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長男に私の遺産を相続させたくありません。相続権を奪うことはできないのでしょうか。

長男に私の遺産を相続させたくありません。相続権を奪うことはできないのでしょうか。


【お困りの内容】

・相続人が暴力を振るったりするなどの著しい非行があり遺産を相続させたくない。

・著しい非行により家族で共同生活を営めなくなった。

【相談の一例】

 妻に先立たれました。息子が二人います。
 息子1は、結婚して家族を持ち、家を購入するなどして、妻の介護にも協力的でした。息子2は、結婚したと思ったらすぐに離婚して実家に戻ってきたのですが、全く生活費を入れず、長期間にわたって働きもせずに生活しております。息子2は、私に向かって、暴力を繰り返し、小遣いを出すようにせびるようになり、先日は突き飛ばされて頭を強く打ってしまって脳出血であるとの診断を受けて入院まですることになりました。また、息子2は、暴言を繰り返し、早く死ね、早く土地建物をよこせなどと述べるなど、酷い扱いを受けています。私は、身の危険を感じたので、息子1と同居することにしました。
 絶対に自宅の土地建物を息子2に相続させたくありません。


【回答】

 民法892条は、「遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。」と定めています。
 相談者様は、息子2から、繰り返して暴行を受ける等して自宅に住めない状態になっており、遺産を相続させたくないとの意向をお持ちです。
 家庭裁判所に相続人の廃除の申立てをする方法があります。この場合は、家庭裁判所は、息子2に答弁書の提出と、審判手続の期日の出頭を求めますので、相談者様が廃除の申立てをしたことを、息子2に知られることになります。
 次に、相談者様が、息子2を推定相続人から廃除する内容の遺言書を作成する方法があります(民法893条)。この場合は、相談者様が亡くなった後に、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の申立をし、家庭裁判所が廃除に当たるかどうかを判断をします。

【今後の方針】

 ここでいう廃除は、相続権をはく奪することをいいます。

 実務上、家庭裁判所は、廃除に当たる事実(虐待、重大な侮辱、著しい非行)の有無を審理するとともに、相続人の改心の情はあるか等の様々な事情を考慮して、後見的な立場から廃除が相当であるかどうかを判断するといわれています。

 したがって、相談者様は、廃除に当たる事実(虐待、重大な侮辱、著しい非行)を明らかにする資料として、暴行を受けた際に取得した診断書、暴言を吐かれた際の録音物、暴行を受けた際に記録した日記帳やメール、息子1が相談者様と息子2の関係を供述する陳述書等の証拠を集める必要が出てきます。

 家庭裁判所に提出する申立書は、このような証拠を収集して整理した上で時系列等を明らかにして相談者様のご主張をわかりやすく伝える必要がございます。

 生前に相談者様が廃除の申立てをする場合も、死後に遺言執行者が廃除の申立てをする場合も、客観的な証拠を整理しておくのは必須であると考えます。

 いずれにしても、生前に廃除の申立をすべきかどうか、遺言で廃除をすべきかどうか(遺言執行者を誰にするか)、家庭裁判所が廃除を相当と認めるような事案であるのか等の判断が必要になりますので、事前に弁護士に相談をして対処することが肝要です。




【民法の参照条文】

(推定相続人の廃除)

 第892条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

(遺言による推定相続人の廃除)

 第893条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。


【東京高等裁判所の決定例】

 東京高決平成4年12月11日判時1448号130頁

 父母が娘を相手方として「重大な侮辱」、「著しい非行」に該当するとして推定相続人廃除の申立をした事案に関する決定例です。

 同決定は、「民法第892条にいう虐待又は重大な侮辱は、被相続人に対し精神的苦痛を与え又はその名誉を毀損する行為であって、それにより被相続人と当該相続人との家族的協同生活関係が破壊され、その修復を著しく困難ならしめるものをも含むものと解すべきである。」と一般論を述べました。

 その上で、同決定は、娘が中学校及び高等学校に在学中に少年院送致を含む数多くの保護処分を受けたこと、満18歳に達した後も、暴力団員の幹部と同棲し婚姻届けを出した後に、父母が同人との婚姻に反対であったことを知っていたにもかかわらず、披露宴の招待状に父の名前を印刷して父母の知人等に送付する等の行動に出たものであり、これらの一連の行為により、父母が多大な精神的苦痛を受け、名誉が毀損され、父母と娘との家族的共同性格関係が全く破壊されるに至り、その後もその修復が著しく困難な状況となっていると述べて、父母の排除の申立に理由があると判断しました。

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