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GRIスタンダードについて(2)

 前回は2021年に改訂されたGRIスタンダードの構成についてご案内しました。今回は、GRIスタンダード改訂版で何が変わったのか、その変更点についてご説明します。なお、改訂版では、近年の国際的なサステナビリティ議論の展開に合わせて、新たな概念が導入された、あるいは用語の定義が変更されたといった変化があります。こうした概念や用語面の変化については、ここでは省かせていただきます。GRIスタンダードの構造や使用上での大きな変化と見なすものを、ご説明させていただきます。
大きな変化と考えられるのは下記の三点です。

   ・セクター別スタンダードの導入
   ・中核と包括オプションの廃止
   ・GRI内容索引(対照表)の構成の一部変更

 第一は、セクター別スタンダードの導入です。GRIスタンダード改訂版では、初めて特定のセクターを対象とするスタンダードが作成されました。2022年12月の時点で「11. 石油・ガス」、「12. 石炭(coal)」、「13. 農業・水産養殖・漁業(Agriculture Aquaculture and Fishing)」の三つが公開されています。このうち「11. 石油・ガス」のみが和訳されています。当該セクターに該当する企業は、これらのセクター別スタンダードを使用して非財務情報開示を行うことが求められます。特に、同スタンダードの中で示される「想定されるマテリアル項目(Likely material topics)」については、各社は項目ごとに報告すべきかどうか判断し、報告する必要がないと見なすのであれば、その理由をGRI内容索引(対照表)の該当欄に記述する必要があります。今後、合計で40程度の業種を対象としたセクター別スタンダードが作成される予定です。公開された場合は、その都度、メルマガ等を通じて弊社からご案内させていただきます。

 第二は、中核と包括オプションの廃止です。以前から、GRIスタンダードの使用には、「準拠」と「参照」の二つの選択肢がありました。さらに「準拠」を選択した場合には、中核か包括かの二つのオプションを選ぶことになっていました。それぞれの違いは開示事項の数であり、中核オプションの場合、公開すべき開示事項の数が抑えられていました。2021年の改訂版では、この中核と包括のオプションがなくなりました。「準拠」と「参照」の選択肢があることは不変ですが、「準拠」を選んだ場合、報告する開示事項の数は企業自身で判断することになります。なぜ、中核と包括のオプションが廃止されたのか、その理由について、GRIは「他の報告枠組みでの開示要求に対し、企業側が柔軟に対応できるようにするため」と説明しています。
 
 第三はGRI内容索引(対照表)の構成の変更です。GRIスタンダードを使用する企業は、必然的にGRI内容索引(対照表)を作成するので、この構成の変更は企業にとって影響が大きいのではないかと思います。改訂版でのGRI内容索引(対照表)の構成については、「GRI1:基礎」の付録に新しいフォーマットと解説が示されているので、詳細はそちらをご覧ください。新フォーマットでも、対照表の上段が一般開示事項の開示で、下段がマテリアルな項目の開示という構造であり、これは変わっていません。変わったのは、マテリアルな項目ごとに項目別開示事項を整理することです。言い換えると、各社のマテリアルな項目(マテリアリティ)と、項目別スタンダード(例:GRI 201:経済パフォーマンス2016、GRI 301:原材料2016、GRI401:雇用2016)を、それぞれ紐づけることが必要になります。

表:GRI内容索引(対照表) 新フォーマット(下段部分)

出所: GRI 1: 基礎2021

 これまで本邦企業が項目別開示事項を整理する場合、自社に関係のある項目を、経済シリーズ(200番台)、環境シリーズ(300番台)、社会シリーズ(400番台)と、番号通りに列記していたケースが多かったと思います。GRIスタンダード改訂版を使用する場合、自社のマテリアルな項目を説明する際に、同じ項目に関連する複数のインパクトを纏めて項目別にグループ化する必要があります。本邦企業の中には、マテリアルな項目を「幸せな暮らしをつくる」といった抽象的な言葉で表現していることがあります。こうした抽象的なマテリアルな項目を決定する基になった最も著しいインパクトとは何なのかを説明し、最も著しいインパクトをどの項目別スタンダードに纏めて紐づける際の判断は容易ではないと思われます。

 以上、2021年10に公開されたGRIスタンダード改訂版における主な変更点についてご案内させていただきました。なお、改訂版の原文は下記のURLから無料でダウンロード可能ですので、是非ご参照ください。
https://www.globalreporting.org/how-to-use-the-gri-standards/gri-standards-japanese-translations/ 

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