見出し画像

新国立競技場(仮称)ザハ案デジタルデザイン設計

 2012年11月、新国立競技場の国際デザインコンペで最優秀賞に選ばれたのは、イラク出身の女性建築家 ザハ・ハディド氏のデザイン(ザハ案)でした。2013年9月に2020年のオリンピックが東京開催に決まった背景には、ザハ案のプレゼン・イメージが貢献したことは周知の事実です。
 明治神宮外苑地区の限られた敷地における施設の規模と景観の観点からの問題と、コンパクト五輪と震災復興五輪を掲げたオリンピック関連予算の課題を含みながら、見切り発車した新国立競技場整備計画。2014年1月、設計JV(日建設計・梓設計・日本設計・アラップ設計共同体)による基本設計がスタートしました。JSCからザハ・ハディド事務所および設計JVに対する基本設計に着手するにあたっての書面が交付されました。

「新国立競技場の改築整備に係る絶対条件」という書面を交付。2014.1.8
1 .観客席は8万席を確保すること。
①オリンピック時8万席、レガシー8万席+α、FIFA仮設を含み8万席
②レガシー8万席(譲歩案)
2 .面積は22.5 万㎡(日本国内法規)を超えないこと。
3 .可動席を有し、臨場感あふれるスタジアムとすること。
4 .開閉式屋根を有し、天候に左右されない安定的なイベント開催と増収を可能とすること。
5 .事業費として現時点における見積額は、周辺整備工事を含み1,625 億(一部後送り)として設計すること(解体工事は67憶別途)

 2014年8月、設計JVとの間で実施設計業務契約を締結しました。基本および実施設計の期間、デザイン監修者としてザハ氏はこの業務に携わることになりました。設計JVの4社のスタッフは100名を超える規模になり、一年を超える関係機関との協議も終え、実施設計は建築の許可(確認申請)を受ける準備を進める状況でほぼ完了していました。

2015年7月7日には、JSCが、第6回有識者会議を開催し、
①国立競技場の整備は、ラグビーワールドカップ2019・2020 年オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた整備、大会後の整備に分けて段階的に行うこと
②竣工は2019 年5月末(工期44 ヶ月)としたこと
③目標工事費は2,520 億円としたこと
④2020 年東京大会後の開閉式遮音装置の設置を前提とした運営収支は均衡する見通しであること、また、民間への委託を検討していること

①可動席の簡素化(仮設)
②ペデストリアン(歩行者用)デッキの縮小
③陸上トラック舗装のラグビーW杯後の施工
④開閉式遮音装置のオリンピック・パラリンピック後の施工
⑤芝育成補助システムのオリンピック・パラリンピック後の施工
⑥東西面カーテンウォールのオリンピック・パラリンピック後の施工

 2015年7月17日、安倍総理(当時)による整備計画を白紙に戻し、ゼロベースで見直す旨を突然発表するに至りました。

 政治に翻弄されたプロジェクトは、すでに実施設計を終えていた実現可能な建築ではありましたが、設計JVチームの労力には想像を超えるものがあり、困難な諸問題を解決に導いた努力に敬意を覚えます。インポッシブル・アーキテクチャーとして巨大プロジェクトは実現しませんでしたが、デジタルデザインという視点からのアプローチにより、鮮明な建築イメージが建築デザインを語るうえで重要であることを再確認できました。
 ザハ案が提示した建築表現の革新性と技術の難しさは、困難さが故の技術の進歩に繋がるものでした。シミュレーションを連動させた設計手法やマス・カスタマイゼーション(大量特注生産)による異なった形の部材を一つ一つ生産し、それを使って組み立てることが可能となることで、建築のものづくりの現場で構築しようとする試みでした。周辺環境の影響をシミュレーションし、その成果を組み込んだ形状をデザインできれば、新しく建つ建築はその環境にフィットしたものが技術的には解決できる可能性を追求したのではないでしょうか。 

 巨大プロジェクトが東北震災の復興に向かう労力と財力側に少しでも振り向けられたことには「安堵」しましたが、建築のデジタルデザインの革新と技術の進歩に追いつく機会を失ったことに将来への「不安」を覚えましたし、当初の建設予算1,300憶円ではあの新国立競技場しか建てられなかったのかと「へこむ」次第でした。

 コンパクト五輪を謳った2020東京オリンピックの当初の予算7,340憶円が、直接経費14,530憶円に膨れ上がり間接経費をも含めると、3兆円を超えると言われています。東京オリンピックスタジアムの建設費は最終的に1,569億円となりましたが、競技場としてのイベント運営と維持管理コストのバランス次第では、負の遺産になりかねません。50年、100年を見越した明治神宮外苑と周辺地域における都市景観を探る、新しい都市計画を立案することを望みます。

 オリンピックスタジアムは、オリンピックというお祭りの櫓ではなく常設のイベント競技場施設です。性急な計画のまま進められた施設整備を今一度俯瞰して、より良い設備と環境を整えるための時間をつくり、見直す努力が施設に携わった人たちの責務になります。

 1月2日オリンピックスタジアムに於けるテレビ中継のラグビーフットボール大学選手権大会を見ているとき、スタジアムの観客席からの中継カメラワークから写る画像から、客席目線のシミュレーションでスポーツ観戦者の感想・意見を参考にしたのかなと思いました。(自身フットボールファン)

確認申請書、実施設計図書、許可書 https://youtu.be/1ifQBrqGd7k
確認申請書(構造)、キールアーチ詳細図 https://youtu.be/9vStna2ncPg

 建築のデジタルデザインに興味のある方は、日建設計のデジタルデザインチームの山梨和彦氏が、新国立競技場の設計にザハ案実現に向けられたデジタルデザインのアプローチや具体的な内容を語られている「いまこそ語ろう、ザハ・ハディド」ダイジェストをご視聴ください。パーフェクト編は有料となりますが、4時間20分たっぷり視聴できます。(当番組のご購入・ご視聴は、2022年5月14日まで可能です。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?