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寄附規制新法のブラッシュアップを考える

【寄付規制法案はセカンドベスト?】

今回の寄付規制法案を一言でいえば、セカンドベスト。もっと厳しく言えば、政府内の妥協のたまものと言えると思います。
なぜセカンドベストなのか。

本来のベスト案は、立法事実(規制の根拠となる出来事)のある宗教法人にまずは焦点を絞り、きちんとマインドコントロール規制まで入れるべきだと思うからです。

しかし、今回の政府案は、宗教法人に限らずあらゆる法人に規制対象を広げる一方で、規制する行為は狭くピンポイントかつマインドコントロール規制も入らないというものになっています。

つまり、対象を狭く行為を広く規制すべきなのに、逆に、対象を広く行為を狭く規制するものになってしまっているのです。
その背景には、やはり「宗教法人の問題にしたくない」「宗教法人が悪いのではなく違法な行為をする法人が悪いのだ」「だから宗教法人に限らずすべての法人を規制すべきなのだ」という政治的エネルギーが働いているのだと思います。

もちろん、この考え方もひとつのロジックではあります。でも、もしこのロジックにたって立法するなら最低限、宗教法人に限らず、その他の法人や寄付者にも広くヒアリングをし、寄附一般をめぐる課題や類型を調査しなければいけないはずです。宗教法人以外にも寄付規制をすべき出来事があるのかないのか、あるとしてどんなことが起きているのか、という調査です。

しかし、私の知る限りそうしたヒアリングはなされていません。
なぜしないのか。

その背景には、「今国会で終わらせたい」という与党の思惑と、「今国会で実績をあげたい」という野党の思惑の奇妙な合致もあるように思います。
では「今国会」という政治的目標に縛られて、中途半端な法律が成立して幕引きとならないように、何ができるか。

ベストを目指せればそれこそベストですが、セカンドベスト案(政府案)のブラッシュアップも考えておく必要がありそうです。

今日の夕方に公開されたばかりですので雑駁になりますが、私の考える現時点でのブラッシュアップを3点メモします。もちろん、この3点に限りませんし、いずれも不十分な改善案です。それでもなお、最後の最後まで少しでも救済の実効性が高まるように。

【改善1:規制する献金勧誘行為の範囲を広げる】

献金勧誘行為については、「霊感等による知見として、本人や親族の重要事項について、現在又は将来の重大な不利益を回避できないとの不安をあおり、又は不安を抱いていることに乗じて、当該不利益を回避するためには寄付をすることが必要不可欠であることを告げること」が禁止され取消事由となっています。

本人だけでなく親族の不利益も対象となり、あおり行為だけでなく乗じる行為も禁止された点は評価できるポイント。ただ、例えばこのままだと、「地獄から救うためには献金が必要不可欠」と言えばアウトですが、「地獄から救うために献金した方がいいですよ」はセーフになってしまいます。規制する行為がピンポイントすぎて、むしろ法人側に逃げ道を教えてしまっているような条文なのです。なので、たとえば「・・・当該不利益を回避するためと称して寄附を要求すること」ぐらいに広げることを検討すべきではないでしょうか。
この点は、消費者契約法改正案についても同じことが言えます。

【改善2:資金調達規制の範囲も広げる】

今回は献金を勧誘する行為だけでなく、その献金の出元にも着目して、「借入れや、個人等が居住する建物等の処分により寄附資金の調達を要求してはならないこととする」という規制も提案されています。

法人側に収入把握の正当化根拠を与えてしまう収入割合規制よりは、よい方向だと思います。ただ、例えばこのままだと、住まいではないけれど、大事な生活基盤である家族経営のお店を売却する場合はOKになってしまうのではないでしょうか。また、要求さえしなければ、「〇〇さんはローンを組んで献金してましたよ」というようなほのめかしはセーフになりますし、「もうお金がないんです」「どうすればお金がつくれるかご自身でよく考えてみてください」というようなやりとりの結果「分かりました。家を売って賃貸に引っ越します」と信者さんが最後自分で言ったような場合もセーフになります。現実的に十分ありうる場面こそ救済しなければいけないと思うので、もっと範囲を広げるべきでしょう。

具体的な改善案としては、例えば「借入れや、個人の居宅など生活基盤をなす建物等の処分により寄附資金を調達することを知り、または知りうべき状況にありながら寄附を受けてはならない」というように工夫して、生活基盤を壊すような資金調達の「見て見ぬふり」や「ほのめかし誘導」まで規制することを考えてほしいところです。

【改善3:家族の救済範囲を明確化しておく】

債権者代位権の特例を作って家族の救済余地を広げる提案は評価できます。家族救済と財産権のバランスを図るためには、家族に被害を与えない高額献金にまで家族に取消権を与えるのは行き過ぎで、家族にまで被害が拡大している場合こそ救済することが必要。そのバランスにこたえうる提案だと思うからです。

この家族の救済で大切なのは、特に宗教二世の方々が、親の過度な献金により修学旅行に行けなかったり、奨学金まで献金されて進学の道が閉ざされたりという場面など、子どもたちの不利益を確実に救済することです。

今回の提案は、たとえば中1の子どもが必要な教育費を献金に吸い取られている場合、今必要な金額だけでなく、将来にわたって必要が見込まれる金額に至るまで、献金を取り消して返金を可能にするものだと理解しています(本当にそうなのかは、今後の議論をきちんと見る必要がありますが)。ここで大事なのは、「いつまでいくら」必要経費と算定されるのかという基準を詰めておくことです。たとえば養育費算定基準などは、収入と子どもの人数といった要素で決まっていきますが、その基準でいくのか、その基準で適切なのか、何歳まで確保するのか。宗教二世の立場にたって、できる限り十分な救済可能性を確保すること。この運用の成功は細部に宿るはずです。

まず今日の今日時点では、ここまでにさせてください。
明日以降、様々な方が多様な視点で問題指摘をされると思うので、またそこに学びながら、私も整理していきたいと思います。

効果的な救済を現実に可能にしつつ、過度の制約にならない、よい法律になりますように。

弁護士・国際人道プラットフォーム代表
菅野 志桜里

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