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【movie】Amazing Grace : Aretha Franklin / Respect : Jennifer Hudson

 1970年頃はわたしがブラック・ミュージックに出会っていた頃でした。映画『Respect』で女優ジェニファー・ハドソンが10代、20代の「ソウルの女王」アレサ・フランクリンを演じ、熱唱している姿がフェードインして、映画『Amazing Grace』で本人アレサ・フランクリンにシンクロしていくようでした。1972年1月13、14日、30歳のアレサがロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会「ゴスペル」だけを歌ったライブ・レコーディングを収録したドキュメンタリー映画と、2021年に2本映画が同時に公開されたことは、偶然ではないかもしれない。生前にはドキュメンタリー映画の公開を認めていなかったうえ、女優ジェニファー・ハドソンを主演に指名したのはアレサ本人でした。
 1963年、マーティン・ルーサー・キング牧師を中心とする20万人もの人々が集まり、ワシントン大行進が行われました。公民権運動が盛り上がりソウル・ミュージックの進化に影響をあたえていたが、アレサはその渦中にいるかのようでした。
 1967年、アレサ・フランクリンが歌った『リスペクト』は、オリジナルはオーティス・レディングが歌っていた男性目線のラブソングが、アレサによって女性への敬意と理解を示す歌へと見事に変わっています。この年不幸なことにオーティスは飛行機事故で亡くなってしまいましたが、アレサのバージョンはその後、公民権運動やフェミニズム運動のアンセム(カンタータ)となり、ダイアナ・ロス、テンプテーションズ、スティーヴィー・ワンダー、ブルース・ブラザースなどの有名アーティストたちにカバーされています。
 天才シンガー、オーティス・レディングの死によって後にゴスペルの唱法、グルーブ感、パフォーマンスをベースにしたスタイルは、公民権運動を背景に連帯性を求められ、黒人文化の核である黒人教会の存在が重要になり、ソウル・ミュージックが黒人としての誇りを喚起し、自らを肯定する表現としてパワフルに機能したのです。
 公民権運動が様々な形のナショナリズムや自己主張に発展していく中で、アレサ・フランクリンゴスペル感覚溢れる、断固たる信念と誇りに貫かれた表現で、この時代をシンボル的存在となりました。
 1972年、「ゴスペル」の曲だけを収録した素晴らしいアルバムをプロジュースしたアレサ・フランクリンは、来たるべき時代の「ソウル」を向かえるスタート台を意識したのではないでしょうか。70年代は「ソウル」が多岐にわたり変容する時代であり、75年にベトナム戦争にアメリカが敗北することで混沌としたなかで76年の建国200年を迎えることなり、複雑化・多様化・商業化していくアメリカの音楽界で40年以上もトップを走り続けた才能は、「ゴスペル」を基盤とした歌唱の上手さだけではなく、音楽を昇華させる神がかり的能力と曲の高揚を洗練させるプロジュース感覚だったのではないでしょうか。本当に歌の巧いシンガーソングライターでした。
 RESPECT‼ Aretha Franklin.
 

映画『アメイジング・グレイス(Amazing Grece)』2021.5.28公開 
 2018年8月16日、惜しくもこの世をさってしまった「ソウルの女王」アレサ・フランクリン1972年1月13日、14日、ロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で行われたライブを収録したライブ・アルバム「AMAZING GRACE」は、300万枚以上の販売を記録し大ヒット。史上最高のゴスペル・アルバムとして今も尚輝き続けている。
 その感動的な夜が遂に映像で蘇る。コーネル・デュプリー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、バーナード・パーディー(ドラム)らに加えサザン・カリフォルニア・コミュニティ聖歌隊をバックに、アレサが自らのルーツである"ゴスペル"を感動的に歌い上げた今や伝説となっているこのライブは、実はドキュメンタリー映画としても撮影されていた。当時監督を務めたのは、映画『愛と哀しみの果て』で知られアカデミー賞を受賞しているシドニー・ポラック。アルバム発売の翌年に公開される予定だったが、カットの始めと終わりのカチンコがなかったために音と映像をシンクロさせることができないというトラブルに見舞われ、未完のまま頓挫することに。しかしいま、長年の月日が経てテクノロジーの発展も後押しし、遂に映画が完成。
 音楽史を塗り替えたといわれる幻のライブが、日本で初めてスクリーンに登場する!
撮影:シドニー・ポラック『愛と哀しみの果て(Out of Africa)』1985 
映画化プロデューサー:アラン・エリオット

出演:アレサ・フランクリン、ジェームズ・クリーブランド、コーネル・デュプリー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、ケニー・ルーパー(オルガン)、パンチョ・モラレス(パーカッション)、バーナード・パーディー(ドラム)、アレキサンダー・ハミルトン(聖歌隊指揮)他
映画『リスペクト(Respect)』2021.11.5公開 
◆出演:ジェニファー・ハドソン『ドリームガールズ』、フォレスト・ウィテカー『ラストキング・オブ・スコットランド』、マーロン・ウェイアンズ『G.I.ジョー』、メアリー・J. ブライジ
◆監督:リーズル・トミー 
◆脚本:トレイシー・スコット・ウィルソン

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