男よ、乙女心はすべて=LOVEから学べ!
なぜ=LOVEは、女性ファンが多いのか
先日、=LOVE 冬の全国ツアー『866』Zepp Tokyo公演へ行って参りました。
1番の感想…それは… 『女性ファンが多い!』
今回が初めての=LOVEライブではなかったのですが、前も同じことを思っていました。
いつも他のアイドル現場にたくさん行くからこそ、なお、男女比の違いが肌感覚でわかる。
『やっぱり女性が多い!』これからイコラブに会いに行くたびに同じことを思うんだろうなぁ……
でも、なんで=LOVEって女性に愛されるんだろう?
このテーマで記事を1本書きたいなと思って、持論を組み立てながらグルグル考えていたわけです……
そしたらありました!先行研究が!
そのまんますぎる。
指原莉乃さんや、=LOVEを知的に分析する『夏かしのブログ』さん。
読んでみるとだいたい私の持論といいたいことは重なっているんだけど、
=LOVEの熱心なファンの方のようで情熱と知識がすごくて勝てそうにありません。(しかも2年も前の記事なんですよ!)
だから、今回は『夏かしのブログ』さんの記事をDDなりに再解釈しつつ、
DDの視点から『=LOVE、女子のハート奪いすぎ問題』を考えていこうと思います。
女性プロデューサーによる、女子視点の世界観
=LOVEのプロデューサーは元HKT48の指原莉乃さん。
女性が女性アイドルをプロデュースするということがそもそもあまりない。
有名どころといえば、ディアステージの「もふくちゃん」くらいだろうか。
そんな指原さんが「女性から見る理想の女性」「女性からみた憧れの女性」を投影して表現しているのが=LOVEなのではないか。
思い返せば、指原莉乃は総選挙で爪痕を残し始めたころ、「かわいくない子が、なんでセンターなの」と心無いバッシングを受けてきた。
でも、それは逆に、自信が持てないでいた多くの女子にとって、「私もやればできるかも」という希望の光になったのかもしれない。
そして、この時期を乗り越えて、指原莉乃はNo.1女性バラエティタレントとしての地位を固める。また、SNSでは「年々キレイになっていく」と評価されるようになった。
「男の子に媚びるばかりが女子ではない!」「女の子だって、いろいろ考えているし、悩んでいる!」「あの時、バカにした男子よ、ほらみたことか!」という彼女の生きざまが=LOVEには詰まっている。
多くの女性アイドルグループは、男性プロデューサーによって「男性からみた理想の女性」を表現しているから、男性に刺さる。
しかし、=LOVEの世界観は、『夏かしのブログ』さんの表現を借りれば、少女漫画に近い。
だから、歌詞やMVのなかで、鈍感な男性に対する歯がゆさや、チャラ男への怒りや、女の子の強さなどを堂々と表現することができるのである。
歌詞の分析 ー伊藤くんは、なぜフラれたのか?ー
Want you! Want you! 今すぐ 君が伝えないなら
お気に入りのリップはまだつけないままでlove you「好きよ」
(=LOVE『Want you! Want you!』歌詞より抜粋)
この歌詞はやっぱり男性には書けない。
少なくとも男性の筆者は、ルージュとリップとグロスの違いをあんまりわかっていない。
そして、リップにお気に入りがあるという感覚もよくわからない。
ましてや この歌詞のこの部分に登場するリップに、ルージュやグロスでは務まらない文学的な意味があるとすれば、もうお手上げである。
「不幸になってほしいなんて思ってないよ。だから…」幸せにはならないで
好きにさせていなくなる 白雪姫はキスを待っている
きづかずに 目を閉じたままで こんな気持ち 二度とないでしょう
(=LOVE『ズルいよ ズルいね』歌詞より抜粋)
男性のDDにはハードモードすぎる。耳が痛いし、共感…したくない…
これは絶対に男性には書けないし、男性の心が乗らない歌詞だ。
だけど、女性には共感が得られるだろうし、まさに少女漫画的な世界観がうまく表現されている。
ちなみに、2020年1月19日放送の『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系列)では、「人気音楽プロデューサーが本気で選出した「2019年ベスト10」」において『ズルいよ ズルいね』は6位にランクインしている。
物語を創る力、映像描写のカメラワーク、展開、言葉のセンス、たまに書き込まれる哲学的な視点。指原さんは作詞家として凄く才能があると思います。
(番組内で引用された、いしわたり敦治氏によるコメント)
筆者が注目したのは、感心したり、指原莉乃の才能に驚いたりする男性出演者ではない。
スタジオ収録に参加していた唯一の女性出演者である弘中綾香アナウンサーが歌詞を聴きながら、眉間にしわを寄せて嘆かわしそうに繰り返しうなずいている姿だった。
伊藤くん ごめんなさい 私はあなたとAh付き合えない
(=LOVE『樹愛羅、助けに来たぞ』歌詞より抜粋)
伊藤くん、ドンマイ。
従来の女性アイドルの世界観であれば、男の子はフラれないという予定調和があった。
さらには男の子に告白するのを緊張してためらっている女子高生であるとか、モテモテの男子をメンバーみんなで奪い合うといった演出のMVは結構みてきた。これは、「男の子の理想」を映す世界だ。
もし、フラれるのならば、そこで涙を流すのは女性だった。そして、それは女性視点のバラードとして、女性アイドルのMVの中で表現しやすいテーマだったといえる。
(アイドルグループのメンバーが泣いている画を撮ればいいのだから…)
しかし、女性が主役の=LOVEの世界観では、いとも簡単に男子がフラれるのである。
しかも、伊藤くんを振った理由は、同性の友達を助けるためなのだ。
ここでは、女子同士の友情や連帯感が描かれている。
クラスの女子がつるんで放課後にどこに遊びに行くか。
女子会では、どんな会話をして盛り上がるのか。
告白された女の子は、同性の友達にどんな相談をして、どんなアドバイスを送られるのか。
そこは男の子には踏み入ることはできないし、踏み込んではいけない。
『樹愛羅、助けに来たぞ』はヒャダインさんが制作した曲で、初期のスタダアイドルを彷彿とさせるような、ちょっとおバカでワイワイした雰囲気がある。
しかし、そこには男尊女卑から脱却した世界が描かれており、女性の共感を呼ぶような仕掛けが施されていたのである。
ステージじゃなくても 王子様でいてほしい
なんて思ってないけど せめて 私の好きな君でいてね
(=LOVE『推しのいる世界』歌詞より抜粋)
これは『推しのいる世界』というタイトルが冠された楽曲なのだが、この「推し」が表しているのは、=LOVEメンバーや不特定多数の女性アイドルのことではない。
「王子様」という表現がされていることから、「推し」は男性であることがわかる。
MVでは、=LOVEのメンバーが、男性アイドルのファン友達という設定で描かれている。
そう、女性アイドルが男性アイドルに恋するというタブーを明るく楽しく魅せる世界観がここでは繰り広げられているのである。
そして、そこには女性どうしの絆も手抜かりなく表現されている。
そういえば、ライブに行ったとき、開演時間までの待ち時間にジャニーズ談義をしている女性ファンのグループをちらほら見つけた。
=LOVEは、男性アイドルファンの女性までを虜にし、女性アイドルの会場に足を運ばせるだけのパワーをもっている。
ちなみに、同じく女性アイドルのタブーを破った作品として、夢みるアドレセンスの『メロンソーダ』がある。
ここでは、夢アドのメンバー山下彩耶が、普通の女の子としてではなく、現役アイドルという等身大の役柄のまま、一般人の男子に恋するというテーマが描写されている。
これは女性アイドルに、女性アイドルの立場のままで恋愛する様子を歌わせるという意味で、大きな衝撃を与えた。
しかし、『メロンソーダ』が訴求していた本当の相手は、「現役アイドルと自分も付き合ってみたい」と夢みる男性であり、実際は男性ファンに志向した作品。 女性アイドルとしては邪道というよりは寧ろ王道であった。
実際、山下彩耶が演じるサヤは、女性のリアルというよりは、男性の視点からみた理想的な女の子として描かれている。
この二重構造が憎らしい。役名が芸名と全く同じ名前という小悪魔ぶりだ。全男性ファンの心をザワザワさせた傑作である。
これに対して、=LOVE『推しのいる世界』は徹底的に女性目線であるという点で革命である。
普通の男女の恋愛を描くのではなく、男性アイドルという、男性ファンからは最も興味のない、そして勝つことのできないスペックをもった存在を登場させることで、女性視点を徹底的に強調する態度がうかがえる。
男性ファンにとって最も馴染み深い『推し』という言葉から男性ファンを遠ざけるこのテクニックはすごい。ここに男性が自己投影する余地はない。
これは裏を返せば、ここまでしても「男の子は私たちにメロメロでしょ?」という自信や信用なのかもしれない。
または、応援してくれる男性に対する壮大なツンデレともとれる。
「デレが欲しければ握手会においで!」ということか。
指原プロデューサーは、こうやって売り出すことを計画したうえで、それでもなお男性の支持を得られるような最強のメンバーをオーディションで選び抜いたということだろう。
「ウチは君だ」 ー『僕』のいない世界ー
いつからだろう?
僕のココロの中で 大きくなっていた想い
(ももいろクローバー『走れ!』歌詞より抜粋)
「サンオイル背中に塗って!」と水着の上外しながら寝そべった
大胆な君の一言は甘ったるい匂いがした
どこまでも青い海と空 僕たちの関係に似てる
(AKB48『真夏のSounds good!』歌詞より抜粋)
アイドル戦国時代と呼ばれるここ数年、女性アイドルの楽曲でありながら、『僕』からの視点で描かれた作品が多く誕生した。
これは、まさに男性からの視点で描くことによって、男性からの共感を狙ったものといえる。
しかし、=LOVEの表現する世界には基本的に『僕』が登場しない。
ここまで何度も述べてきた通り、女性視点の描写が女性の共感を呼んでいる。
アイドルについて知的な考察が嗜める『アイドル論の教科書』という書籍では、松田聡平氏が「君は僕だ」というタイトルのコラムで以下のように言及している。これは主にAKB48の歌う「僕」に対する分析だ。
楽曲で描かれる「僕」の心は、男性である僕自身の心では決してない。だが、「君」のなかに確実に存在する「僕」の心だ。それは「君」が浄化してくれた透明感あふれるものであるし、それを「君」が歌ってくれることで、僕自身は「君」のなかの「僕」のようになろうと思えるし、恋しているこのモヤモヤを少しだけでも正当化できるのだ。僕と「僕」の間を往復することで、欲求的な主観性が、共有的な間主観性へとなだらかに変容し、いつの間にか僕は透明な「僕」になれるのだ。
(松田聡平『アイドル論の教科書』「コラム 「君は僕だ」」より引用)
=LOVEの場合、「君は僕だ」ではない。ウチは君だ。
これは少女漫画のヒロインに感情移入する女の子という簡単な構図ではない。
=LOVEというアイドルが、(恋愛も許される)普通の女の子の日常を想像しながら妄想で歌いあげる、一種のフィクションとして機能しているのではないか。
これは女性にとって、アイドルである=LOVEメンバーが、自分たちの気持ちを想ってくれたという、単なる共感を超えた、興奮をうむ。
恋愛もできない。まともな学生生活も送れないほど忙しい。メイクや髪形はプロの力を借りている。そういうイメージが強い女性アイドル。
そんな彼女たちが、自分たちの目線になって気持ちを代弁してくれる。「ありがとうございます」という気持ちかもしれない。
ファンがアイドルに共感しているのではない。アイドルがファンに共感している(という設定)なのだ。
=LOVEのメンバーが妄想してくれる「君」になるため。メンバーの憧れを破壊しないため。そのイメージ像を理想に掲げ、メイクにオシャレに恋愛に、女子は今日も頑張るのである。
「僕」と「君」は十字路の交差点で出会う
さて、ここまで=LOVEの世界観では、徹底的に女性の視線で作られていることを論じてきた。
しかし、「僕」が主人公の楽曲も存在する。
貴重な男性目線の作品にして、最も知名度の高い始まりの曲。
『=LOVE』だ。
僕は(顔を)あげる(1人) 十字路の交差点で
目が合った瞬間 奇跡を信じた
きっと君だ 君だ 君だ
いくつか恋をしたけれど 全て君に出会うためだった
きっと君だ 君だ 君だ
遠回りしてごめんね やっと会えたMy ideal 君こそ=LOVE
(=LOVE『=LOVE』歌詞より抜粋)
「ウチは君だ」の構図で考えると、男性ファンは何に恋をしているのか。
これまで紹介した楽曲の世界観でいえば、「=LOVEが妄想する普通の女の子」という架空の存在が対象ということになる。
ところが、「=LOVEの妄想する女の子」の期待に応えるべく、理想的な女性になるために努力した=LOVE大好き女子が、目の前の十字路を走ってきたらどうだろう。
ここでフィクションは現実になる。
「僕」の視点からみれば、憧れていた「=LOVEが妄想する普通の女の子」が目の前に現れたことになる。
そして、=LOVE大好き女子にとっては、「=LOVEちゃんのために努力したら素敵な人に出会えたよ」という瞬間になる。
いろんな恋もした。=LOVE、そして=LOVEメンバーの妄想世界という遠回りをして、やっと結ばれた恋だ。
=LOVEを推していることそのものが、君に出会うことへの有意義な遠回りなのである。
ここで現実世界の「僕」と「君」は、相思相愛の=LOVEになるのだ。
この楽曲が『=LOVE』というグループ名と同じタイトルであること、1stシングルの表題曲であること、最も知名度があること。
で
これらを考慮すると、グループのコンセプトをそのまま体現している作品といって遜色ない。
そう捉えると、=LOVEの真のメインストーリーの主人公は、男の子なのかもしれない。そして、女の子は壮大なサブストーリーの主人公だ。
「女の子の話なのに、そもそもこの話は男の子の夢の中の話でした」という小説の構成に似てる。まるで視点のミルフィーユだ。
この重層的な世界観の構成が、男性の心も、女性の心もガッチリつかんで離さない。ズルくて賢い仕掛けだ。
敏腕プロデューサー・指原莉乃は、混沌とするアイドル戦国時代のなかで頭1つ2つ抜けた快刀乱麻の策士だ。圧巻である。
=LOVEはアイドル業界のリーダーになる。
ビジネスの専門用語でいう「リーダー」は、業界全体として新たな顧客層を開拓し、(自身だけではなく)業界としての間口を広げる役割を担う。
これは「リーダー」の座を狙う、中堅層にはできない仕事だ。
アイドル業界で考えると、「リーダー」だけが地上波のテレビに出演したり、アニメや映画などのタイアップを任される。
ここで初めてアイドルを好きになったアイドルファンの一部が、地下アイドルの現場に流れていく。
こうすることで、アイドル業界の顧客は増加していく。
=LOVEは、昨年の乃木坂46やBiSHといった顔ぶれと比べれば、まだメジャーとは言えないかもしれない。
しかし、多くの女性を女性アイドルの世界に引き込んだという功績はかなり大きい。
女性アイドル業界全体への入り口を広げた立役者として、=LOVEはすでに「リーダー」の座に控えている。
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思い返せば、=LOVEの1stコンサート『初めまして、=LOVEです。』の会場は、女子大の講堂だった。会場にしてはめちゃくちゃ珍しい。
しかも、その講堂の名前が「人見記念講堂」である。
当時の=LOVEのセンターは高松瞳であった。これは単なる偶然だろうか。
筆者は当時、女子大に潜入できるという人生で後にも先にもないであろう体験に何も考えずワクワクしていた。
ところが、その裏には=LOVEの決意とメッセージが込められていたのかもしれない。
むしろ「女子大に潜入できるワクワク」こそが、男性の=LOVEの正しい鑑賞方法を言い当てているように思える。
最後に私事で恐縮であるが、今回の=LOVE冬の全国ツアー「866」Zepp Tokyo公演は、筆者のオタク人生で初めて女性と2人きりでの現場参戦となった。
134番目の現場にして、初めての出来事である。
女性といく初めての現場が他のアイドルではなく=LOVEだったのは、偶然ではなく必然であったように思う。
今回の公演は、僕にとって十字路の交差点だった。
(記事:まっすー)
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