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日本語パングラムに趣向をこらす

この記事は 言葉遊び Advent Calendar 2023 に向けて書かれた記事です。

igatoxinです。アンビグラムがメインの人ですが、言葉遊びももろもろ嗜んでいます。
ここではパングラムについて書いてみたいと思います。ただし、パングラムの作り方についてはほとんど触れません

パングラムとは

日本語のパングラムはいわゆる「いろは歌」で、普通は日本語のすべての音を一度ずつ使って文を作る言葉遊びです。もれなくダブりなくということでMECEですね。

日本語パングラムにはいろいろレギュレーションがあります。いくつか挙げてみます。

  • 旧仮名48文字:あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわゐゑをん

    48文字にするのは(7+5)×2のリズムにするためで、作品もこのリズムにするのが好ましいとされます。「ゐゑ」があるので文語体+旧仮名遣いが望ましいです。
    48=17+31なので、俳句+短歌とする遊びもあり、作例も少なくありません(くらげを氏が得意としています)。

  • 新仮名46文字:あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわをん

    口語体+自由律ならこの形式が自然です。「つやゆよ」は「っゃゅょ」にしてもよく、濁音・半濁音にするのも許されます。

  • 新仮名48文字:あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわをんっー

    48文字にするためのルールの一つとして「っー」を付加するものです。

  • その他、清音/濁音/半濁音を違う文字としたり、拗音も別扱いするなど変態的なチャレンジもされているようです。

近年日本語パングラム人口も増えてきているようで、竹本健治氏を中心とするIRH48/KIZ48界隈や言葉遊び界隈でそれぞれ量産されています。私もいくつか作ったりしましたが、みんなが普通に作れるなら普通の物を作ってもつまらないなと思ってしまったのでちょっとひねったものを作りがちです。

趣向的パングラム

ここで趣向と言っているのは、いくつかの縛りを設けてパングラムを作るという意味です。縛りによってはパングラムではなくなる(MECEの意味で)こともあるのですが便宜的にパングラムとしています。以下に趣向と作例を示します。

本来の意味のパングラムは「漏れなく」が満たされていればよくダブりがあってもよいのでおかしい言い方ではないのではあるが。


確認しやすくする手法

パングラムの面倒なところとして、MECEの確認(作り手も読み手も)だと思います。これの解決方法としては確認しやすい単位にまとめたものを並べるという方法が考えられます。

(1) あいうえお1(46)

 愛追う絵劇過酷阻止させず 太刀取って布に寝な 歩は墓碑へ豆も無味 湯屋よ理論を割られる
 (あいおうえけきかこくそしさせす たちとつてぬのにねな ふはほひへまめもむみ ゆやよりろんをわられる)

あ行、か行、.....順に固まりごとにと並べることでちゃんとMECEが確認しやすいと思います。最後だけ「ら行+わ行」になっているのがいまいちでした。

(2) あいうえお2(46)

 青い植木が転け草阻止せず「どっち?」「立てぬ」なのに根は墓碑へ踏み揉む目眉よやられる理論和を
 (あおいうえ きかこけく さそしせす とつちたて ぬなのにね はほひへふ みもむめま ゆよや られるりろ んわを)

(1)の最後の部分を解決したものです。中身も変えていますがどっちが良いかは読者に委ねます。


(3) あいうえお3(48)

 愛追うエコ企画 消させずそして散った 夙に布ね名はボブヘビーも無味 豆屋よ揺れろ瑠璃ラワンを
(あいおうえ こきかくけ させすそし てちったつと にぬのねな はほふへひー もむみまめ やよゆ れろるりら わんを

46音+「っー」の48文字でやってみたものです。「っ」はやはり「た行」におさめたいですね。

旧仮名では竹本健治氏が後追いですぐに作ってくださっています。七五調にまとめ上げているのがさすがです。

桜影置くか痩け来し瀬
砂洲蘇鉄立ち戸の音似ぬ
なほ蛇這ふも夢魔眼見ゆ
弥撚れる理路ら違和を怨
(あうえいお くかこけき しせさすそ てつたちと のねにぬな ほへひはふ もむまめみ ゆやよ れるりろら ゐわをゑん)

X:@takemootoo
https://twitter.com/takemootoo/status/400323762102353921


(4) あかさたな(46)

 綿花等咲かん山間に路仕切り 緋映す温湯汲む 触れてけ攻めへ ねえ頬よ衣の外を
 (わたはならさかんやまあ いにみちしきりひ うつすぬるゆくむふ れてけせめへねえ ほおよころものそとを)

あ段、か段、……と順番に並べる方法です。あ行はいくらでもできそうだし、え段は難しいのがはっきりわかる手法です。


(5) ルーク語(46)

 旗ならわんさか山間に満ちし霧緋含む温湯映す背経て蹴れねえ目も頬他所のところを
 (はたならわんさかやまあ いにみちしきりひ ふくむぬるゆうつす せへてけれねえめ もほおよそのところを)

(4)をルーク語になるように改作しました。縦のつなぎが固定されるのは意外にきつい縛りです。


別の言葉遊びを追加する手法

言葉遊びを嗜む方であれば、複数の言葉遊びを混ぜてやってみたくなるのは自然だと思います。組み合わせ可能そうなものをいくつか試してみました。

(6) 継母聞き耳(44×2)

 嗚呼ほぼ此処も武士踏む虫死ぬ沼 街血包み見たたわわに憎く
 支え得る瑠璃利は爆ぜ零 露やや覆う麗らか鐘寝てて響け蹴れ
 霊嘶き消ゆ夢召す術経よ余所外と
 (ああほほここももののふふむむししぬぬま まちちつつみみたたわわににくく ささええるるりりははせせろ ろややおおううららかかねねててひひけけれ れいいななききゆゆめめすすへへよよそそとと)

 新仮名46文字のうち「をん」以外の44文字で継母聞き耳したもの。意外と全文字消化できます。最初は辛うじて雰囲気が伝わりそうな雰囲気がありますが、結局意味は通っていないですね。
「もののふ」「いななき」のような「ABBC」型がたくさん使えると自然な文章に近くなるはずです。


(7) 継母聞き耳(46×2)

「を……ヲタ」「縦」「敵」「絹」「沼」「麻痺」「昼」「留守」「砂」「何」「偽」「世話」「鷲」「塩」「音」「徒歩」「法」「上」「餌」「犀」「色」「6」「蔵」「ラム」「無理」「リハ」「晴れ」「Leh」「部屋」「闇」「味噌」「祖父」「舟」「猫」「苔」「ケア」「鮎」「夢」「メモ」「餅」「千代」「余暇」「カツ」「角」「のん」「ん!」

「をん」も入れ込む手段としてしりとりで会話してる形式を導入しました。ずるいかも知れませんが、ギミックとしては良い思い付きなのではないでしょうか。清音縛りもクリアできています。
作る上ではかなり辞書頼りになるので新しい語彙に当たって楽しいです。


(8) 全部濁点(48)

 会津で無様和田ラヂヲ 脱げれば延びる盆踊り エッグギモーヴ闇鍋に 五時寝ず読むぞ夢が零
(あいづでぶざまわだらぢを ぬげればのびるぼんおどり えっぐぎもーゔやみなべに ごじねずよむぞゆめがぜろ)

 濁点にできる文字をすべて濁点にする縛りです。ちゃんと七五調なのがよいと思います。「ヴ」も解決できているのが加点ポイントかなと思っています。
「ギモーヴ⇒闇鍋⇒エッグ」の流れを見付けたのであとは残りをうまく消化すればよいのですが、全体的に関連がある感じにはできませんでした。


(9) 転文(48)(回文 48×2)

 割る旨はキー消すし 禍あれ冬の姫そろい とっさに選り抜くよ 何ら待つ谷地も 推せ民を候補経て/手へ宝庫を満たせ おもちゃつまらんな よく塗り絵にさっと 色染め緋の湯フレア カシスケーキは眠るわ

逆から読むと別の文になる転文にしてみました。あまり練りこまずにこの程度の物ができたので、もっといいのはできそうな雰囲気です。「割る旨~経て手へ~眠るわ」として回文としてしまうのも可能です。
既に知っている回文のかけらの中からダブらないように文字を選んで間をうまく繋ぐだけなのですが、言うは易し行うは難し。


(10) 畳文(48×2)

《糠・べそ・和本・姉様・艶・ニヒル・目鼻・嬰児・疾駆・太陽フレア・物置・テロ・下衆》チームを揺らせぬ壁。《岨・本音・餌・松脂・日孁・花見鳥・ゴシック体・養父・レアもの・掟・ロゲ》スチームを揺らせ

自分のスキルではパナマ式にするしかなかった上に同じ言葉(揺らせ)を使ってしまっているので出来はよろしくないです。

この趣向発表後、竹本健治氏がすぐに後追いで作ってくださっています。旧仮名の強みが出ている箇所もありつつ、現代語も織り交ぜてようやく、ということで相当な難易度なのが分かります。

好んだ紅、通り道、楓舞ふ、末老ゆる瀬、鵺、櫓に音、お山葵染めよ、秋模様摘む、ケバい白子、呑んだくれな井戸掘り、見違へて、まぶす絵を許せぬエロに、ネオ技ひそめ、世飽き、靄、俯けば医師ら

x:@takemootoo
https://twitter.com/takemootoo/status/718053656877146112



皆様におかれましても、ここにのせたレギュレーションでもっといいものを探ってみたり、べつの面白い縛りで作ってみたり、いろいろ試してみてはいかがでしょうか。

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