吉野家常務の「シャブ漬け」発言


 初めて聞いた時は、「まあこんな下品な言葉を、よく人前で話せたものだ」と単純に呆れた。
 非難ごうごうのコメントの中で、デンツーのマーケの人間のコメントで「P&Gマフィア」という言葉に出会った。
 
 P&Gとは「プロクター・アンド・ギャンブル」のことで洗剤などの生活用品を全世界に提供しているメーカーで、マーケティング戦略が優秀なことで名を馳せている。
 ここ出身のマーケッターはヤリ手で、とくにP&Gシンガポール出身者がグローバルに活躍していて、旧態然たる日本企業で大ナタを振るい、出色な結果を上げている例も多いらしい。
 
 「生娘」だ「中毒にさせる」という単語も、既成概念から抜け出せない経営陣にショック療法を与える効果を狙って使われていたのだろう、という話だった。
 新展開を提案する時は、自社の経営陣を説得するのが最難関なので、その用語法の一環だろう。
 
 ワタシも販促を仕事にしていたので、「吉野家が10代から20代の女性客の獲得を課題にしている」というのは聞いていた。
 「しかしそんな客を取り込んだら、主要顧客である大食いの若い男性客を失うのでは?」と思っていた。
 
 マーケティングというのはアメリカ流のオメデタイ単純構造を持っているので、世の中に老若男女が居るのなら全てを顧客にすべき、と考える。
 しかし世界の全員から必要とされている商品もサービスも、世の中には無い。すべてにウケようとすると、中途半端で誰も必要としないモノに成り果ててしまう。
 
 女性客が大挙してやって来れば、大食いの男性客は居づらくなるし、デート客も迎えるような内装やメニューになれば、ビンボー人は寄り付かなくなる。
 
 むかしイー加減な営業からプレゼン方向として「長いんだけど短くて、堅いくせに柔らかさも併せ持ち、老いも若きも魅了するアイデア」を求められて、「そんなモノは世の中には無い」と言下に否定したことがある。
 
 今回の事件で吉野家が、発言した常務を即刻解任したことは正解だったと思う。「若い女性も入りやすい店」をアタマの片隅に置くことは必要だが、現在のヘビー・ユーザーを否定したら存続が危うくなる。
 
 マーケッターとかコンサルタントなどの提案は聞くとしても、経営の本体を任せるとトンデモナイことになる。
 最近のウクライナなどの報道を見ていて、デマゴーグがはびこるばかりで、議論とか論戦というモノがメチャクチャになっているのに辟易としている。


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