スタインベック『怒りの葡萄(上)』感想文

まず、率直にとても面白かったです。トムが出所してトラックに便乗するところまでは何の話かわからずちょっと退屈でしたが、第5章でいきなり視点がかわって小作人がトラクタに逐われるエピソードから一気に作品の世界へ引き込まれました。この小説はジョード一家の物語がメインですが、当時のアメリカの情勢がわかるようにこのような視点変更が入っているおかげで飽きずに読めたように思います。
私の印象に残っているのは、土地から追い出された何万もの人々が車で66号線で西部に向かう際に、自然と集団での野営が生じ、そしてそのなかで即席の社会が形成されるという描写です。
「指導者が現れ、掟が定められ、約束事があるようになった。そして、夜ごとに創られる社会が西へ進むうちに、隙がなくなり、道具立てもよくなった。社会を築くひとびとの経験が豊かになったからだ。」
集団をつくり互いに協力しあうことは人間の基本的な行動様式のはずですが、特に最近では「既存の組織のなかでいかに自分がうまい汁を吸うか」しか考えていないような人がとにかく多いです。そしてそういう姿勢がときに称賛されていたりもします。この作品では、自分の家族が生きていくために仲間の土地をトラクタで踏みつけるような人間がいる一方で、困窮しながらも助け合いながら生きていく流民の様子が描かれています。これらの対比から、人間の本来あるべき姿、取るべき行動を諭していると思いました。
最後に、恥ずかしながら私はスタインベックという作家は課題図書にあげられるまで知りませんでした。この作品に出会えて、改めて読書会に参加していてよかったと思いました。カリフォルニアにたどり着いたジョード一家がどうなるのか、下巻を読むのが楽しみです。

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