アニメ演出には手を出すな!③

こんにちは、アニメーターの五十嵐祐貴です。また少し時間が経ってしまいました。今週は月曜から金曜まで毎日会議があるという感じでした。絵を書くというのは、なかなかにコスパの悪い仕事なので、遅れた分を取り返そうと頑張っている間に1週間経ってしまいましたね。やっていきましょう。


前回は絵コンテ作業に入る前までお話しました。通常ですと打ち合わせ後からすぐに絵コンテの作業に入っていきます。ぼくは何しろ初めてだったので、予めプロデューサーと打ち合わせをした際に、1ヶ月ほど準備期間を設けたいと了解を得ていました。ですから、今回は少し時間が空きます。

◯絵コンテ作業のその前に

映像研3話6稿_決定稿_190415_P1

アニメの脚本というのはこのような感じになっています(説明のため、手書きで書き起こしております)。日本語の場合、1ページがおおよそ1〜1分半くらいだと言われているそうですが、各映像会社によっても脚本のフォーマットも違いますし、セリフの量によっても変わってくるそうです。『映像研』3話は19枚で、総尺は22分、セリフ多めなので、結構ぎっしりボリュームがあるということになります。市販の絵コンテや、富野さんの『映像の原則』などの本は昔から読んでいましたが、いざ本番で書くとなるとなかなか難しいものです。この19枚の脚本を目の前にして、どこから手をつけたものかわかりません。とりあえず、誰かに聞いてみましょう。

ここでどなたに聞くのがいいのだろうかと考えたときに、ことあるごとに気軽に聞けそうな人が良さそうだとおもい、中園真登さんという友人の演出さんに聞いてみました。実は、中園さんにはダメもとで演出処理の相談もしていましたが、実作業は無理でも相談には乗れると話をしていました。家も近いということもあり、深夜のファミレスや居酒屋で何度も演出上のレクチャーを受けました。あのレクチャーを受けていなければぼくは『映像研』をちゃんと作りきれなかったとおもいます。今でもとても感謝しています。

◯アニメ演出とはなんだろう

中園さん演出メモ P1

中園さん演出メモ P2

中園さん演出メモ P3

中園さん演出メモ P4

中園さん演出メモ P5

中園さん演出メモ P6

中園さん演出メモ P7

こちらは中園さんのレクチャーを最初に受けながら書いていたメモです。だいぶ前なので、細かい部分は忘れてしまっていますが、見ながら思い出していきます。

◯尺とカット数

まず初めの見出しは尺とカット数になっていますね。とにかくアニメ作りは時間がかかります。予算もそんなにありませんから、無駄なことができません。事前準備が重要です。通常TVアニメだと1話あたり22分尺で300カット、作画枚数3000〜4000枚というのが指標になります。今回も同じです。作画期間としては3ヶ月でした。実際は少し粘って伸びた気がします。厳しい現場はもっと少ないですが、これも通常の範囲内です。3話はぼく一人でコントロールしなければならないので、この時点で想定するカット数は250カット以下にしようと決めていました。作画枚数も5000〜6000枚に抑えるつもりでした。結果としては220カットで5000枚台だったので、概ね計画通りになったといえます。

◯作品の方針

次は小さく書いていますが、作品の方針を探ります。この話数をどういった作品にしたいか、ということですね。とはいえ全体の方針というのは監督が決めるものです。各話の演出が決める方針というのは、あくまで監督の方針をクリアしてから、その余白の中にあります。ここで、本来なら参考になる話数の絵コンテなどがあるとありがたいのですが、実は3話の入るタイミングが1話と被り気味だったので、そういったものもありません。今回は原作の漫画がありますので、そちらを読み込んでいくことにしました。『映像研』の面白い部分というのは設定の作り込みにあるというのは、ぼくでなくてもそう思うのではないでしょうか。とても特徴的な漫画です。これを最大限に見せていく演出を探っていかねばなりません。

逆にいうと、特に原作ではキャラクター同士のストーリー部分というのはわりとあっさり展開していきます。ぼくには『映像研』の主要メンバーである浅草氏、金森氏、水崎氏の3人が、原作者の大童先生本人であるような印象を受けていました。どういうことかというと、大童先生の人格が3つに分裂して、ずっと脳内で喋り合っている様子に見えたということです。この設定の作り込みの面白さと、オタクの独り言感の対比をうまく見せられると良さそうな気がしてきます。

そこで、日常パートではなるべくカメラを動かさず(FIXと言います)、ロングショットでフラットなレイアウト、長回しでずっとキャラクターたちに喋らせることにしました。動きも控えめです。日常パートでは、『映像研』の面白さを抑えめにするのです。

しかし、妄想のパートに入った瞬間、カメラも動き出し、カット割りも細かくなり、レイアウトもアップショットも増えてダイナミックになり、動きも豊かになれば、妄想パートこそが見ている人にとって感動できる印象になりそうです。何しろ、『映像研』本編でアニメの動きについて嬉々として語るシーンもありますし、それこそが本作のテーマなので、クリエイターの妄想の中にこそ生き生きとした映像を感じられた方が、演出としてはうまくいきそうです。

以上の理由から、日常パートと妄想パートの見せ方のバランスに緩急をつけるというのは最初から決めていました。テンショングラフというのは、そういったことを踏まえながら、全体的なバランスを見つつ、一番最後に話数のボルテージを持って行った方がいいよね、というようなことを話していたのではないでしょうか。湯浅監督の過去作でそういった方針の中で使えそうな表現があったら、チェックしておくと間違いもなさそうです。このときは『四畳半神話体系』『ピンポン』辺りを見直していました。

◯字コンテ

映像研3話6稿_決定稿_190415_P1のコピー

字コンテとはなんでしょうか。ぼくも話には聞いたことがあるくらいで、今回初めてちゃんと知ったとおもいます。上の画像が脚本上で字コンテを切ったものになります。ここがカットの切り替わりになりそうだな、というまとまりの部分に線を引いていく作業になります。これをあらかじめ全てのページで行うことにより、かなり早い段階でカット数のコントロールが可能になります。この段階で直したり全体のプランを考え直すのは簡単なので、とても便利だなとおもいました。そのシーンで一番見せたいなと思う絵も、この段階でネタだししてメモを書き入れていきます。その絵が大体そのシーン内のマスターショットとなります。マスターショットというのは決め絵ということで、基準の絵です。このマスターショットの絵を中心にして、シーンの盛り上がりや同ポジ(同じカメラポジションから撮ったカット)の操作をしていきました。



ちょっとボリュームが増えてしまったので、後半は次回に回します。

それではまた。

稀有な方はサポートしてみると五十嵐のやる気がでます。