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シルクちゃん論(序,目次,第1章)『キラッとプリ☆チャン』

二〇二〇年一二月二〇日。アニメ『キラッとプリ☆チャン』の一三一話を初めて視聴したときの感動は、未だ色褪せません。それまで時折登場し、ギャグ要員としての地位を固めつつあったシルクちゃんが、物語の真ん中に躍り出たのです。そしてその描かれ方も示唆に富むものでした。
この一三一話の視聴以降、筆者の脳内には常にシルクちゃんがこびりついています。きっと探究しがいのある存在に違いない。物語のなかでシルクちゃんが一体どのようなはたらきをし、そしてどんな位置にいるのかを考えてみたいという思いが湧きおこってきました。そう思える理由のひとつには、シルクちゃんを愛してやまない脚本家 福田裕子先生の存在があります。先生の作品に触れるとき、そこから共通して読み取れるのは、極めて緻密かつ大胆に構成された秀逸な物語りと、物語世界と登場人物たちへの誠実かつ優しい姿勢です。それゆえ、シルクちゃんも必ず読み込み甲斐のある存在に違いないと確信し、考えを進めてゆきました。
また二〇二三年四月三〇日、東京都ミクサライブ東京にて開催されたイベント「ミクサライブ!プリ☆チャンランド化計画」内の「出演キャスト&スタッフ舞台挨拶付きバーチャルライブ応援上映会」二〇時の回における出来事も、本稿を書くきっかけとなっています。ご登壇の福田先生はシルクちゃんのぬいぐるみにおめかしをして、共にステージに並びました。そして青葉りんかのライブパートとなると、シルクちゃんをスクリーンに向け、彼女のライブを共に観るという一場面がありました。この場面は、物語世界とこの世界の垣根を越え、シルクちゃんに対する福田先生の誠実さと優しさが端的に現れた瞬間でありました。
この出来事を目の当たりにし、シルクちゃんについて自分ができることはなんだろう。その活躍を、不完全であったとしても、ひとまとまりの形にして捉えたい。本稿はその想いで筆を取ったものです。
その中でみえてきたことは、シルクちゃんはまさに『キラッとプリ☆チャン』という作品の真髄が現れているキャラクターであること。そして、我々と物語世界との関わりあいかたについても、示唆を与えてくれる存在である。ということです。本稿では、それらのことを文章にできたらと考えております。
シルクちゃんについては、アニメ内だけではなく、ライブイベントでの言及、グッズ展開、製作陣による言及等、さまざまな表出がありますが、本稿では一部それらを踏まえているものの、議論の展開としてはアニメ本編から読み取りうる内容のみで構成しています。
また「作品の解釈は、美的経験および鑑賞経験を高めるために行う」ものであるという立場をとっており、解釈することをもって製作陣の意図を明らかにしようとしたり、創作の意図が即ち作品の解釈であるとする立場にはありません。
本稿はいくつかの物語論や美学、倫理学の立場に都度立っている箇所はあるものの、これは論文ではなく、筆者が自由気ままに書いた文章であるとご理解いただき、(スベっているとしても)ある種のギャグとしてお受け取りください。もちろん以下の議論には、異論・反論・修正・反例・追加等が必要な不十分な箇所が多々ございます。もし本稿にご興味をおもちいただき、それらをお伝えいただけるようでしたら、大変ありがたく頂戴いたします。

目次

第一章 シルクちゃんとは
 1.シルクちゃん概要
  シルクちゃんの登場
  シルクちゃんの性質と特徴
 2.シルクちゃんの描写
  キャラクター・絵・人形等で現れるシルクちゃん
  人格を感じさせるシルクちゃん
  青葉りんかとは独立に存在するシルクちゃん
 3.物語内での扱い
  オチ・お約束ギャグに使われる
  物語の進行に関係する箇所
  物語内でのはたらき

第二章 シルクちゃんをかたちづくるもの
 1.一歩踏みだす勇気を与える青葉りんか
 2.青葉りんかの愛
  青葉りんかの覚悟と責任
 3.利他のシルクちゃん
 4.シルクちゃんの境遇とカイコガをめぐる状況
  カイコガのあらまし
  ではシルクちゃんは
  その類似性

第三章 一三一話のシルクちゃん
 1.一三一話のあらまし
 2.一三一話におけるシルクちゃんの活躍
 3.一歩踏みだす勇気をもつシルクちゃん
 4.利他的存在としてのシルクちゃん
  シルクちゃんはなぜ助けてくれたのか
  シルクちゃんの利他的行為
 5.一三一話のはたらき

第四章 シルクちゃんの未来
第五章 我々の世界と物語世界の関わり

参考文献
あとがき


第一章 シルクちゃんとは

  1. シルクちゃん概要

シルクちゃんは、アニメ『キラッとプリ☆チャン』に登場するマスコットキャラクターです。子供向けアニメに登場するマスコットキャラクターといえば、妖精や擬人化された小動物の姿をとり、主人公をサポートしたり、仲間や友人となったりする存在が想起されます。シルクちゃんはそれらとは異なり、物語世界のなかの無生物の「キャラクター」として登場します。つまり、われわれの世界におけるゆるキャラ(くまモンやゆうまちゃんなど)と同じような存在として、物語世界内に登場したのです。
シルクちゃんの登場
物語世界内の初登場は三三話。キラ宿で行われたキュートフェスティバルに、世界的人気キャラクター「コットンちゃん」がやってくることになりました。
「コットンちゃん」は、その名の通り、豚と綿(コットン)をモチーフとしたまるまるとしたキャラクターで、ほぼ球体のボアもしくはタオル状の頭部(綿花を意識している?)に、豚の目鼻口等がついており、短い手足が生えています。
このキュートフェスティバルにおいて、コットンちゃんのお友達を募集するという企画が行われました。これに応募すべく、ミラクル☆キラッツの青葉りんかがデザインしたのがシルクちゃんです。
シルクちゃんの性質と特徴
青葉りんか曰く「頭が大きいほどかわいく見えるという生物学的研究データにもとづいてデザインした」というシルクちゃんは、灰色の巨大な頭部に、小さな黒い瞳をもつ象牙色でぎょろりとした目。眼窩上隆起が発達しており、鼻はゴツゴツと張った鷲鼻で、ほうれい線が目立つ顔立ち。多くの場面で口は富士山型に結ばれ、ムスッとした表情をしています。これらの特徴は、シルクちゃんの顔面の相貌を、気難しい成人男性を思わせるものとしていて、一般的に「かわいい」とされる容貌から、かなり乖離したものとなっています。
頭部の左右から手が伸び生えており、下部から足が生えています。手足はどちらも三本の指を備えています。体重は「マイマイカブリ二十三匹分」(五三話)。
一部の描写では、額に丸く色の濃い部分が描かれています。こういった場合には着ぐるみであることが多いため、「覗き窓」であると考えられますが、一方で、着ぐるみではない小さなシルクちゃん(たとえばぬいぐるみ)であっても、一部、同様の丸印がある描写もあり、真相は不明です。しかし話数が進むにつれ、この丸印はほとんど見られなくなっていきます。
シルクちゃんはおそらくもちろん「絹」が念頭に置かれた命名であり、これは、「綿」がモチーフとなっているコットンちゃんと対になることを想定して、デザインされたことによるものでしょう。
その姿と、シルク(絹)との関わりですが、シルクを作り出すカイコガの休眠卵(産卵されてもすぐに孵化しない卵)が灰色で丸いこととの類似性が、Twitter(現X)上で複数の方から指摘されています。また、特徴的な指をもつ手足に、カイコガの幼虫の脚との類似性を見出すこともできるかもしれません。

2.シルクちゃんの描写

付録『登場シルクちゃん目録』に基づき、シルクちゃんがどのような姿で現れるのか、分類と整理をおこなってみます。
キャラクター・絵・人形等で現れるシルクちゃん
全体のほとんどを占めるのが、無生物としてのシルクちゃんです。先述のとおり、シルクちゃんの登場のはじまりは、無生物のキャラクターとしてのものであるため、「ほんもののシルクちゃん」というものは存在せず、基本的に人形やぬいぐるみ、絵といったかたちで登場します。
人格を感じさせるシルクちゃん
キャラクターとして登場し、無生物である(物語世界内には、生き物としては存在しない)はずのシルクちゃんですが、物語が進むにつれて、人格をもった存在者なのではないかと感じさせる姿で現れてきます。その筆頭はもちろん一三一話のアイドルマスコットシルクちゃんなのですが、それ以前・以後にも登場しています。こういった描写は、物語後半、マスコットの登場やバーチャル世界の確立と共に増加しており、物語世界のリアリティラインの変遷が、シルクちゃんの人格化を許容する土壌となっていったともみてとれます。
九二話のシルクちゃん姫
九二話では、青葉りんかの「私はいいの。でもシルクちゃんにだけは見たことのない世界を見せてあげて」との思いから、VR装置に座らせられるシルクちゃんが登場します。このシルクちゃんが人格を持った存在なのかは不明ですが、その後のバーチャル世界にあっては、バグバグキングを討伐した後に、その正体がシルクちゃん姫であったことが判明し、このシルクちゃん姫が「高次元のシルクちゃん世界」へと旅立っていく描写があります。ここでは、キラッCHU、ハクッCHO、バーチャル空間のメルティックスターの面々が涙を流して寂しがり、虹ノ咲だいあに至っては「綺麗……」とつぶやき、同じくバーチャル金森まりあも「かわいく昇天~」と発しています。ここに登場しているのはシルクちゃん姫であり、舞台もバーチャル空間であるものの、シルクちゃんが初めて、苦笑や驚きや冷や汗を伴わず、皆から称賛される展開となっています。
九七話のりんかのライブを観て涙を流すシルクちゃん
ジュエルコレクションに出場する青葉りんか。見守る一色カレン、青葉ユヅル、両親、きなこアイスもなかの三人。そこに連なりシルクちゃんも客席にいます。「みんなにもらった勇気を優しさに変えて、より高くより美しくダイヤモンドコーデを目指す」と宣言する青葉りんか。ライブが終わるとシルクちゃんは涙を流しています。自律的に動くシルクちゃんはこれまでも登場しましたが、涙を流すといったかたちで感情を表出するのはこの回が初めてです。
一三六話の激目シルクちゃん城
この回では、シルクちゃんと金森まりあ、激川ゆいがコラボし、バーチャルプリ☆チャンランドに「激目シルクちゃん城」なるアトラクションを青葉りんかが造成します(風雲たけし城がオマージュ元か?)。ここでは、乗り物の支柱を支えるシルクちゃんや、敵キャラのシルクちゃんなど、バーチャルの映像なのか、はたまた人格あるシルクちゃんなのか断定ができないシルクちゃんが多数登場します。その他にも、金森まりあと黒川すずが度々行う「かわいい大行進」の場面において、自律的に歩行するシルクちゃんの姿が(着ぐるみか否かが曖昧である登場もありますが)多数見られます(三八話、五〇話ほか)。
青葉りんかとは独立に存在するシルクちゃん
シルクちゃんの描写の類型の観点からは離れますが、興味深い描写が一四七話に存在します。キラッCHU主演の映画とともに、「シルクちゃんと秘密の右心室」というタイトルの映画が上映されており、これを見つけ大興奮する青葉りんかが描かれます。このことは「青葉りんか起点ではないシルクちゃんの活躍がある」ということを示しており、青葉りんかだけがシルクちゃんに執着しているわけではないことを感じさせ、またシルクちゃんは、他のマスコットたちと同じくプリ☆チャンランドに存在しているのではないかと感じさせてくれます。

3.物語内での扱い

物語内でシルクちゃんが登場するシチュエーションは、いくつかの類型で捉えることができます。その最初の分類は、物語の進行に直接関与するか否かという点で、直接関与しない場合は、次の項の「オチ・お約束ギャグに使われる」というのが、その大部分を占めています。
オチ・お約束ギャグに使われる
この登場の仕方は、大きく三つに分類されます。
唐突に登場する
基本的にシルクちゃんは(おもに青葉りんかの行為によって)唐突に登場し、その姿から周囲に「驚き・苦笑」を誘います。その登場には脈絡のない場合も多くあります。
例:五五話の自己紹介コーナー、五九話のシルクちゃんコーデ、一三六話の激目シルクちゃん城
別なものとの対比・セットで登場する
また一方、シルクちゃんとは別に本命の登場キャラクターやモノがあり、そこへの前振りや後からの付け加えとして、シルクちゃんが登場する場合も多くあります。
例:五三話のぬいぐるみ・スイーツ(キラッCHU)、五四話の羊毛フェルトマスコット(キラッCHU)、一〇三話のキラッCHU(後から付け加えられるパターン)、一一〇話の桃山みらい、一三四話のマスコットたち(キラッCHU、メルパン、ラビリィ)、一四二話のインフルエンサー(白鳥アンジュ)
お約束ギャグとして登場する
上述の登場の仕方も、お約束ギャグの一種とも捉えられますが、シルクちゃんを用いた一連のお約束といえば、緑川さらの「かわいいものを見て緩んでしまった顔を、シルクちゃんの姿を想起することで、もとに戻す」というものでしょう。
例:三三話、一〇五話
物語の進行に関係する箇所
もちろん、ギャグとして登場することも、物語において重要な一部分なのですが、一方で、物語の大枠・プロットにシルクちゃんが関わってくる回も存在します。
初登場の三三話。バーチャル世界で高次元のシルクちゃん世界へ旅立つ九二話。アイドルマスコット姿で大活躍する一三一話(後の章で詳述します)。激目シルクちゃん城のアトラクションが登場する一三六話。これらが主なものといえるでしょう。
物語内でのはたらき
前述のシルクちゃんの描写や行為について、そのはたらきを考えると、以下のようなものといえるでしょう。
青葉りんかの嗜好を端的に表現する
りんかの行為によって登場することが多く、上記の「驚き・苦笑」を周囲に起こさせると同時に、青葉りんかの嗜好(一風変わったものに好意を抱き、かわいいと感じる)や行動様式(隙あらば、その一風変わった対象を称揚する)を端的に表現する一助となっています。
またシルクちゃんは、青葉りんか以外においても同様のはたらきをしています。五三話において、金森まりあはシルクちゃんを見て、少し間を開けて「かわいい~」と発しています。このことは、金森まりあが、何にでも「かわいい」を能動的に見つけだすことのできるキャラクターであることを表現しているといえるでしょう。
作品の空気感・雰囲気としてのギャグ・お約束
そしてシルクちゃんの登場は、時として、場の緊張をほぐしたり、過去の物語からの連続性を強調したり、登場人物たちの心情へ共感することをもって、プリ☆チャンという物語世界の雰囲気づくりや、親しみやすさに貢献していると思われるのです。

続く

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