである。

警察の中で変革が起きていると云えば聞こえは良いのだが、実際は体力等も人並み以下である私のような人間が配属される末席みたいな部署である。今日も怪しい通報の写真や凄惨な事故写真を送られて気が滅入るような仕事に従事するのだ。

数多の情報の中にはもちろん助けを求める通報があるのだが、大半はイタズラ目的、精神的な錯乱による被害妄想、痴話喧嘩の類に過ぎない。そんな情報をあさりながら、ふと面白い(仕事的には不謹慎ではあるが)内容があった。

燃えている家屋を撮影しながら消火をする消防隊員や消防車を写しながら、現場の状況をおそらく撮影者本人が実況している映像。送られてくる通報の中ではよく撮影される映像の類なのだが、明らかに撮影者が興奮していることが発せられている声と現場の動きの撮影(撮影している視点を動かしたあとは燃えている家屋の全体を映すのだが、非常に綺麗に撮影できていて美学が感じられるのだ)から想像できる。こういう時の嫌な予感というのは大抵当たってしまうのだが、おそらくこの撮影者が放火した可能性がこれらの情報から推測できる。

「なぜ自分で警察に情報を流すのだ?」という疑問は全くもってその通りであるが、こういう犯罪者自身の自慢のような通報もあるのである。警察内部でも通報手段を増やしたことで思わぬ犯罪の発生と検知がおこなわれていることは望んでいないが成果として出ている。

便利なことに通報用のアプリケーション自体にもGPSによる位置情報探知が可能になっている。私個人としては犯罪者が使うツールであってほしいと思う。通報と縁のない世界が多くの人にとって一番良いのだ。


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