金曜日は安息日

 運動をやり過ぎているので、整骨院のトレーナーから休養日を取った方が良い、と進められた。
 納得である。有酸素運動はやり過ぎると脂肪よりも筋肉を消費してしまう。筋肉が減ると基礎代謝が落ちる。
 そのために筋トレを始めた。マッチョマンにはなりたくないが、ウエスト周りの脂肪が落ちないと、お気に入りのシルクパンツを履いてもキツクて苦しいだけである。

 金曜日は一切運動しない安息日としたので、午後に恵比寿に営業に行った。デンツー時代からの友人で、北千住の地で、競合社でありながら一緒に飲んだくれていた。
 そんな彼も、今や重役である。彼がオモシロイのは、サラリーマン社会に居ながら、醒めた目で自己対象化していることである。
 立派な応接室に通されて1時間ほど営業した。しかし内容は、はっきり言って雑談である。「危機管理」を主要業務にしていることは伝えたが、笑い無しでは語れないものとなった。
 むかしからイーズカは「イーズカ自身を売る営業」である。取り扱い商品などドーデモ良い、「ワタシと仕事したいと、思いませんか?」と毎回プロポーズしているようなモノである。
 これがオトコには結構通用する。オンナからは却下されてばかりいる。
 大笑いの内容で時間オーバーしてしまい、「今度は、飲み屋で」と言いながら別れた。

 恵比寿から渋谷まで山手線沿いに歩き、渋谷に住んでいる古くからの友人に会った。
 彼とは20代の頃、「渋谷の梁山泊」のような会社で一緒になった。社員の多くは会社に住み込んでいて、イーズカは池尻大橋に住んでいたので、よく自宅を襲撃されて宴会になった。
 互いに近況報告して、彼から「日本文豪研究所」という新名刺を渡された。
 彼も文筆業をしていて、フランス語の翻訳も手掛けている。「自らが文豪になるための名刺」だという。イーズカは「作文家」である。彼主宰の月末土曜のバーベキュー大会に参加する約束をした。

 それからさらに青山通りを歩いて、表参道ヒルズに行った。青山通りから表参道や原宿エリアは懐かしい。
 37年前にエアロビクスを始めた時、この地の制作プロダクションにいた。
 その後、静岡に戻ったりデンツーに入ってからも、この地のエアロビクス・スタジオに通っていた。XAX、いまはコナミに買収されている。当時のビルは取り壊され、現在はシャネルの入るビルとなっている。

 近所のとんかつ屋の主人と親しく、彼の店は元々は肉屋だった。いつもド派手な格好でエラそうに歩いていたので「イーズカさんは、もはや『原宿の主』ですね」と言われていた。セントラル・アパートがあった頃からの住人なので、古き良き原宿を知っている。
 ヒルズの高級ブティックには、渋谷のんべい横丁で知り合った若いムスメが働いている。就職が決まったので、ぜひ遊びに来て欲しい、と誘われていた。
 イーズカは営業帰りなので、ブラックスーツにピカソのネクタイである。エラそうに説明を聞き、メンズコーナーをひと巡りした。
 高級ブティックでは格好も風貌も派手なので、いつも丁重な扱いを受ける。

 それから交番裏のポロの直営店を覗き、ナイキとプーマを見てから新宿に向かった。
 青山通りから表参道を下って原宿駅までは、お決まりの散歩コースである。

 青春時代この周辺の店で遊び歩いていた。当時付き合っていたオンナたちの顔が蘇る。
 全員がイーズカを返品して去って行った。

 故に、現在も「嫁探し」が続いている。


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