『燃えよドラゴン』の続き

 映画本体の話に続きは無い。「アサリ」の話の続きと背景である。
 彼女の父親はイーズカの母校の小学校の先生だった。イーズカの父はPTAの役員をしており、先生連中とよく飲んでいた。

 彼女の一家は教育者家系でお兄さんは国立音大に進んだクラシック奏者だった。
 片やイーズカ家は農家ながら、旧制榛原女学校を首席で卒業した叔母がいたり、父の長兄は満州で憲兵をしていてシベリアに12年も抑留されるなど、田舎のインテリ家系であった。

 イーズカの父と彼女の父親は親しく、彼女から「イーズカ家の長男と付き合うなんて許さない、と言われたわ」と言われた。アサリ本人は、親の意見などドーデも良い、という態度だった。

 イーズカの父は、ワルツが好きで市内のダンスクラブに通うなど、農民には珍しい種類の「遊び人」だった。彼女の父親は、それをよく知っている。
 イーズカの母も彼女の父親を知っており、彼女を家に連れて行くと「おやまあ」という感じだった。人口が少なく、世間がとっても狭い社会である。派手なカップルなど、すぐに知れ渡ってしまう。

 イーズカは小学校からずっと生徒会長、アサリは教師の家の170センチもある迫力の美人なので、一緒にいる姿など一目で分かる。

 『燃えよドラゴン』を観た時など、彼女の膝枕で観ていたが、はた目には「ヤクザの若衆が、大オンナの情婦を連れている」としか見えなかったはずだ。
 ただ、あの田舎にはそんなオシャレなヤクザなど居ない。品の無いチンピラくらいしか居ないのである。

 浪人中には毎週手紙を書き、彼女も毎週返事をくれた。しかし浪人中の身では、まず大学に入れるかどうかもおぼつかない。勢い、不安を打ち消す強がりの内容になる。
 書きながら「三太郎日記」のようだ、と自覚していた。恋する乙女が求めるモノではない。
 今ならゼッタイに、あんな手紙は書かないが、当時は作文力も低かった。相手を喜ばすよりも、自身の不安を打ち消す方が先だった。

 イーズカは離れの部屋にひとりで寝ていたので、明け方窓を叩く音がした。寝ぼけながら窓を開けても誰もいない。

 その後の手紙では、窓を叩いたあと海岸に行き、手紙を全て焼いたらしい。
 まあ「期待に応えられず、愛想をつかされた」のであった。その後45年間の「返品の歴史」のスタートである。

 「青春の苦い思い出」になるかと思いきや、手を変え品を変え、似たような顛末が繰り返されている。


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