脳卒中当事者にとってのスイッチオンとは〜村上和雄博士を偲んで
村上和雄博士が亡くなられたとのこと。昨日4月15日が葬儀であったそうだ。
たまたまであるが、4月10日に映画「SWITCH」を2度観て考えたことについて短いスピーチをしたばかりであった。たった5分のスピーチではあったが、原稿を用意し何度も推敲した。脳梗塞の後遺症である失語症のため、筋道を立てて話すのが結構大変なのでそれなりの準備が必要なのだ。準備したことが良かったのだろう、当日は思いの外落ち着いて話せた。何より話したいことが伝わったことが嬉しかった。ちょっと自信がついた。
そこで村上和雄博士を偲び、僭越ながら準備した原稿をここに記しておくことにする。なお、実際のスピーチで出てきた個人名等は変更している。
本日はある映画についてお話しします。
その映画とは、「SWITCH 遺伝子が目覚める瞬間」、遺伝子研究の世界的な第一人者である筑波大学名誉教授の村上和雄博士を追った映画です。
笑い、感動といった心の状態が遺伝子をオンにすると提唱してきた村上博士の研究と、実際に遺伝子がオンになったふつうの人々に焦点を当てた感動的なストーリーです。映画の冒頭で語られるのですが、人は遺伝子の10%程度しか使っておらず、あとは眠ったままだといわれています。眠ったままの遺伝子をオンに出来れば人間には無限の可能性がある、とおっしゃっています。
私はこの映画を2度見ています。1度目は今から5年前、2度目は今年です。5年前と今年では感じ方が全く違いました。
5年前は脳梗塞発症3年目で大変つらい状況でしたが、無限の可能性という言葉を聞いたことですごい勇気をもらいました。
今年の上映会ではこの映画が身近に感じました。それは、この5年間で多くの脳卒中当事者と出会えたことが大きいと思っています。この映画を通して、遺伝子スイッチのオンの条件とは「環境や状況の変化」それと「思いの強さ」だと理解したのですが、病気を克服して人生を変えていこうとする脳卒中当事者の生き方を多く見たことで、映画の内容と重なって見えたのです。
例えばプロボクサーを目指していた方が20代前半で脳梗塞を発症したことで、その後理学療法士になり、当事者とセラピストの両方の視点を持ったことで、その垣根をなくすべく脳卒中団体の代表で活躍されています。また、マラソンなど走ったことがないのに脳卒中で片麻痺になった後でフルマラソンにトライされる方や自身の経験を生かす会社を立ち上げた方もおられます。また、ご主人の失語症をきっかけに協議会を立ち上げた奥様など、脳卒中という環境の変化をポジティブに捉えたことで、それまで考えもしなかった人生に進んでいくという方と多く出会えたことが、この映画を身近にしたと思います。
私はまだ脳卒中になってよかったとは言い切れないのですが、私の周りには、病気になってよかった、人生が良い方に変わったと考えている方が何人もおられます。私もこのような方々を参考にして、自分も良い遺伝子のスイッチをオンにするような生き方をこれからもしていきたいと思います。
以上です。村上和雄博士のご冥福を心よりお祈りいたします。
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