【独自】10年1000億円投資の「石神井川上流地下調節池」の必要性・正当性はどこに?都は独自手法で不適切な被害試算を活用していたことが判明。
1 はじめに
石神井川上流地下調節池について、東京都が、事業の被害試算の算出を国交省のマニュアルに反した独自の手法を用いり、その結果、この事業の費用便益分析(B/C)の数字が異常に釣り上げられているのではないか、を問題提起したいと思います。3月14日の予算特別委員会で東京都に質しましたので、備忘録的に残します。
石神井川上流地下調節池とは、平成28年3月の「石神井川河川整備計画」に位置付けられた、年超過確率1/20の規模の降雨に対応する施設。南町調節池と溜渕橋から上柳沢橋間から洪水を取水する総容量約30万立米となる地下調節池です。
この事業は、10年間で約1000億円の大事業。東京都は住民に説明していると言いますが、中央公園の近隣の住民もこんな大きな事業が行われることをほとんど知りません。
既に、武蔵野市の武蔵野中央公園では、本年2月26日から準備工事が始まっています。本体工事は令和7年度から始まる予定で、まだ工事の受注者も決まっていない段階です。
2 費用便益分析に疑義
(1) 現時点でもB/Cは1ぎりぎり
きっかけは住民説明会です。
東京都が本年2月22日と23日に千川小学校で住民説明会を開催しました。私も2日間参加しました。参加した市民から、「事業費いくらか」と質問がありました。
東京都は、「989億円」と説明したので、市民が「ええ!なんで1.5倍になるの?」と驚いたのです。
確かに、東京都は昨年の令和5年1月18日、1月22日の住民説明会では、「事業費は600億円」と説明していました(議事要旨)。
市民は「なぜ、1年で工事費が1.5倍にもなるのか!?」と。1年間で400億円も増えたら驚くのも当然。もっともだと思います。
東京が説明する事業費の金額は、調べたら、バラバラでした。
・令和5年1月18日、1月22日の住民説明会では、事業費を「600億円」
・令和5年1月27日公表の令和5年度予算公表では、「989億円」
・令和5年11月27日の 河川整備計画査定専門委員会提出の資料には「877億円」
・令和6年1月26日公表の令和6年度予算公表では、「1073億円」
・令和6年2月22日、23日の住民説明会では「989億円」
この2年で住民や都民への説明として、600億円、877億円、989億円、1073億円の4パターンもありました。
<Q なぜ、こんなに市民に対して説明した金額が違うのか?なぜ1年で約400億円も工事費が増額したのか。>
物価上昇といいますが、たった1年前の説明から翌年に急に「389億円」も増額したら、市民が驚くのも当然です。
しかも、東京都は昨年の住民説明会の5日後に公表した令和5年予算概要で事業費が「989億円」としています。つまり、建設局は、昨年1月の時点で事業費が989億円と知っていたのに、市民には「600億円」と説明しました。おかしいと思います。
今後の住民説明会では、改めるべきでしょう。
こうした値上がりが何に影響を与えるかというと、コスト増です。
コスト増は、「費用便益分析」に影響を与えます
(2) B/Cの概要
費用便益分析のことをB/C(びーばいしー)といいます。
公共事業では、「費用便益分析」という方法が用いられます。
費用便益分析とは、事業から生じる効果を費用と比較して事業の投資効果を評価するものです。
簡単に言えば、ある事業の実施に要する費用(建設費、維持管理費等)に対して、その事業の実施によって社会的に得られる便益(災害の減少による人的・物的損失の減少、環境の質の改善等)の大きさがどのくらいあるかを、客観的に見るものです。
国土交通省も所管公共事業の評価結果の信頼性を一層高める観点から、費用便益分析に係る計測手法、考え方などの整合性の確保、手法の高度化をはかるための共通指針を出しています(公共事業評価の費用便益分析 に関する技術指針(共通編)令和5年9月国土交通省)。
<Q.B/Cが1を切ったものはあるのか?>
当たり前ですが、もし、B/Cが1切ったらその事業は、費用が便益を上回るということですから、事業の必要性や費用対効果、公共事業の進め方を検証する建設局事業評価委員会でも当然、「優先度は極めて低い」ということになります。それくらい重要な数字です。鉄道なんかではB/Cが10を軽く超えるものもたくさんあります。
令和5年11月27日の第17回河川整備計画策定専門家委員会でも「事業の優先順位はB/C」と指摘されています。当たり前ですが、費用を便益が上回らなければなりません。
ア 物価上昇の影響
この事業、上述の通り、もうすでに令和6年度予算でコストが1,073億円です。
ということは、B/Cで考えると、既に現時点でB(便益)1,154/C(費用)1,073。B/Cは「1.07」です。既に、ぎりぎり1です。
その上、もし来年も84億円値上がりしたら、B1154億円/C1157億円で、なんと0.9です。1切ります。もう既に現時点で、1ぎりぎりの事業といえますが、このままいくと、来年は0.9になります。
東京都が発行する予算概要を比較して頂くとわかるのですが、他の全ての調節池事業でも、資材が高騰し、コストが増額しています。
これ費用値上がりして、費用便益分析は大丈夫なの?と思い、色々と調べていったら、とんでもないことが判明しました。
イ 本事業は1.31
石神井川上流地下調節池のB/Cは、「1.31」です。
ウ 国交省の採択のために必要なもの
これは、東京都が国から50パーセントの補助を受けるために、諮った専門家会議に提出した資料です。つまり、国に500億円補助してもらうための資料です。
<Q.令和5年11月27日作成の「石神井川上流地下調節池の整備事業」の資料は、誰に要求されて誰が作成してどこに提出したものなのか。>
つまり、石神井川上流地下調節池のB/Cが「1.31」と記載のある資料は、都が、国に対して、補助採択してもらうためには必須の専門家会議にかけるために作成したものです。
(3)数値が不適切 ここが最大のポイント!
本来42.7億円とも思えるが、2ケースの被害想定により、年平均被害軽減期待値が倍以上の「85.4億円」になっている。
ちなみに、質疑の事前のレクでは東京都はこの資料を既に国交省に提出したと説明していましたが、予算特別委員会質疑の朝になって突然、「まだ国には提出していない」と説明を変えてきました。令和6年3月末までに国交省に提出するようです。本当にいい加減な説明です。
さて、この事業、便益1154億円と記載されています。
<Q.この根拠は。>
ここには、1/2から1/10の2ケースが計算されています。これがこの問題の核心です。
まず、なぜ東京都は1/2.0から計算しているのか?
ちょっと専門的になるので読み飛ばしてよいですが、もし仮に3年確率で計算するとして、1/3.0からスタートすると、区間確率が狭くなり、0.4ではなく0.23になるので年平均被害額49.1億円になります。すると、B/Cは0.76になります。
仮に5年確率で計算すると、区間確率は0.1になり、年平均被害額21.4億円になります。すると、B/Cは0.33となります。
つまり、1/2ではなく、1/3や4から開始すると区間確率が狭くなるので、年平均被害軽減期待額が下がり、事業を50年間で積み上げると、B/Cが1を切ってしまうのです。
だから、なぜ東京都が1/2 からスタートするのか、とても重要なのです。
石神井川が氾濫しない雨の規模を「無害流量」といいますが、「無害流量」からスタートしなさいとマニュアルには書いてあります(27頁)。東京都の計算は、無害流量が1/2からスタートしてるので、まず、石神井川の無害流量が2/1なのか、すなわち、石神井川は2年に1度の規模の雨なら氾濫しないが、3年に1度の雨で溢水により被害が出るのか、確認する必要があるのです。
<Q.石神井川は、1/2が最小超過確率なのか。>
東京都は、石神井川の無害流量すなわち溢水被害が出ない規模を、2年に1度の雨の規模、と答弁しました。
石神井川は、2年に1度の規模の雨の場合には、被害額がゼロということです。なので、石神井川の無害流量が2/1は確定しました(なお、この根拠は現時点(3月末日)で未だ不明です。石神井川の無害流量が1/2であることの根拠を教えるよう求めていますが、一向に回答は返ってきません。文書質問を提出しようと思っているので、答弁は第2回定例会初日ここまで引き延ばされるのかもしれません)。
そして、2ケースのうちゴールは「1/10」となっているので、こちらもなぜ1/10なのか確定しておく必要があります。
なぜ、その疑問があるかというと、東京都は、ここでは、10年に1度の雨で調節池により427億円の被害軽減を想定しているのですが、そもそも、石神井川上流地下調節池は、「1/20の規模の降雨に対応」とあるので、1/20じゃないの?という疑問があるのです。そのため、なぜ1/20ではなく、1/10なのか、確認しておきました。
<Q.なぜ石神井川上流地下調節池整備事業は、20年に1度の規模の降雨の対策なのに、10分の1でいいのか>
<Q.なぜ東京都は2分の1と10分の1、この2ケースを二つの段で計算しているのか>
ちょっとわかりづらいのですが、治水事業全体は年超過確率1/20ですが、調節池のみが整備するのは、1/10でよいので、1/10からスタートします、と都は説明しています。その根拠は示しません。
どうやら東京都の説明によると、石神井川上流地下調節池は「未整備」なので10分の1から開始したとのことですが、とにかく、東京都の説明は、石神井川は2分の1の規模の雨ならば、溢水せずに被害はゼロだが、3年に1度の規模の雨になると溢水被害が生じるとしているようです。根拠は要求していますが戻ってこず、未だに不明ですが。
ひとまず、スタートは2/1、ゴールは1/10ということで定まりました。
実は、この2ケース設定がポイントですが、私には、この数値が「適切」とは到底思えません。
東京都は、「治水経済調査マニュアルに沿って」と説明しますが、実は、東京都の手法は、この国交省治水経済調査マニュアルに反しているからです。
何を言ってるかと言うと、マニュアルは、溢水被害が生じる被害額の想定を、6ケース程度想定することと、定めています。しかし、東京都は、たったの2ケースしか設定していません。
なぜ、マニュアルが、複数ケースを設定するように求めているかというと、より「なめらかに減少するように」つまり、より、正確な年平均被害軽減期待額を算出できるようにするためです。つまり、年平均被害軽減期待額、東京都は「85.4億円」としていますが、この金額が丁寧に積算されるように、ですね。
そもそもちょっと考えて頂きたいのですが、10年に1度の規模の65ミリの雨が降った時に、施設の有無で、427億円ものメリットがある。そうすると、1年間に平均すると、1年間で期待される被害軽減額すなわち年平均期待軽減額は、427億円を10で割って、42.7億円になるとも思えます。仮に、年平均期待軽減額42.7億円とした場合、
50年の事業で50年分積み上げて、現在価値化した費用便益分析は、
便益(B)=582億円
費用(C)=877億円
B/C=0.66 になります。つまり1を切ってしまうのです。
しかし、東京都の計算では、「85.4億円」です。なぜ、こうなるのか。
実は、この表の1段目が1/2.0(超過確率の一番上のケース)となっているところにカラクリ(トリック)があります。
本来ならば、ゴールとなる10年に1回の算出に向けて、3年に1回、5年に1回、7年に1回の規模の雨の被害を段階的に想定して、被害額を算出しなければなりません。
しかし、東京都のように、無害流量と1/10との2つのケースしか設定しないと、生起確率1/2の被害0円からいきなり1/10の427億円の平均213億円となり、生起確率0.4(0.5-0.1)をかけることになるので、平均の213億円に0.4をかけると、年平均期待軽減額は85.4億円という高い数字が出てしまうのです。
千葉県の資料の説明がわかりやすいです。
被害というのは、2年に1度の規模の雨なら被害はゼロ。3年に1度なら被害は少し。5年に1度の規模の雨なら被害は増え、10年に1度の規模の雨なら被害は大きくなる、というようになだらかに生じるのが実態です。
しかし、東京都のやり方だと、2年に1度の規模の雨で被害はゼロの次に、10年に1度の規模の雨で効果が427億円ということなります。東京都のやり方では、いきなり0円と427億円の2つの点の平均額をとるから、上記の表でいう赤い部分の面積が実態に比して過大になるように、年平均被害軽減期待額が高くなってしまいます。
だから、マニュアルでは複数ケース設定するように言っているのです。
そうしないと、マニュアルp27の<悪い例>になってしまい、適切な数値が出ないのです。マニュアルには、「年期待値の大部分を占める確率規模の小さいところが粗いため、年期待値の精度が低下する。」とあります。まさに東京都の数字は、2ケースしか想定してないので「精度が低下」した数字なのです。
その結果、東京都が算出した、B/Cは「1.31」になりました。これは精度の低い可能性が極めて高いものです。意図的にB/Cを釣り上げたと思われてもやむを得ないほどに、非常に杜撰な計算だと思います。
この点、東京都に質しました。
<Q.なぜ、国交省マニュアルでは6ケース想定しているがなぜ東京都は2ケースしかやってないのか?>
「東京都は2ケースで十分」とのことです。その理由は、2分の1と10分の1の間が「なだらか」だからのようですが、とんでもない答弁だと思います。0円と427億円の間が「なだらか」とは到底言えません。委員会では都はあたかも問題がないように答弁し、私の近くにいた都議も「納得」等とやじっていましたが、中身も理解しないままよく都の言い分をそのままうのみにできると思います。
しかも、こんな2ケースのみで計算しているのは、東京都だけです。
近隣の都道府県、神奈川、埼玉や千葉県も複数ケース実施しています。
千葉県の費用便益分析の考え方、平均軽減期待額についてわかりやすい資料があったので紹介します。先ほども紹介しましたが、これは、千葉県第7回都川流域懇談会資料4です。こうして超過確率を刻んで複数ケース計算することで、年平均被害軽減期待額が実態に沿ってなだらかに現れます。
千葉県は、複数ケース設定してやっています。
神奈川県も埼玉県も、「2ケースでは適切な被害額が出ない」と言っています。つまり、こんな杜撰な被害試算をしているのは、見たところ東京都だけです。
これでは、あえて、東京都だけが、国からの補助を受けるために不当にB/Cを1以上に操作しているとも私には思えます。
ちなみに、神田川・環状七号線地下調節池も20分の1と2分の1の2ケースで計算していることが、東京都への資料請求で判明しました。
なお、東京都は他の調節池は費用便益分析はやってないと言っています。
<Q.神田川・環状七号線地下調節池も2ケース想定の理由を教えて下さい。>
ここでは、質疑と答弁がかみ合っていないのですが、「全てが完成しているから」そんな理屈はどこにもありません。
2ケースでよい、合理的な説明になっていません。
超過確率1/2から始めるとしても、せめて1/2から1/10の間を区切って、国交省マニュアルのように数ケース設定すべきだと思います。
仮に、中島都技監の説明を前提にするなら、「東京都内の中小河川における今後の整備のあり方について(最終報告書)」を元に東京都は、10%65ミリとしているとのことなので、その理屈に基づき、同冊子の35ページの【表32】の3年47.6ミリ、4年52.2ミリ、5年55.6ミリの数字をいれて計算する必要があると思います。
そうすれば、石神井川上流地下調節池についても、正確な年平均被害期待額が出ると思います。
(4) 算定の基となる被害金額も過大になっている
ア 10年に1度の雨想定でも1000億円の被害で実態の感覚と合わない
実際には、1年に10%の確率で降る65ミリの雨で、とても大きな被害が出るという想定もかなり実態と乖離しているように見えます。
そもそも、東京都が提供した、「基礎数量・資産額・被害額」という資料の数字も過大に見えます。
仮定している溢水被害は、10年に1度の規模の時間最大雨量65ミリの雨で生じると想定していることです。
つまり、東京都は、10年に1度に65ミリの規模の雨が降ると、調節池がない場合は、1000億円の被害が生じ、調節池があっても600億円の被害が生じることになるとの想定をしています。しかし、石神井川をご存じの方に聞きたいです。あまりにも現実とかけ離れているのではないでしょうか。
私も今年の2月、何度か石神井川沿いを歩きました。
石神井川の水はカラカラ。通りかかる住民に聴いたら、豪雨でも川が溢水しているのを見たことないとのことでした。
そこで、石神井川の過去の浸水被害の状況と原因のデータを調べました。
石神井川の「有堤溢水」(川の氾濫)の記録としては、近年、「溢水」による被害が出たのは平成17年9月4日の台風19号の豪雨(時間最大雨量109mm)のみです。この100mmを超える豪雨時にも、北区の高潮による被害を除けば、被害は練馬区内の床上浸水5軒、床下浸水27軒のみで合計32棟の被害。これも河川の狭隘箇所で発生しています。
32棟の被害に比して、石神井川が実際に、10年に1度、1000億円の被害が生じるとは思えません。
国交省マニュアルp27にも「著名な水害で、できるだけ近年のもの」を考慮して被害を算出することになっています。しかし、東京都はこうした実態は無視して、架空の被害額を入れて算出しています。
つまり、近年の履歴で貯水池容量の不足に起因する被害はない中で、約1000億円を投じて地下トンネル式の調節池を建設することは過大な投資になるのではないかと思います。
石神井川の現地は、西東京市側は既に十分な調節池があり、今回の取水口となる南町調節池は1度も満水になったことはありません。
また、下流の練馬区側は、着実に護岸整備が進んでいる上に先日は隣に敷設してある西武新宿線の立体交差化事業が着手になり、護岸整備で川のボトルネックは解消できます。
今後、さらなる溢水のリスクが軽減されていきます。
イ なぜか「氾濫図(時間最大雨量65ミリ)」がハザードマップ(時間最大雨量153ミリ)より浸水エリアが広い
しかも、東京都からあとから提出してきた資料に「氾濫図」があります。西東京市と練馬区が作成したハザードのマップと合わないという疑問もあります。
どういうことかというと、東京都が便益を算出した際に元とした「氾濫図」は西東京市や練馬区が出しているハザードマップよりの浸水図(時間最大雨量153ミリ、総雨量690ミリ)より、浸水領域が大きくなっています。1年に10%の確率で65ミリの雨が降った場合の想定としては異常ともいえる大きさです。なぜ、ハザードマップのほうが浸水領域が狭いのでしょうか。理解できません。
<Q.なぜ、時間最大雨量153ミリのハザードマップよりも、65ミリの「氾濫図」の浸水エリアの方が「広い」のか。>
マニュアルのどこにあるんでしょうか。目的が違うのは仮にいいとして、なぜ、65ミリの氾濫図より、153ミリの雨のハザードマップの方が浸水図が「狭く」なるのでしょうか。おかしいと思います。
ところでこの氾濫図、1度目の開示請求では提供されませんでした。私が念のため、再度開示請求として「算出根拠及び関する一切の資料」と要求したところ、出てきた資料です。なぜ、あとから算出根拠の資料が出てくるのか、問いただすと、「東京都は氾濫図は「一切の資料」にあたるので、最初の開示請求では提供しなくてよいと判断した」とのことです。
なんだそれと思います。氾濫図も被害試算の元となった資料であり「算出根拠」の一つです。東京都の主張は「詭弁」です。請求資料に「関連する一切の資料」と書かなければ出さなくてよいというのは詭弁です。都は時々こういう詭弁をちょいちょい使ってその場しのぎで都議会議員を欺くので、注意が必要です。注意しないと騙されて、資料が出てきません。
そもそも議員は都民の代表であり、都民に対して行政は情報を開示するのが原則です。今の都の体制は極めて隠蔽体質、詭弁体質です。
(5) データ公表すべき
そもそも、この数字の表は、開示請求手続きで出てきたものです。
しかし、国交省マニュアルp81には、「費用便益分析に用いたデータ及び計算手法は原則として公表するものとする」とあります。
費用便益分析に用いたデータ及び計算手法は、公共事業の必要性、公共性を都民に証明する数字で、国から補助をもらう前提の数字でもあります。東京都の運用は原則非公表ですが、この都の対応は問題があります。
質疑の前、私は、建設局の担当者にマニュアルのp81の「費用便益分析に用いたデータ及び計算手法は原則として公表するものとする」の箇所をを示して、「マニュアルでは原則公表となっている。内部で公表するよう再度検討して早急に質疑前に私に持って来てください」と要求したら、なんと、数時間後に任意として持ってきました。初めからそうするべきです。これまで都議に説明しなくてもよいとされてきたのか、極めて問題があります。
より多くの都民の目に東京都が算出した公共事業の正当性を示す数字をチェックしてもらうべきです。
この点の東京都の運用を変えるべきです。
<Q.こうした費用便益分析の算出根拠のデータ及び計算手法は、原則公開する運用に改めるではないでしょうか。>
東京都は「専門的なので非公表」と答弁しましたが、都民は見てもわからないからということであり、都民を馬鹿にした答弁だと思います。
算定の根拠は、重要な数字、多くの都民がチェックできるように公表するべきです。
3 見直しや代替策を検討すべき
B/Cが1切ったら当然に、この事業は見直す必要がある・・・ということになるんじゃないか?
ア 東伏見公園
本年の住民説明会では市民から、「石神井川上流域の護岸はこれから整備される予定であるため、上流域の都市計画事業などと連携し護岸整備を主体とした経済的・合理的な治水対策が可能である。また、百歩譲って、調節池の建設が必要な場合であっても、東伏見公園西側の用地に将来の維持管理が容易な構造物を構築することで、もっと合理的に費用を大幅に抑えられる」との意見がありました。
より安価で有効な水害対策になると思います。
そもそも、取水口となる南町調節池はこれまで溢れたことがありません。
30万㎥の新しい調節池が必要という根拠から見直す必要があると思います。
イ トンネル方式に誤字あり
そもそもトンネル方式は建設費用もコスト高い方法です。毎年の維持管理費4.9億円です。しかも、トンネル方式は地下30メートル以深に約2キロにわたり、シールドマシンを使って、穴を掘って管理するもの。管理方法を聞いたらトンネルまで車をエレベーターで降ろす設備を作って、車を走らせて管理します。
平成30年度の委託以降、トンネル案で検討してきましたが、その選択方法も杜撰でした。トンネル方式は平成30年以降採用されてきたようですが、方法を比較検討した「調節池形式の比較検討」という資料の地名に「南町調節池」と記載すべきところ、「向台調節池」との誤植があります。東京都も誤植は認めましたが、これまで誰も気づかなかったということで、極めていい加減な資料です。業者の主張をうのみにしたのだと思います。ちなみに当時比較した時の総事業費は「490億円」でした。
1000億円かけて10年に1度の規模の65ミリの雨でも600億円も被害出るならば、もっと内水対策や下水道事業に金を投入すべきではないか、川沿いの方の家のかさ上げをしてもらって、自己責任や受益者負担も検討すべきではないか、という、議論が必要です。
4 まとめ
東京都は、3月末には国交省に補助採択の申請をします。国はどう判断するか。こんな杜撰な被害試算に基づく、1000億円の事業をこのまま進めてよいのでしょうか。
実際に、専門家の方に石神井川の水害も踏まえてリアルな数字で複数ケースの被害想定を用いて、B/Cを算出して頂いたところ、
便益(B)=42億円
費用(C)=877億円
B/C=0.05 との数字になりました。衝撃的なB/Cです。
・現時点で、B/Cが1.07で来年には0.9と予測。
・2ケース設定により年平均被害期待額が高めに出ている。
・被害根拠もハザードマップと合わず、過大な被害算出と思われる。
・現実的には、0.05との指摘もある。
・1000億円10年の投資でコストに見合わない可能性が高い。
B/Cに強い疑念があり、事業の必要性、正当性が強く疑われる。
洪水対策が不要と言っているのではありません。ただ、また、水害対策として効果的な施策、たとえば、内水氾濫対策のため、下水道の整備を先にしたり、という政策判断もあります。
税金は無限ではありません。最小の経費で最大の効果を挙げるよう(地方自治法第2条14項)、行政は常に努力しなければなりません。
これは、石神井川上流地下調節池だけの問題ではありません。
公共事業全体に関わる問題です。他の公共事業も精査されなければならないと思います。
参照資料
東京都作成 令和5年11月27日 第17回河川整備計画策定専門家委員会「石神井川上流地下調節池整備事業」
「治水経済調査マニュアル(案)」令和2年4月 国土交通省水管理・国土保全局
令和6年3月11日東京都提供 石神井川上流地下調節池の費用便益分析資料
令和6年3月12日東京都提供 石神井川上流地下調節池の費用便益分析の根拠の氾濫図
令和6年3月11日東京都提供 神田川流域での費用便益分析資料
千葉県 第7回都川流域懇談会 資料4:都川の河川整備事業の事業評価 その2
令和6年3月14日 都議会予算特別委員会 五十嵐えり委員 配布資料
同 予算特別委員会 録画映像
同 議事録(速報版)
参考
年平均が42.7億の場合
便益(B)=582億円
費用(C)=877億円
B/C=0.66
その半分の21.3の場合(42.7億円を前提にゴールを20年とした場合)
便益(B)=294億円
費用(C)=877億円
B/C=0.33
仮に、石神井川の無害流量を2/1ではなく、3/1または5/1とした場合(無害流量が1/2の根拠が怪しいため仮に算出しました)
3年確率=1/3.0 とすれば、区間確率=0.23 年平均被害額=49.1億円 B/C=0.76
また5年確率=1/5 とすれば、区間確率=0.1 年平均被害額=21.3億円 B/C=0.33
となります。
以上
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