君写真と違くない?

社会人数年目の冬のことだ。
この冬は、同棲していた彼女と別れてから引っ越しをしたばかりの俺にとって、新しい街で過ごすはじめての冬だった。

その日俺は夜道を散歩していた。
不思議なもので、どの街も昼と夜とでは表情が異なる。
20代前半にして4回の引っ越しを経験した俺からしたら、それ自体は慣れたものだった。
しかし、不意に見知らぬ地に迷い込んだかのような感覚を覚えてしまうのは何度目の引っ越しでも変わらないようだ。

東京での暮らしも数年目になる。
単身での上京に不安はなかった上に、元々大人数でいることはあまり好きではない。
だが、見知らぬ街でたったひとりとりでいる、いわゆるヨソモノ感は、ふと人に強い孤独を感じさせる。

その日の孤独感はいつもに増して強く、俺は近所に友人を作りたいと思った。
とはいえ世は平成の終わり。
かつて賑わっていた地域密着型の掲示板サイトやmixiはいまや虫の息だ。
それよりも新しいFacebookでさえ、アクティブユーザーの多くは高齢のため難しい。
俺は迷った末、マッチングアプリを使うことにした。
アプリをインストールし、プロフィールを作成していく。
友人を探しているとプロフィールに書き、食事や音楽のコミュニティに登録していく。
そして何人かの業者と思わしき女性からのいいねを経て、通常のユーザと思わしき女性とマッチした。

彼女のプロフィールには、「楽しく食事ができる人。ヤリ目はNG」と記載されており、その上住居も近いようで、お互いのニーズが一致していた。
顔写真を載せていたが、見た目はとても普通だ。よく言えば健康的といった感じだろうか。
茶髪のセミロングにカジュアルな服装だった。
年齢は6つ年上で30歳、少し年上だが俺にとっては大きな問題ではなかった。
俺は彼女に、「いいねありがとうざいます」から始まる定型文ともいえるメッセージを送った。
そこからは、引っ越してきたばかりであること、恋人ではなく友人が欲しいことなど、自身の身の上話をしつつ会話のキャッチボールをした。
その中で分かったことだが、彼女もこの街でひとりぼっちだった。
同棲のためにこの街に引っ越してきたが、ほどなくして恋人と別れてしまい、ひとりでは持て余す広さの部屋にひとりで住んでいるとのことだ。
その話を聞きシンパシーを感じた俺は、彼女となら良い友人になれると思った。

そこからもしばらくやりとりをし、マッチから数時間と経たないころ。
アクションを起こしたのは彼女だった。
「広い部屋でひとりでお酒飲むの惨めなんだよね。良かったら今から飲みに来ない?」
いきなりの自宅への招待に面食らった俺は一旦様子を見ることにした。
「お誘い嬉しいです!でも、知り合って間もない男を家にあげるの怖くないですか?」
我ながら至極真っ当な返信だと思う。
そう自惚れる間もないほどのはやさで次の返信が来た。
「少し怖いけど、ヤリ目じゃないんでしょ?なら大丈夫だよ。」
……なるほど?そういうものなのか少し疑問だったが、そのロジックについて議論するのは無粋だと思った。
それに、せっかく近所の人と知り合ったのだ、俺は有難く誘いに乗ることにした。

俺がまだ引っ越して間もないからということで、彼女が駅まで迎えに来てくれることになった。
数分後。どうやら俺の方が駅から近いようで、俺が彼女の到着を待つ形となった。
ネットで知り合った人とリアルで会う時のソワソワする感覚、年齢とともに薄れてきているな、などと思いつつ何往復かやりとりをしていると、
「俺君?」と声が掛かった。
視線を声のする方にうつすとそこには…..。


バラモス が あらわれた !


!!!!???????
俺は頭が混乱した。ゲーム中のバラモスよろしく先制でメダパニを打たれたか?
いや待て、落ち着け、一旦状況を整理しよう。
まず先述の通り、彼女は健康的なTHE普通の見た目のはずだった。
しかし、目の前には不摂生の化身かのような女性が立っていた。
これは間違いない、いわゆる「詐欺写メ」というやつだ。
「誰ですか?」「写真とちがくない?」言いたいことはあった。
しかし今回はボストロール戦とは違う、俺はあくまで友達を作りたかったのだ。
思考の果てに俺の口から出た言葉は、「あ、ドモ…」だった。
正直、帰ろうと思えば帰ることもできた。
しかし、「友達を作りたい」と自ら言った手前、相手の容姿が想定と異なっていたから帰るという行為は倫理に反するものだと思った。
彼女はそんな俺の気も知ってか知らずが、矢継ぎ早に話を振ってくる。
俺は諦めに近い感情の中俺は彼女の話に返答をしつつ、バラモス城に向かっていった。

そして駅から歩くこと15分ほど、バラモス城内は思いのほか清潔だった。
そして、彼女がアプリの中で言っていたことは本当だったのだろう、
そこはひとり暮らしには広すぎる2LDKの部屋だった。
ああ、寂しかったんだな。そう思うと彼女の顔写真の件は不思議と許す気になれた。
「そこに座ってね」と、彼女に玉座に座ることを促し、キッチンの方に向かっていった。
「会ってみて怖くなかった?大丈夫だったかなw?」
不機嫌を態度に出していた訳ではないが、道中の心境を詫びるかのうように、少しおどけて質問をしてみた。
「大丈夫だよwてかまだ24でしょ?周りから見たら半分犯罪じゃんって思いながら歩いてたw」と返ってきた。
どうやら彼女は明るくユーモアのある性格のようだ。
「犯罪w大丈夫、僕顔老けてるから、なんなら僕の方が年上に見えるかも」
ユーモアにユーモアで返すと、キッチンから戻ってきた彼女から缶チューハイを手渡される。
「確かにねw」、少し間の空いた返答と共に、彼女は自身の缶を俺の缶に軽くぶつけてきた。

彼女はユーモアがあるだけでなく、お酒もかなり強いようだ。
「職場以外の人と話すの久々w」としきりに言いながら、ご機嫌で次々と缶を空にしていく。
俺も彼女のペースに乗せられてか、いつもより早いペースで飲んでいた。

そしてある程度の話題について話し終えたとき、しばらく間ができた。
ふと時計を見ると深夜1時だ。
「明日も仕事だから、そろそろ帰ろうかな。」
俺はそう言いながら、家までの道を覚えていないことを思い出した。
それを察してか、「大丈夫?道分かる?」と彼女が訪ねてくる。
覚えてないことを申し訳なさそうに答えると、「明日早番だから早朝一緒に駅に行こう。それまでソファで寝てていいよ。」とのことだ。
自ら帰ると言い出したものの、結構な量のお酒を飲んでいた俺は歩かなくても良いんだという安心感からか、程なくして眠りに落ちた。

俺は深酒をすると眠りが浅くなるタイプだ。
何分寝たか分からないが頭痛の中目を覚ます。

そして程なくして、体の下半分に重みを感じることに気付いた。
違和感の方に目をやったとき、『人類は思い出した ヤツらに支配されていた恐怖を… 鳥籠の中に囚われていた屈辱を……』

まとめると、ヤリ目NGって自ら言ってる女ほどスケベ

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