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2023年 ベストアルバム

ベストアルバムというよりかは印象に残ったアルバムという感じかもしれない、順位は特にないです。レビューも軽かったり固かったりするけど特に意図はないです。


Mitski / The Land Is Inhospitable and So Are We

2018年作で(タイトル上は)カウボーイになったMitskiがバイオリンやスチールギターを携えて帰ってきてくれました、本当にありがとう。Mitskiの凄さは大胆さにあると思ってて、変にアレンジを複雑にしようとしたりせず、曲の持つ力だけで勝負してるってイメージがあったけど今作はMitski史上一番丁寧な作品だと感じた。前作のシンセポップ路線は個人的にうーん…って感じだったけど、今作のアメリカーナ路線は大当たり、完全にオリジナルなアルバム。バイラルヒットしたMy Love Mine All Mineはシンプルな構成でいかにも名曲!な感じで色んなアーティストにこれからカバーされるんじゃないかと思う、こういう最初から最後まで同じコードで突っ切る曲好き(CommodoresのEasyみたいな)、あとコード進行はCreepと一緒ですね。来日まじで待ってます。


Troye Sivan / Something To Give Each Other

アルバムカバーから分かるように至極ヘドニスティック(快楽主義的)なアルバムでそのコンセプトが好みだった。とりあえずRushがいい曲。リフレインの"I feel the rush"は気持ちの高まりのことと同時にラッシュ(薬物)の暗示にもなっていて、ドラッグ(とセックス)のことを歌うダンスミュージックってゲイカルチャーを象徴する要素が揃っていてまさにアルバムそして彼のキャリアを代表する一曲。One Of Your Girlsはストレートの人を好きになってしまった曲、コーラスの"I'll keep it a secret(秘密にするよ)"とか"if you ever get desperate(もし自暴自棄になったら)"みたいなフレーズが報われなさを増幅していて、なおも彼は"I'll be like one of your girls(君の女の子の一人になる)"と相手の前では男ですらないという…(泣)
Got Me Startedは大胆にBag RaidersのShooting Stars(ミームで有名な曲です)をサンプリングし、ある意味セックスをユーモアで屈折させるアレンジは秀逸。


Hirano Taichi / Via

御殿場拠点のSSW。内省的な歌詞やアンビエントを経由したアレンジはフランク・オーシャンや小袋成彬を思わせるが、より生々しい身体の熱を感じるというかエモーショナルなアプローチを大切にしているアルバムだと感じる。前半が抽象的な反面、daily sighsでは何気ない、しかし上手くいかない生活が描写され、"5時前のニュースが数字を知らせている"(コロナの感染者数のことだと思います)と、具体的に社会が個人に及ぼす影響が示唆される(もっともその逆こそ重要だが)。アルバムの中で自分が一番印象に残ったのはお金で寝る身体で、身体を売るという行為を起点に他人へのエンパシーを見出してゆくのは新鮮だった、必聴。愛知県出身のラッパーREINOをフィーチャーしたmonologueは真剣さを一旦リセットするような効果をアルバムにもたらす。"でも誰より 信念ならストレート"と自嘲的に歌うその軽やかさはアルバムの中では異質であるが、ある種スパイスとして彩りを加えている。アルバムのタイトルのViaにはどのような意味が込められているのだろうか、個人の声を社会に届けるために経由されたアルバムそのもののことなのかもしれない。アルバム一曲目のsun beamsで「溢れ出す歌よ この森を越えて 響け」と歌われているように。


Boygenius / The Record

すごく長くなってしまったので別で書きます。


Le Makeup / Odorata

大阪拠点SSW、待望のアルバム。前作がかなり自分自身のことにフォーカスした内容であったのに対し、今作はより他人との関係性について歌われている。先行シングルのDressは"ドレスの裾"と"臭い道頓堀"の並置とか綺麗なままで終わらせない歌詞が葛藤を象徴しているように感じられる、それと"おれらいつまでこのままなん?"という関西弁でのアプローチもいきなり景色がガラッと変わるようで面白い。JUMADIBAをフィーチャーしたAliceは環七や井の頭、渋谷といった東京的な固有名詞が飛び出しながら、Le Makeupは親しい人に手紙を返すかのように心の内を曝け出す。そしてThe 1975のShe's Americanを思わせるぼくらはまだ、アルバムで一番つかみどころのないMall Boyzの二人(Tohji, gummyboy)をフィーチャーした2 stepナンバー、Playとアップテンポな曲が続く。彼のシグネチャー的なストリングスが印象的なカラブリアでは前作にも登場する"泳ぐエイ"という表現や、彼がプロデュースしたDoveの曲名にもある"あたらしい身体"というフレーズをちりばめながらあまりに正直にナイーブに思いを歌う、アルバムのハイライトとも言える一曲。ちなみに筋肉少女帯の僕の歌を総て君にやるから影響を受けたらしい。アルバムの中であなたは君だったりお前だったりするわけだが、定まらない二人称は不安定な時代とも共鳴し、なおも捉えづらい"僕"や"俺"を通過して音だけは確信を備えて響いてゆく。


MARO / Hortelã

ポルトガル出身のSSW。ジェイコブ・コリアーとのコラボや、ユーロビジョンへのポルトガル代表としての出演など輝かしい経歴を持ってるのにも関わらず今年のアルバムが出るまで知りませんでした…。基本的にフォーキーなアレンジにハスキーの彼女の声が載っているというシンプルな内容ではあるが、どれも最高のサウンドが鳴っている。一曲目(なんか最初にリリースされてから曲順変わった気がするけど現在は一曲目です)のoxaláが超名曲で、もちろんポルトガル語はわからないけど数本のギターと吐息混じりの発声になんども魅了されてしまう。ユーチューブで偶然見つけたんだけど再生するやいなや今年のベストソングだと確信した。どうやらoxaláはhopefully、願わくはみたいな意味らしく、願わくはあなたも同じ気持ちであってほしい…みたいな切ない感じの歌詞だそう。かなり暗い雰囲気の歌ばかりの中、ouvi dizerのイントロの静かな高揚感、コーラスの言葉にならないフレーズ、跳ねるようなアコースティックギターのサウンドが終始暗い(アルバムカバーのように)雰囲気にしばしの明かりをもたらす。


Sufjan Stevens / Javelin

そもそも"Goodbye, Evergreen You know I love you (さようならエバーグリーン、君も僕の愛をわかってくれてるだろ?)"という歌い出しで号泣してまうのに、この後にもアンセム級の名曲がいくつも続く恐ろしいアルバムです。4月になくなったパートナーのエヴァンスに捧げられ、内容もそれに準じた(パーソナルな)ものだ。一曲目のGoodbye Evergreenでは上記の歌い出しに彼は次のように補足する。"But everything heaven sent Must burn out in the end (だけど天国から送られるものは最後には燃え尽きるんだ)"、evergreenとは彼のパートナーのエヴァンスのことだが、文字通りのevergreenには色あせないものという意味もあり、その点で「最後に燃え尽きる」という表現が生きてくる。そして、ここではスフィアンはキリスト教のモチーフも使用することで自身の信仰についても語っている。天国から〜の部分はある種諦観(キリスト教ではそのようなものだからみたいな)のようにもこの時点では思えるがどうなのだろうか。少しするとクワイアが歌い始め、"I'm pressed out in thе rain Deliver me from thе poisoned pain (雨の中に追いやられ、毒のような痛みを持つ僕を救ってくれ)"と彼が悲願したところで皮肉にも(?)たくさんの楽器が壮大に、またユーフォリックに響き始める。そしてその後彼とクワイアが歌うのは歌い出しの"Goodbye, Evergreen You know I love you"の部分だけだ。何度も繰り返され、織物のように編まれてゆくフレーズは諦観のようには聞こえない、むしろそれは彼を失ったやりきれなさ、その喪失を受け入れられない現状、そして彼への愛は尽きないということを体現しているかのようだ。例え彼は燃え尽きる運命だったとしても、だ。キリスト教的な思想をスフィアンの感情を上回る形でこの曲は終わる。またWill Anybody Ever Love Me?では"Tie me to the final wooden stake Burn my body, celebrate the afterglow (最後の木杭に僕をくくり付けて燃やしてくれ、夕焼けにひたるみたいに)"と歌い、魔女狩りのような光景が浮かぶ。クィアでありながらクリスチャンである彼(様々な曲でその二つは主題になっている)にとっての葛藤が読み取れる。コーラスでは"Will anybody ever love me? (僕を愛してくれる人は現れるの?)"と繰り返し、アウトロでは彼は"My buring heart (僕の燃える心")と繰り返し歌う。燃えているのは身体ではなく彼の心であり、燃え尽きることがないようにと自分に言い聞かせているようにも思える。burning heartは聖書的にはキリストから愛される経験のことを象徴するらしい。彼のクィアとしての愛、そしてクリスチャンとしての信仰は相反しながらどこか似ているのではないか。


Jonah Yano / Portrait of a Dog

広島生まれカナダ育ちのJonah Yanoの三年ぶりの新作はBADBADNOTGOODも参加し、ジャズを基調にしたアルバムだ。(余談だが、個人的にBADBADNOTGOODのメンバーのLeland Whittyの2022年作が好きだったので参加してくれてとても嬉しい。) シングルカットされたAlwaysは前半は彼の2020年作のような艶やかなネオソウル風な雰囲気だが、歌が終わるとピアノのインプロヴィゼーション的なフレーズが奏でられ、それにドラムが追いつくような形で思い切りジャズへと傾倒する。このアルバムを代表するような一曲だ。Glow Worms(原曲はVashti Bunyan)でも似たようなアプローチはとられており、歌が終わり、ギターソロが始まる。サイケともとれるようなその歪みは反復されるピアノのフレーズと混ざりながら聴くものに陶酔感をもたらす。"And how do I keep the living room intact? (リビングをどうすれば完全なまま残せるだろうか)"と歌うsong about the family houseはギターと歌だけの簡素なアレンジで、その親密さは歌詞をよりパーソナルなものにする。また、主題の思い出やつながりという点では前作収録のshoesと重なる部分もあるように思える。正直歌詞は詩的で難しいのでそこまで踏み込めて理解できていないが、内省的な弾き語りとダイナミックなジャズアプローチがバランスよく合成されたアルバムだと感じる、全然音を追うだけでも楽しい。

Romy / Mid Air

打って変わって、The XXのメンバーのRomyのソロデビューアルバムはより簡易で開かれた歌詞を伴っていた。それはダンスミュージックという土壌(リズムを重視する)というもあるのだろうが、それ以上に彼女は明確な言葉を意識しているように感じる。一曲目のLoveherの歌い出し(というよりセリフ)は"Can you turn it up a bit more? Thank you (ちょっと音量上げてくれる? ありがとう)"は示唆的だ、彼女がダンスミュージックに救われたように、このアルバムが誰かにとって思い切り浸れるものであって欲しいという意図が読み取れる、楽しい時でも悲しい時でも。この曲で彼女はloveに付随するherという代名詞を堂々と歌う、まるでこのアルバムはセーフスペースだと宣言するかのように。続くWeightlessやThe Seaでも彼女は一貫してherという代名詞を使う、youでも意味は通るがあえて彼女はherを選択する、それまでダンスホールに響いていなかった分を取り戻していく。アルバムのハイライトとなるのはやはりFred again..をフィーチャーしたStrongだろう(Fred again..は全体的にアルバムに参加しているがフィーチャーされているのはこの曲だけ)。堂々とherという代名詞を歌った彼女がこの曲で繰り返すのは"You don't have to be so strong (そんなに強がらなくても大丈夫だよ)"というフレーズだ。トランスのビートを追い風に彼女は強くあることをある意味で強制されるクィア達に語りかける、また彼女自身にも。インタールード的にEnjoy Your Lifeの前に差し込まれるMid AirはカナダのミュージシャンBeverly Glenn-Copelandをフィーチャーし、きたるEnjoy Your Lifeの高揚感を演出する。Beverly Glenn-Copelandについて説明するべきかもしれない、彼はアメリカ出身でカナダ在住のミュージシャンであり、70, 80年代にリリースしたコンテンポラリーフォーク、先見的なニューエイジやアンビエントなどは長らく評価されていなかった、が近年コレクターなどによる再発見で遅れて評価されてきている…といった感じだ。彼のLa Vitaでのフレーズ"My mother says to me Enjoy your life"はEnjoy Your Lifeで見事なリフレインとして新しい姿に生まれ変わっている。サンプリングは単に楽曲を引用する行為ではない、その曲に内在する文脈も同時に引き継がれる。素晴らしい音楽を作ったのに無視され続け、そして黒人トランス男性としてアメリカを出る決断をした彼の声をダンスフロアに上げ、その意思を継承していく(彼も今年新作を約20年ぶりに出したのでそちらも聞いてみてください)、そしてこのアルバム自体もまた若いクィア達へと届けられる、だから彼と彼女は"人生は楽しまなくちゃ"と歌うのだ。

Blake Mills / Jelly Road

初めて聞いた時、"天才だ"と確信した。Blake MillsはMutable Set(2020)を聞いたことがあり、ミニマルでアンビエントなフォークというかこう言う感じの人なのか〜と思っていた矢先、表題曲のJelly Roadに衝撃を受ける。どうやったらイントロのキラキラした感じが出せるんだ??全体的に録音がすごすぎて終始呆気に取られる。そしてアヴァンギャルドとポップのバランスも素晴らしい、一番歌物よりであるだろうSkelton Is Walkingはアコギのリフが印象的だが、所々カントリーやアメリカーナを感じさせるアレンジでアメリカーナにハマっている自分に刺さった(Mitskiもそう)。そして約3分に及ぶギターソロも彼のギタリストとしての旨みが濃縮されていると思う。UnsignableのもこもことしたキーボードはフィービーのPunisher(Ethan Gruskaプロデュース)を思い出すし、Press My Luckの感情的な楽器はDijonのcoogie(MK.geeプロデュース)を思い出す。Ethan Gruska, Mk.geeそして彼のカリフォルニア変態録音三人衆に名前を付けたい、カリフォルニア音響派みたいな。


以上、他にもCaroline Polachek, Cisco Swank, mark william lewis, Leith Ross, Beach Fossils, yeule, noname…

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