統合報告フレームワークについて(1)

 「統合報告書」の内容にGRIスタンダードやSASBスタンダードなどを使用したサステナビリティ報告を組み込む企業も数多く見られるようになってきました。これは、アニュアルレポートなどで開示されていた財務情報(事業の概況、戦略、財務状況)と、CSRレポートや環境報告書、サステナビリティ報告書等で開示される非財務情報(環境、社会に関する取り組み)を統合して記載する報告書のことを意味します。そして、この統合報告書を作るうえでの一つの参考ガイドラインとなっているのが「国際統合報告フレームワーク」です。
 今月はこのフレームワークについて、2回に分けて解説します。

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<IIRCと国際統合報告フレームワーク>
 国際統合報告フレームワークとは、統合報告書を作成するためのガイドラインを示したものです。これを作ったのはIIRC(International Integrated Reporting Council:国際統合報告評議会)という国際的な非営利団体です。このIIRCは2010年にGRI(Global Reporting Initiative)を母体にイギリスで設立されました。規制当局、投資家、企業、会計士団体、基準設定者、学者、NGO などの様々な立場の代表者によって構成されています。

 IIRCは2013年に、統合報告書の作成に係る指導原則や内容要素をまとめた「国際統合報告フレームワーク(The International Integrated Reporting Framework)」を公表しました。世界各国の企業が統合報告書を作成する上での一つのガイドラインとして使われています。
 
 近年の非財務情報開示の枠組みの再編の中で、IIRCは米国を拠点としたSASB(Sustainability Accounting Standard Board:サステナビリティ会計基準審議会)と統合され、2021年6月には新団体VRF(Value Reporting Foundation:価値報告財団)傘下に入りました。2022年6月にはIFRS財団下にVRF財団が完全統合されることが発表されました。統合日は2022年8月1日です。

<統合報告書の普及度>
 IIRCがフレームワークを公開してから、統合報告書は世界各国で徐々に普及してきています。現在、70以上の国で、2,500社ほどの企業が統合報告書を発行しているようです。南アフリカ共和国のように統合報告書の作成が義務化されている国もあります。日本では統合報告書の作成は任意です。

 KPMG調査 によると、2020年に統合報告書を作成した本邦企業は579社とのことです。2015年には200社ほどでしたので、過去5年間で倍増していることになります。また、同調査によると統合報告書の作成は大手企業に集中しており、2020年の発行企業の92%が東証一部上場となっています。ちなみに統合報告書の作成企業が、日経225構成銘柄に占める割合は82%、JPX日経400構成銘柄に占める割合は65%となっています。

<統合報告書の目的>
 では、大手企業が統合報告書を作成する目的は何なのでしょうか。国際統合報告フレームワークによると、統合報告書の主たる目的は、「財務資本の提供者に対し、組織がどのように長期にわたり価値を創造するかを説明すること」と示されます。つまり、この報告書の読者は財務資本の提供者(投資家等)と想定されています。財務資本の提供者に対し、組織が長期にわたりどのように価値を創造するかについて説明することが、統合報告書に求められます。それゆえ、この報告書には、関連する財務情報と、長期的な価値創造に資する非財務情報の両方が含まれる必要があります。

 もっとも、統合報告書は財務資本の提供者以外にとっても、意思決定する上で有益な情報を提供することになります。国際統合報告フレームワークでは、「統合報告書は、従業員、顧客、サプライヤー、事業パートナー、地域社会、立法者、規制当局、及び政策立案者を含む、組織の長期にわたる価値創造能力に関心を持つ全てのステークホルダーにとって有益である」と示されています。
 
 この部分の記述を見ると、投資家への情報提供のみを狙うシングル・マテリアリティ(SASB等)ではなく、多様なステークホルダーへの情報提供も意図するダブル・マテリアリティ(GRI等)の立場を採るようにも見えます。SASBと合併したものの、もともとGRIによって設立されたというIIRCの背景が、この立ち位置の曖昧さに繋がっているのかもしれません。

<統合思考とは>
 前述のように統合報告書とは、財務情報と、長期的な価値創造に資する非財務情報の双方を開示するものです。単に両者の要約を併記するものではなく、むしろ長期の価値創造のために、それらの情報をうまく結合することが重要となります。これが「統合思考」といわれます。

 統合思考とは、簡単に言うと経営にESG(環境、社会、ガバナンス)を取り込むということです。ESG側面での経営基盤を備え、社会的責任を果たし、持続可能な社会に貢献しうる企業が、市場の信頼を獲得し、これが企業の長期的な企業価値の向上につながるという考え方です。経営者がどのような長期的視点を持ち戦略があるか、それがどのように実行され、組織の価値創造につながるのかというストーリーの展開が求められます。

 一方、既存の日本企業の統合報告書を見ると、その多くで価値創造ストーリーが明確に示されておらず、財務情報と非財務情報を単に併記しただけ、つまり財務報告書とサステナビリティ報告やCSR報告書の要約部分の合冊になってしまっているケースも少なくないです。なお、IFRS財団が公表しているサステナビリティ関連財務報告開示案における統合報告書掲載箇所は、一般財務報告書の一部に「投資家や財務資本提供者」を情報提供対象者とし、掲載されるという位置づけであり、シングルマテリアリティが前面に押し出される形になっている印象を受けます。この位置づけについては投資家や資本提供者以外のステークホルダーの視線や、SDGsとの親和性について、今後IFRS財団がIIRCの位置づけをどう考えていくのか、興味深いところです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・次回は、統合思考に基づいた統合報告書をどのように作成すれば良いかについて、国際統合報告フレームワークに示されたアプローチを解説します。

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