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私の人生は私だけのものだとは思えないのだよなぁ

2015年8月23日

ー私はこの日のことを一生忘れないー

2015年、私は京都で大学生をやっていた。
4回生の夏だ。

希望していた業界に内定をもらい、卒業単位もゼミ以外は取り終えていた。
そのため、4回生の夏は青春18切符を使ってひとり旅をしたり、一人暮らしに向けて貯金をするためにアルバイトに勤しんでいた。


私はどうしても大学を卒業したら東京に行きたかった。

22年間ずっと実家暮らしでそろそろ家を出たいって思っていたということ。

両親が出会った街・下北沢に住みたかったこと。

東京という街に心から憧れていたこと。


理由はいくつか挙げられたが、一番大きかったのが「のんちゃん」という友人の存在だ。

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のんちゃんは高校時代からの友人だ。

お互い陸上部所属だったのだが、私が短距離でのんちゃんが長距離で少し関わりはあったぐらい。本格的に仲良くなったのは高3でクラスが一緒になってからだ。

私の学校は制服がほぼ自由だったため、
のんちゃんは豪快にペイントされたド派手なTシャツ着たりして、ファッションを存分に楽しんでいた。
彼女はアーティストとしても活躍をし、高校の美術展で表彰を受けたりもしていた。

夏休みには、神戸から佐世保まで単独チャリで横断旅をしたり、バイタリティの塊みたいな子だった。
人見知りも全然しないし、すぐ人とも仲良くなれる。

そして、いろんな人に愛される子であった。

みんなのんちゃん大好きで、私も彼女が大好きだった。

のんちゃんに比べて私は、部活が終わったら真っ先にコンビニでシュークリームを買い込み、TSUTAYAでお笑いのDVDを借りて、自宅に引きこもってネタの感想をブログに書く鬱屈とした日常の連続だ。

大胆な行動も起こす勇気もない、何ら冴えない、湿った高校生活を送っていた。

のんちゃんと仲良くなったきっかけとかは、詳しくは覚えてない。

当時流行っていた楽しんごのドドスコを教室でなぜか一緒に踊ったり、アホなことをできる数少ない友人であった。

とにかく彼女といると笑顔が増えた。

元々友達がそんなにいなくて、暗かった当時の私だったのだが、彼女には自然と心を開いていた。

私にとってのんちゃんの存在は太陽のようであった。

そして、友人ながら憧れであった。

なぜ、こんな私と仲良くしてくれるのかわからなかったが

『あいかーー!大好きーー!!』って

ツヤツヤした笑顔でいってくれるのだった。

一緒にいるだけで、地獄のような気分から救われていた。


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高校を卒業しても、のんちゃんと定期的に会っていた。

相変わらず自由なファッションに身を包み、自分でお金を貯めてピースボートで世界一周の旅に出たいといった夢を話してくれた。

さらに自由な世界に飛び込もうとする彼女の行動力は、私の大きな刺激になっていた。

彼女のおかげか、私は大学生になると高校までの自分とは見違えるぐらい明るくなり、自己開示できるようになった。

高校までは人と喋ろうとすると緊張していたのだが、自然と会話もできるようになった。

あの子が見ているキラキラとした世界に私も触れてみたい、もっと知りたい。

そう思うと、より多くのことに興味を持てるようになった。

自分が変わるきっかけをくれたのんちゃんには本当に感謝していた。


のんちゃんは高校を卒業し、しばらくフリーターをやっていたが、やっぱり美大に行きたいと上京した。

それから、私はちょいちょい東京に遊びに行くようになった。

聞いたことはあったけど、全く足を踏み入れたこともなかった代官山という街に連れて行ってくれた。

できたての蔦屋書店に足を踏み入れた。

蔦屋書店にはスターバックスが併設されていて、コーヒーを飲みながら書店に置いてある本を持ってきて、そのまま読むことができる。

”本を読むには買わないといけない”っていう前提を覆したすごいシステムだなと思った。都会ってすごいなぁ。

そして、東京という街の洗練された空気や人に触れると、シャキッと自然に背筋が整った。

東京って生きづらそう。冷たい。
というイメージだったけど、その当時の私には東京の人の冷静さが『大人』に見えた。

いつしか、私はそんな大人たちの仲間入りしたいと思うようになった。


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下北沢にて


のんちゃんは下北沢という街のバーでバイトしていた。

下北沢。バンドマンとカレーと古着とあと役者の街、その他エトセトラ。

様々な文化がミックスするこの街が私は好きだ。


偶然にも、父の出身地でもあり、父と母が出会った街であった。

この街がなかったら、私は居なかったといっても過言ではない。


「キラキラしてて、可能性がたくさん秘めている、東京っていう街。大好き。」

日高屋の下北沢駅南口店にて。
中華そばを一緒にすすりながら、笑顔でのんちゃんは語っていた。


『わたしも、大学を卒業したら東京に住みたい。
のんちゃんもいるし、何より私が好きなものに溢れている。』

そうやって、私も上京する決意を固めた。


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そして、2015年8月23日

この日はたまたま内定先の研修で東京にいた。

会社の同期がキングコング西野さんのファンで、個展を観に行きたいということで私も付いていくことになった。

これもまたたまたまなのだが、この個展の美術部門のリーダーをのんちゃんがやっていた。

会場に行ったら会えるかな?と期待した。

行くのがきまったのが直前だったため、のんちゃんには連絡せずにとりあえず会場に向かった。


会場に向かう途中、彼女のTwitterを覗いてみた。

すると、数時間前に逗子の海にいるとの投稿をしていた。

『なんだ…今日いないのか。急だったししょうがないなぁ。また今度来たとき会いたいな〜』

その展示自体は、青山一丁目の青山アートスクエアというめちゃくちゃおしゃれな会場で行われており、来場者も多くのんちゃんが携わっている企画の凄みを感じた。

ホームレス小谷さんという、赤い服を着た有名人もそのへんに普通にいてびっくりした。

その後は、東京での予定が詰まっており、結局のんちゃんに連絡ができずに、バッタバタしながら実家の神戸に夜行バスで帰った。

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8月24日

自宅でぼんやりとテレビを見ていた。

夜行バスで帰ってきたので、あまり快眠できずに眠かった記憶がある。

昼過ぎぐらいだったかな。なんとなく流れるニュース。

「昨日、神奈川県の葉山町で事故がありました。海水浴帰りに道路の端を1列で歩いていた男女12人の後ろから乗用車が突っ込み、男女3人をはねて走り去りました。」


ひき逃げかぁ...

なんかこの間もこういうニュースあったよなぁ。


葉山署によると、死亡したのは大学生の浜口望さん(23)ーー・・


・・・・え?


画面に事故で“死亡”と映し出されていたのは、のんちゃんの名前だった。年齢も同じだ。


いや、待てよ...同姓同名もいるし....


嘘だ....


私は、画面に映し出された情報を信じられなかった。


何がなんだかわからないまま、私はとりあえず事実を確認するため、震える手で文字を打って高校の同級生に連絡をとった。


「今....ニュース見たんだけど、これってのんちゃんのことかな....?」


するとすぐ返事があった。


「そうだよ、連絡網でまわってきた。」


神奈川県葉山町で飲酒運転した車にひき逃げされ、 のんちゃんは命を失ったのだ。

この間まで、一緒に渋谷のヴィレッジヴァンガードで、サブカルっぽいTシャツ見ながらきゃっきゃしてたじゃん...。

それで、のんちゃんはヴィレヴァンの世界に夢中になりすぎて、私を置いてきぼりにしたじゃん...。

ちょっと焦ったけど、その落ち着きのなさも彼女のいいところだと思って、私は店内を必死に探したじゃん...。

そして、私は将来社長になるから、一緒に仕事しようって、言ったじゃない。

会社のロゴをデザインしてくれるって言ってたじゃん...。


なんだよ、どういうことなんだよ。

23歳って早すぎるだろ。


ねぇ...

ねぇ....!

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私は事故の日から5年経って、ようやく彼女がこの世にいないことを理解できてきた気がする。

私はのんちゃんのいない下北沢に2年半住み、たくさんの友人ができた。


彼女が見れなかった景色を、ずっと私がかわりに見ている気がする。

これは勝手かもしれないけど、私が彼女の人生の続きを生きているつもりでいる。

たまに、よくわからない勘が冴えて、普通の人が行きづらそうな店とか入ると、のんちゃんが好きそうな場所だったりするんだよ。

あれなんなのかな?

絶対、上(天国)で指示出してるよね?


「こっち行って〜今の店面白そう〜〜〜〜」

っていって、私を動かしてるよね?

フットワークが軽くなったおかげで波乱の連続だけど、めちゃくちゃいろんな人と出会えたよ。

そして、めちゃくちゃ楽しいよ。今。


私の人生は私だけのものだとは思えないのだよなぁ。

だから、どんなに辛くても絶対に死にたいとは言わない。

だって、生きたくても、あんだけ才能があっても、生きれなかったのんちゃんがいたんだから。

死ぬのは申し訳ないんだよ。死んでたまるかよ。こっちは背負ってるの自分の人生だけじゃないんだよ。

私は、彼女が好きだったハイボールを飲みながら、この文章を書き終えた。


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