「ニッポン・スゴイ本」


 今朝はマーケティング・セミナーのテキストを読み込んでいた。疲れたので、先日図書館から借り出した『「日本スゴイ」のディストピア 戦時下自画自賛の系譜』を読んでみた。

 イーズカは昔から、「右翼というのは、モノを知らない上に、学ばない・調べない・考えない、怠惰な愚か者だ」と小馬鹿にしていた。
 今でもその印象はまったく変わらないが、この本でそのネタ本に当たってみたら、「やはり、ここまでバカだったのか」というエンタテインメントを味わった。

 しかし、ここに登場する「論客」たちには、ある種の共感を覚えることもある。バカバカしいだけに愛嬌がある。
 新潮社が出していた雑誌『日の出』の、1933年4月号「国難来る! 日本はどうなるか」、7月号「維新から昭和まで、国難突破十大物語」、10月号「世界に輝く、日本の偉さはここだ」というラインナップがご先祖様と呼べるらしい。

 1931年の満州事変で世界中から非難され、1933年に国際連盟を脱退する。2月に脱退して、上記の「特別読み物付録」のシリーズをつけたようである。

 そこでは「地球上に全く孤立無援」というフレーズがあり、満州事変を引き起こした責任など棚に上げて、被害者意識が全開になっている。

 国難突破十大物語には、ペリー来航、日清戦争、日露戦争、満州事変と連盟脱退などが並んでいる。ペリー以外は、自ら招いたネタばかりである。

 「世界に輝く、日本の偉さはここだ」は、最近の「ニッポン凄い」を振りまくテレビ番組の教科書のようである。
 執筆陣は豪華で、文部大臣・鳩山一郎、逓信大臣・南弘の序文で始まり、堀口大学、芦田均、田辺尚雄(音楽学)、足立文太郎(解剖学)などが並ぶ。
 なぜ解剖学? と思ったら、「西洋人のみが優秀人種ではない」と、人体の柔らかい部位を研究する「軟部人類学」を提唱し、白人と日本人の違いを徹底的に研究している。
 その結果「人類は進化していくうちに毛が少なくなったのである。「まだ西洋人は毛の抜け方が足らぬぞ。それはとりもなおさず動物に近いのだ」と、日本人の進化の優位性の証と主張」して得意になっている。「ハゲがもっとも進化した人類」ということになる。イーズカの進化は突然変異に近い。

 足立は、京都帝国大学・医学部の教授である。インテリも案外と日本主義に弱い。

 その他には、『日本主義は全人類の奉ずべき道徳精神である』、『日本人の底力・粘り強さは米食からくる』、『日本精神とお墓』、『天才帝国日本の飛謄』など、信じる者のみが救われる荒唐無稽な言説が色々な出版物で連なっていく。

 産業革命に遅れ、帝国主義進出にも出遅れたニッポンのけなげな姿であるとも言える。その弱者・被害者ぶりがイジましい。
 現在のヘイト右翼(もどき)は、これらのネタ本からまったく進化していない。

 ある民族だけが優秀であるはずがない。地理的、歴史的、組織論の必要性、戦争技術の優劣の産物として現在の姿があるだけである。

 一般論としても、自慢話が好きな人間は劣等感のカタマリである。現在の日本は、ジャパン・アズ・ナンバーワンと誉めそやされた極東の島国が、おごり高ぶりから自滅の道を転げ落ちる物語の最終章にある。

 勤勉さも、モノづくりの優秀さも良いが、「世界が何を求めているか」というマーケティングをマジメにやらないと、過剰なスペックを売り付ける「押し売り」として世界中からヒンシュクを買うだけである。

 1945年につけるべきだったオトシマエを、2020年で良いからつけるべきだと思う。

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