「下手の横好き」と、傍若無人なオトコ

 土曜日は大好きな「ラテンエアロ」のクラスがある。先週はヨーコの「ハリケーンライブ」があったので、出られなかった。

  2週間ぶりなのでイントラも喜んでくれた。しかしイーズカの定位置に小太りのババアが立っていた。
 これは仕方のないことで入場順に位置を取っていく。このババアとは挨拶はしているが、「邪魔な事この上ない」ヤツであることは知っていた。
 いつもはイーズカとは反対側の最前列・中央に立っている。

 以前、このババアの後ろにイーズカが立ったことがあった。イーズカに煽られて、幅寄せ・急旋回・急発進・急停止を繰り返されてコリゴリしたはずである。
 老人にしては上手い方だが、所詮は「老人にしては」の前提付きの話である。
 かつてリンダ・ロンシュタットが太り出した時、リンダ・小狸・ロンシュタットと呼んでいたが、まさに「小狸」のような体型のババアである。

 距離を保って動く為に、床にマーキングしてあるのだが単に中央寄りに立っている。イントラが「少し前に出てください」と言っているのに後ろに下がって来る。
 背後ギリギリに立って、前に追いやろうとした。が、動かない。たぶん目が見えないか、外部に何の注意も払っていない。
 そして右手に親しいバアサンの孫娘が立っていた。この娘がまた、まったく動けない。更には逆に動いてくる。
 前と右手に断崖がそびえているようであった。

 両者とも「脅しても」「すかしても」通用する相手ではない。もう諦めて不貞腐れた。
 立ったまま指先と足先だけで動く、棒立ちである。イントラも何とかしようとしているのだが、何ともならない。

 もう最後部に下がり、水を飲みながら汗を拭いていた。
 これが何を意味するか、を2名以外の全員が知っている。第2列中央に大きな空間が空いたままレッスンは進む。

 イーズカは37年間のキャリアがあり、日本エアロビクスの歴史そのものである。
 週に3日とか4日とかではなく毎日やってきた。毎日一日一時間は全力疾走している。できないステップなどなく、イントラの動きをトレースする気などない。常にカラダを鍛えて、どのタイミングでどの動きを入れれば観客に効果的か、を鏡に映る姿で確認している。

 ロッカールームに戻り、唯一親しい男性が居たので「これでは運動にも何にもならない」と吐き捨てた。彼はいつもイーズカの後ろに立ち「バックダンサーを務めさせて頂きます」と言ってくる。
 週に一回の楽しい時間が、不愉快極まりないモノになってしまった。

 夜は渋谷に飲みに行ったが、駅前のスクランブル交差点を人混みを蹴散らしながら歩いた。
 イーズカがマスクをしないのは、「無意味な気休めに過ぎない」と思っているせいもあるが、マスクをせずに顔を晒しているとみんなが避けてくれる、からである。

 真っ赤な折り返しのついたロングコートに身を包み、女性用のバックを下げて、フェラガモのシューズで闊歩した。

 一般人を蹴散らしながら歩く、これがイーズカのスタイルである。


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