SASBスタンダードの概要

GRI以外のレポーティングスタンダードとしては、米国のサステナビリティ会計基準審議会(Sustainability Accounting Standards Board: SASB)が2018年に公開した「SASB(サスビー)スタンダード」が存在します。SASBは2021年6月に、国際統合報告フレームワークを開発した国際統合報告評議会(IIRC)と合併し、さらに2022年中に国際財務報告基準財団(IFRS)が設立する国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)に統合される予定です。こうした団体の統合が進むことで、「SASBスタンダード」への注目が高まっています。

SASBが2021年11月に開催したウェビナー資料によると、SASBスタンダードの普及率は、米国のS&P 500企業の間で69%、世界のGlobal S&P 1200企業の間では54%とのことです。2018年に公開されてからの数年間で、SASBスタンダードはGRIスタンダードに匹敵するほどの高い利用比率に達していることがわかります。

SASBスタンダードは2017年に暫定版が公開され、パブリックコメントを受け付けたのち、2018年に正式化されました。2000年からガイドラインを公開しているGRIと比べると、比較的新しく登場した基準となります。

SASBスタンダードは11の分野、さらにその中で77の業種ごとに構成され、それぞれの業種に求められる非財務開示事項が細かく提示されています。企業は自らが該当する業種を特定し、当該業種のスタンダードが指定する非財務情報を開示することになります。

GRIスタンダード、SASBスタンダードの両者とも、非財務情報の開示の標準化を進めるために提案された枠組みであることは共通しています。しかし、誰のために、何を目的として非財務情報を開示しているのか、という立ち位置が両者では異なっています。

SASBスタンダードは、あくまで投資家の情報ニーズに応えることが主たる目的です。非財務情報は、投資家を含む市場関係者のニーズに対応して開示されます。分析の対象は、あくまで財務的インパクトが大きい非財務項目となります。つまり環境、社会、ガバナンス等に関する非財務項目のパフォーマンスが、如何にして将来的に企業の財務パフォーマンスに影響を与えることになるかが焦点となります。企業の財務パフォーマンスに直接の影響がない非財務項目については開示対象にはなりません。

一方、GRIスタンダードは、投資家以外にも従業員や地域社会を含む多様なステークホルダーのニーズに応えることが目的です。分析の対象は、経済、環境、社会へのインパクトが大きい企業の非財務項目となります。つまり、企業が事業活動や取引関係を通じて、如何に経済、環境、社会に影響を与えているかが焦点となります。

このように、両スタンダードは非財務情報開示の標準化を進めるという点では共通していますが、これを開示する相手や目的が異なっています。したがって、GRIとSASBのそれぞれとも、両スタンダードはどちらを使うかという代替関係にあるのではなく、補完関係にあると主張しています。

実際、近年は本邦企業の中にもSASBスタンダードを使用してサステナビリティ報告を行う企業が増えていますが、GRIに代わってSASBを使うというよりも、GRIとSASBの両者の対照表を作成して併記しているケースが多いです。これからは、両者の目的や用途を踏まえ、報告相手や意図に応じた両スタンダードの使い分けが求められます。

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