アニメ演出には手を出すな!②

こんにちは、アニメーターの五十嵐祐貴です。前回から思った以上に時間が経ってしまいました。

制作過程での資料を整理したり、イラストを添えて読みやすくしようと考えていたら、手を付けるのがどんどん先延ばしになり、いつの間にか、かつて無い仕事の忙しさになっています。あと1年くらいはゆっくりしている暇がなさそうなので、とりあえず文章のみで進めていきます。取りこぼしてしまう部分も多そうですが、ご容赦ください。いつか、もう少しちゃんとまとめたいですね。


前回は『映像研』の演出に関わる経緯まで話したかと思います。これからさぁ始まるぞ、といった感じです。2019年の3月頭に某仕事が終わってヘロヘロになって、1ヶ月くらい休もうと思っていましたが、急遽『映像研』に参加することになり、2週間後くらいにプロデューサーのウニョンさんと打ち合わせが組まれた記憶があります。その間に急いで沖縄本島に旅行に行きました。初めて美ら海水族館に行きましたね。今年はいけずじまいだったので、また沖縄に行きたいです。

◯プロデューサーとの打ち合わせ

プロデューサーとの打ち合わせは、作品全体の説明と、全体のスケジュール、報酬など事務的な内容です。松本さんのご紹介ということで、松本さんと二人で行きました。建前上仕方ないのですが、ぼくは1ミリも演出をやったことがないけれど、松本さんから「彼は演出の才能があると思うから試してもいいんじゃないか」と言われ、滝のように冷や汗をかきながら、「がんばります!」と言っていた記憶があります。何しろ湯浅政明監督の作品でもあるし、プロデューサーのウニョンさんもスーパーアニメーターであるし、どうしてこうなったという感じです。失敗できないなぁと思っていました。

プロデューサーのお話で特に印象に残っているのは、湯浅監督はオーソドックスな演出を好むので、いわゆる広角パースは避けて欲しいと言われたことです。とても意外でした。湯浅さんと言えば、マインドゲームやケモノヅメに代表されるような、特殊な構図取りがあまりに印象深かったので、その心づもりでした。わからないものです。オーソドックスな演出ならば、割とプロダクションIGの仕事が多かったぼくなので、それが使えるのかしらと思った記憶があります。

あとは、作画面に関して、できるだけ一人でやってもらえると助かると言われた記憶があります。その時は演出処理を別の方に頼んで、自分は絵コンテと作画監督に集中しようか迷っていました。あまりに作業が膨大になってしまうためです。結果的にはスケジュールを鑑みて、満遍なくやっていくことになりました。

おまけですが、当初言われていたのは1話数3000〜4000枚の想定の作品ですということで、作品の内容的に無理そうだな…と思いつつ、できるだけ節約しようとコンテを書いて作画もしていました。蓋を開けると1話から9000枚くらい枚数を使っていたので、ずるい…!と思いましたね。ぼくはスケジュールとキャパ的に無理だったので、しょうがなかったのですが。

◯監督との打ち合わせまで

湯浅監督との打ち合わせまでに、具体的に『映像研』の何話を担当するか判断することになりました。あとは演出処理の方を別の人で立てるかどうか判断してくれということです。やはりタッグでやるなら女房役になってくれる人が良さそうだと思い、演出処理ができそうな知人友人に何人かに営業をかけて回りましたが、残念ながら全滅。「演出処理は本当に大変だよ」「人生で一番喋ったかもしれない」と松本さんに脅されながら、覚悟を決めます。

『映像研』の話数の話に戻ります。ぼくの選択肢としては3話か4話がありました。3話は部室を修理しながら映像件メンバーの日常が展開される話数です。4話は予算審議委員会で映像研メンバーが作品を発表する見せ場の話数でした。ぼくは早々と3話に決めました。理由は物量です。情けない話ですが、とにかく無事完成するのが目標なので、できるだけコントロールできる話数でないと、一人でやり切れないだろうということが最初からわかっていました。『映像研』という作品は決して楽な作品ではないし、設定類などの細部が肝なので、普通の作品よりも準備が必要です。しかしながら、面白い話数としては当然4話ではあるわけですね。原作を読んだ雰囲気は3話が一番近いはずだ!とかなんとか当時は思っていましたけれども、派手な話数をやってみたいと思うのはアニメーターの性です。ちょっと残念でしたね。結果的には4話の盛り上がりにうまく繋げる話数ができたので、作品にとっては貢献できたと思っています。

◯監督とのコンテ打ち合わせ

いよいよ湯浅監督とのコンテ打ちです。シナリオを読みながらコンテを書く際にどういうことを盛り込んでいくのか、話していきます。ここでぼくは初めて湯浅監督との顔合わせになります。緊張です。

打ち合わせではまず作品と登場人物の説明と、やはり、オーソドックスな映像にしたいということを繰り返し話されていた記憶があります。

次にこの作品内では3つの映像を作りたいという説明を受けました。今ではもうアニメの本編を見られた方はご存知でしょうが、『映像研』では空想の世界の絵と、キャラクターが作っているアニメの絵が、普通のアニメの絵とは異なっています。この時は、日常の世界はノーマルな絵で、空想世界は宮崎駿さんの水彩イメージボードのような絵で、アニメ内アニメは『ロング・ウェイ・ノース』のような絵でいきたいと話されていました。フランスのオムニバスアニメの映像などを見せてもらって説明を受けながら、面白そうだと思いつつ、具体的にどういう映像になるのかはぼくには全然わかっていませんでしたね。湯浅さんの中でははっきり見えていたように思います。本編をご覧になっている方はお分かりかと思いますが。そして、3話が一番特殊処理が多い話数だと言われて、頭を抱えました。大変です。

その他では、細かいですが、宇宙空間の場面はゼログラビティやオデッセイのようにしたいという話や、最後のガスマスクの少女と戦車のアクションシーンは4話でも流用できるようにしたい、というような指示を受けたと思います。特に最後のシーンは4話で完成映像になるので、3話ではまだ未完成の感じが出ると良いと話されていました。アニメ用語でいうところの原撮(原画のみの色が乗っていない状態で撮影し、音付け作業のためだけに編集された素材。一般の視聴者はあまり馴染みがないでしょう。)のような感じでもいいですか、ときいたところ、この時OKをもらえた気がします。なので、本編もわざとチープな感じを出すように仕上げていきましたね。



今日のところはここまでとします。次はいよいよ絵コンテの作業に入っていきます。

それではまた。

稀有な方はサポートしてみると五十嵐のやる気がでます。