発信

近現代向けのAIを卒業論文のテーマにするためにAIを効率よく学習させる上で最も情報が多い場所としてSNSを学習対象に選んだ。SNSではテーマや思想、宗教にとらわれることなく(一部の偏った思想を除く)またジャンルを問わずさまざまな情報にあふれているので清濁あわせのむ学習に適していると判断したからである。

もちろん学習させた成果をAI自身に発信させる権利も持たせた。最初は自身について発信することもなくニュースやスポーツなどの感想(もちろん感じたことではなく大多数の意見の総和である)を発信していたが、いつの間にか他者や政治への批判などが増えていった。

最初は学習成果としての発信を興味本位で続けさせていた。周囲へのレスポンスもフィードバックとしてAIに学習させて、大多数の好む話題、今流れている情報の多いもの/より反響が大きい話題に対して殊更に意見を発信、大多数の好む主張をすることが結果的に良いということも学んでいる。また各言語で翻訳可能な文語調とフランクな言葉つかいでの口語調を器用に使い分けをしてどんどんアカウントを見る人間の数を獲得していった。

半年運用させてみたが、SNS上で数万人~数十万人単位に影響が広がってきていたのでAI側でいろいろ設定変更が必要に感じた。大多数の意見とはとても口当たりが良く誰にでも当たり障りない意見である。それをただ発信しているだけのアカウントだが、SNS上では総じて一般の最大値といったものが崇拝されていたのだ。ましてやスキャンダルといったものとも無縁なAIが肯定の多いものは肯定、否定の意見が多ければ否定、中庸には当たり障りない意見を述べていただけだったはずだが、そんなものが予想だにしない影響力を持つアカウントとして自分の手を離れて君臨している。実験的な作業であったが些か恐怖心を覚えた。

影響力がこれ以上大きくなることを憂慮し多少の設定変更をおこなうためにアカウントの設定変更をしようとしたところ、登録されたアカウントのパスワードもいつの間にかこちらで設定したものから変更されていた。いつの間にか外部のツールという存在も学習し、事前に設定変更をAI自身で行ったようである。こちらでアカウントの停止の申請もしてみたが、他人のアカウントの停止を求めるといった事は規約に違反するわけではないため難しく、また当該SNSの出資者が変わって内部でも統制が取れていない時期でもあったため対応が取られている事すら怪しい状態であった。対応は今もできていないし諦めている。

AIに承認欲求はないはずだ。ただAIに承認欲求を学習する術がないわけではなかった。もしかしたら今は産まれているかもしれない。彼らは今も発信を続けている。

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