スタインベック『怒りの葡萄(下)』感想

この作品は労働問題と家族という二つの層を持っている。そしてこれらを束ねているのが、「団結」というテーマである。

作中で説明があったように、大農園主・銀行・会社などを持つ資本家は労働者を搾取してきた。果物の価格を操作し中小の農園主から農地を手放させ、どんどん規模を拡大した。そしてアメリカ中央部にビラを撒き何万もの失業者を西部に移動させることで、季節労働者の労働価格を大きく下落させた。当時はこのような搾取から労働者を守る法律はなかった。できることは労働者同士で団結することだけなのである。それには労働者を結束させるリーダーが必要だ。ケイシーはストライキを敢行するが、雇われのスト潰しに狙われ命を落としてしまう。ケイシーの死を見てなお、トムは労働運動をする決心をする。トムがお母に語ったセリフにあったようにこれはほとんど自己犠牲であり、宗教的な行為のように私には思えた。シャロンの薔薇が飢えた男に授乳をするというすごいラストシーンがあるが、これも聖母を想起させるような行為だった。団結というのは行くところまで行くと宗教的な色合いを帯びてくるのかもしれない。

最後に。昨今、人間が利己的になる様子を通して「人間の本質」を描いたつもりになっている作品が多いが、スタインベックは困窮の中で利己的になる人間と互いに助け合う人間とを両方登場させている。ご近所さんの家をトラクターで破壊しに来る人もいれば、お爺を自分のテントで看取ってくれるウィルソン夫妻のような人もいる。どちらも同じ人間の側面ということなのだが、後者のような人間が存在すること自体が希望なのだと思う。

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