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吉太郎とのお別れ

朽ちていくこの体では、あなたの世話ができない。

不安そうな眼差しも、
ちょっと怒った態度も、
安心しきっていた寝顔も、

全てが愛おしかった。
たったひとりの私の家族で、どこにでも連れて行った。

私の肉体が消えてなくなるから、
あなたに触れることができない。

少し出張へ出ているだけ。
短期の旅行へ出ているだけ。
いつか、お土産抱えて、きっと戻ってくる。

吉太郎は、これからも、帰らない私を待ち続けるのだろうか。

君が痛みや苦しみに包まれる前に、必ず助けに行くから。
だから、これから君が見るであろう鮮やかな新緑と海の青さを焼き付けて欲しい。

いつか二人きりで、海に腰掛けて波を見に行こう。

あの頃のように。
いつか見た、あの空の下。

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