「友引」の渋谷

 昨夜は「友引」だったので、渋谷のんべい横丁に行った。馴染みの店の開店が遅れていたので、裏の店で大学の40年後輩が曜日替わりママをやっているので、そちらで飲んでいた。

 店も開いたし、空いた席もあるというので移った。いつもの常連組以外に、面白そうな客が居た。
 日常生活のシビアな過ごし方、を語った気がする。なかなかステキな女性の反応が楽しくて、「聞かれてもいない話、を延々とした」。さらに隣にはアイパッドで筆談する男性もいた。彼が茶々を入れてくれるのだが、達筆すぎて読解が難しい。それがまた笑える。

 すると別の女性が「〇〇という人が、この一週間くらいに来ましたか?」とマスターに尋ねてきた。
 「ここしばらくは来てないなあ。でもボトルはあるよ」
 「ワタシ、そのボトルを飲みます。飲み尽くします」
と固い決意のもと入って来た。

 どうも〇〇は婚約者らしく、音信不通になっているという。客全員が「最悪の状況」を想像した。誰もそれを口にはしない。
 悲壮な決意で入店し、酒を飲み始めたが、美人でもあったし、周りの常連客も「不幸には慣れている」玄人が多い。
 イーズカなど「世間から嫌われて63年」「オンナには返品されてばかりで40年以上」である。

 人生の達人たちの気遣いもあって、彼女は見る見るうちに元気になってきた。
 「よっしゃー!飲み切った。ワタシのボトルを入れてください。その〇〇の空瓶も残しておいてね。」と空瓶を割らんばかりの目つきで睨みつけている。

 まあ、不幸がひとつ夜の闇に溶けて行った。彼女が翌朝目覚めた時が多少不安ではあるが、それは彼女の問題である。

 昨夜の「友引」は、ずいぶんと色々な人を引き寄せてきた。イーズカはネット検索するよりも、こんな人間模様の観察の方がオモシロイ。


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