見出し画像

株式会社TMIT

こんにちは。
日本初の総合イノベーションプラットフォームICI総合センターです。

近日「ネット上のオープンイノベーションの場」として開設する「ICIオープンイノベーションLIVE」を記念して、今日からICIの共創パートナーであり「ICIオープンイノベーションLIVE」にもご参加いただく各企業様に自己紹介をお願い致しました。まずは株式会社TMIT様です。

以降は株式会社TMIT様作成の文章になります。

株式会社TMIT

“知識, 智慧、そして、ユーモア”
 株式会社TMITは,2007年に創設された研究成果活用型の都立大学発のベンチャー企業です。専門は最先端技術を誇る宇宙航空工学ですが,この研究成果を,日常生活を含む広い範囲に活用して,多くの人々の幸せにつなげることができるよう努力します。
 人類がこれまで獲得してきた貴重な知識を有効に使い,英知輝く知恵を大いに発現させて,そして,わたくしたちが生きてゆくために一番大切なユーモアであふれた活動を目指しています。

主なマイルストーン
• 2007年8月16日 都立大学のベンチャー企業第1号として設立。
• 2008年9月12日 ベオグラード大学名誉博士(ノーベル賞受賞者Jerome Friedmanたちと)
• 2010年8月30日 観測ロケットS520-25による132.6mスーパー・テザーの宇宙伸展に世界で初めて成功。日本・米国・欧州・豪州の国際協力。
• 2015年2月3日科学研究費補助金取扱規程に規定する研究機関に指定
• 2015年3月30日「高空風力発電研究会」第1回全体会議

画像2

図1.ベオグラード大学名誉博士授賞式(ノーベル賞受賞者Jerome Friedman等と)


研究内容及び実績概要

TMITでは下記のようないずれもテザー(Tether:曳き“ひも”)技術の応用となる宇宙航空工学関連の最先端技術に関する研究を続けている。そして、色々なプロジェクトに参加するなど、その研究成果の広い範囲の活用を探求している。

宇宙テザー
1. 宇宙のゴミを減らす(導電テザーの宇宙伸展実験)
2. 24時間太陽光発電(太陽発電衛星)
3. 宇宙への階段(宇宙エレベーター)

高空の風力を用いた発電方法
4.天空の風力発電(テザー型空中風力発電)
5.持ち運び風力発電機(渦巻き型風力発電機)

宇宙テザー

宇宙テザー技術は宇宙新技術の一つであって、人工衛星同士をひもでつなぎ構造物を形成するシステムであり巻き取った状態で打ち上げ、軌道上で展開することにより大型宇宙構造物の要素となる。
このため、宇宙テザー技術は次のような特長を持つ、すなわち、1)宇宙構造物に加わる重力は小さいため軽量で長大な構造物を構築できる;2)打ち上げ時にコンパクトに巻き込むことが出来る;3)圧縮には耐えられないが、引張りには強い構造物を構築することが出来る;4)スプールから巻き戻すことによって展開することが出来、自律的な構築が可能であり宇宙の人的資源の省力化につなげることが出来る;さらに、5)軌道上では、重力傾度により受動安定が得られる。逆に、1)絡むことがある、2)圧縮に耐えられない、3)切断すると無用となる、などの欠点がある。

テザーは軽量であるため、テザー技術の宇宙開発への応用は数多くある。NASAによる宇宙ハンドブックでは、空気力学研究、ミッションコンセプト、重力制御、導電技術、惑星ミッション、科学、宇宙ステーション、そして輸送といった多様な分野で見ることが出来る 。

画像3

図2.2007年1月:導電テザーの宇宙伸展実験国際メンバーによる最終的段階の詰め


1.導電テザーの宇宙伸展実験

画像4

図3.導電テープ・テザーの伸展の様子。子機から親機を見る
(右上の星型の物体はロケット本体)

2010年8月30日、導電テープテザーを観測ロケットS-520機で高度300km程度に上げ、電流を印加し電離層を励起し、人工オーロラを発生させるなどの数種類の理工学実験を行った。この、日本JAXA/ISAS(宇宙科学研究所)、欧州ESA(欧州宇宙機関)、米国NASA/MSFC(米国NASAマーシャル宇宙飛行センター)、そしてオーストラリアのRMIT(ロイヤル・メルボルン工科大学)との国際共同デモンストレーションでは、集電効率が高いけれども宇宙での自動伸展が難しかったベア導電テープテザーを“逆オリガミ法”(特許第4660763号「宇宙構造物」)を応用することによって世界で初めて132.6m伸展させることに成功した(図3).。この技術は、将来の宇宙における化学燃料を用いない推進器や、効率的な発電機として使用して、宇宙デブリ(ゴミ)生成の抑制に用いることが出来る。ちなみに、これに先立ち、首都大学東京として参加したESAのYES2 (Young EngineerSatellite 2) プロジェクトではひも型テザーを2007年9月25日に宇宙で31.7㎞伸展させた。これは、人類が宇宙で作った最長の構造物である。
2011年には欧州の宇宙デブリ抑制プロジェクトBETS(Bare Electrodynamic Tether Satellite)に参加した。

2.宇宙太陽発電衛星(SSPS: Space Solar Power Satellite)

画像5

図4.テザー型太陽発電衛星の編隊飛行(想像図)
一基あたり全重量:26,500 MT 出力:1 GW(一定)


宇宙太陽発電衛星(SSPS)は,太陽発電パネルを宇宙に打ち上げて展開し,宇宙空間で太陽光発電を行い,マイクロ波で地上に電力を送信する発電システムである.SSPSは宇宙空間で太陽光発電を行い,二酸化炭素を発生しないクリーンな発電システムであり、更に地上とは違って天候や時間帯によって左右されることなく24時間発電し、ほぼ無尽蔵なエネルギーを供給することが出来る。
SSPSのような大型宇宙構造物の実証課題の一つとして大型構造物の構築、形状維持、そして姿勢制御問題がある。そこで、これを自律的に解決することが出来、さらに、構造重量の軽量化による輸送コストの削減が可能となる、テザーシステムを利用した構造が検討されている。テザー型SSPSとは(財)宇宙システム開発利用推進機構(USEF)によって提案されている太陽発電衛星のひとつの構想で、発送電パネルとバス部とをテザーによってつないだシステムであり、テザーを用いることによって重力傾斜安定を得ることができるものである(図4)。しかし、重量が大きいため軌道上への運搬が容易でないなど、実用に向けてのいくつかの検討課題が残されている。


3.宇宙エレベーター

画像6

図5.宇宙エレベーターのKAIT構想(藤井裕矩:神奈川工科大学)

宇宙エレベーターは、静止軌道(高度36,000km)と地上を結ぶ究極の宇宙テザーであり、全長は104,000キロメートル以上におよび、宇宙開発には非常に有用であることはよく知られている。
宇宙エレベーターの理論は、1895年にロシアのコンスタンチン・ツィオルコフスキーが最初に提示し、1960年、ユーリイ・アルツターノフが、逆に静止軌道上からその上下にケーブルを伸ばす「軌道エレベーターの構想(天のケーブルカー)」を発表した。
1975年、ジェローム・ピアソンが必要な材料の破断長は4960キロメートルであることを解析した。その後テーパー構造にすれば理論的に宇宙エレベーターを建造できる強度のグラファイト・ウィスカーやカーボンナノチューブが発見されたことにより、宇宙エレベーターは実用化可能と言われるようになった(図5)。
2003年にはブラドリー・エドワーズ が著書で技術的検討を発表している。また、2013年にピーター・スワンを中心として宇宙エレベーターハンドブックが執筆されている。(Peter Swan, David Raitt, Cathy Swan, Robert Penny, John Knapman, ed., Space Elevators, Virginia Edition Publishing,October 2013. 第6章執筆担当:藤井)
このように宇宙エレベーターの実用可能性が見えてきたため日本国内でも、一般社団法人日本航空宇宙学会で宇宙エレベーターに関する検討が行われた。 
さらに、2011年、株式会社大林組は東京スカイツリーに続く「究極のタワー」を造るための研究開発チームを立ち上げ、翌年、「50年までに宇宙エレベーターの運用を始める」と打ち出している。このため、宇宙エレベーターの開発は現在日本で一番進んでいるといえよう。

*高空の風力を用いた発電方法

画像7

図6.グランドでの凧揚げ実験(神奈川工科大学)

画像8

図7.従来の大型風車(左図)とテザー型UAV(右図)
Ahrens, U., etc. ed.: Airborne Wind Energy, Springer (2013)より

風力発電は重要な自然エネルギー供給手段である。風力発電では風況(風の状態)の良い場所の選択が主要な要素となる。風況の良いところとして、地表部のキャノピー(地表の建物で風が防がれているところ)を越えた高空があり、一定した強力な風力が得られる。
このような高い空における風力発電技術は2008年ころから基盤技術が発達したことから、米国、オランダなど海外で活発に研究開発がはじまった。
高い空では風力エネルギーが豊富であることを利用する空中風力発電(AEW: Airborne Wind Energy)方法の研究開発に向けての世界的な動きはCO2減少運動に真剣に取り組んでいる欧州を中心に大きく進歩しつつある。空中風力発電は、従来の大型風車の効率の良い先端部のみを取り出し(図7 左)、これをUAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人空中機)にして、テザーによって構造部を置き換えたもの(図7右)と理解できる。
テザー型空中風力発電手法では、重い発電機を地上におき、テザーを使って上空の風車で得られた風力エネルギーを地上に送るものと、風車と発電機を高い空にあげて、導電性のテザーで電力を地上に送るものとに分けることができる。いずれも大型の地上固定型風車に比べて5%程度の小型で軽くてシンプルとなるのが大きな特長となる。
さらに、雷や台風への対策として必要な時には地上に下ろすことも出来る、騒音などの公害が少ないなども、従来の地上に固定する風力発電機に比べると非常に有利な特長となる。


4.テザー型空中風力発電

画像9

図8.テザー型空中風力発電の概念図

画像10

図9.テザー型空中風力発電システムのフィールドテスト(2020年1月30日妻沼グライダー滑空場)

画像11

図10.渦巻き型風車のフィールドテスト(2019年10月28日:千葉県富津海岸)

世界的に活発に研究され著しく進歩している空中風力発電手法について、「高空風力発電研究会」(大学、研究機関、民間会社の有志が参加)では2015年から調査や,研究開発を始め我が国に適した風力発電手法について検討を行っている。
海外に比べて大きく後れを取っているため空中風力発電における要素技術を抽出し、重要な要素技術を極めることを目標として多様性を保った研究を進めている。そしてこれらの要素技術を抽出した代表システムとして、垂直軸風車を空中に浮遊させるテザー型空中風力発電システム(図8)を取り上げ,風洞試験やフィールドテストなどの実験的な検証を通して,検討している。この方式は発電機地上設置・風車有・型であり、我が国独自の手法として海外でも高く評価されており、垂直軸風車を備えたテザー型であるため、市街地における風力発電の問題点(一定の風力が期待できない、大型化する、騒音などの公害をもたらす、など)が克服できる概念である。
現在、このシステムは風洞実験を経て、フィールド実験(図9)に移行する研究開発を行っており、テザーによるエネルギー伝達損失(エネルギーが伝わるときの損失)はほとんどないことなど、重要な要素技術が確かめられている。
しかしながら、空中風力発電技術は、より高い高度での長時間無人空中浮揚を必要とし、このため、現在の研究室レベルの研究からプロジェクトレベルに研究開発を発展させる必要がある。より大きな発電量を得るために、プロジェクトレベルでのUAVを、より高い高度に対応するシステムの構築,強風の中でも安定して飛翔させる技術,テザーの張力を一定に保つ技術,テザーのエネルギー伝達効率をさらに向上させる,など課題を克服することによって我が国に適応した独自技術の完成に向かうことが出来る。

5.渦巻き型風力発電機

画像12

図11.2019年12月24日 0:25、 TBSテレビ「理論的に可能です」で紹介されました。


渦巻き型風力発電機は(株)TMITとスコットランドのWindswept and Interesting Limited(Roderick Read)の共同開発による(図10)。
従来は空中に上げた風車 で得られたトルクを,ねじれ型によって地上まで伝達するために種々の方法が考案され,色々な試みがなされていた。しかし,単一のテザーでは捩れに対して剛性が低く十分トルクが伝えられない(捩れ切れを起こす)欠点があった。
渦巻き型発電機では、翼は効率の高い風車の先端部のみで構成し,風を横切り効果を応用するという空中風力発電の特長を用いている。トルクを伝えるテザー構造物は,先端に取り付けた凧の揚力と翼の揚力の両方で発生した張力と,FRP製のリング部の剛性を用いることによってトルクを地上に効率よく伝える構成としている。本機の試作品は株式会社TBSの取材を受け所定の性能を示して,2019年12月に番組「理論上可能です。」にて放映された。(図11:https://www.tbs.co.jp/program/riron_20191223
 現在、試作を続け性能を改良中であるが,分解組み立てが可能で,運搬移動が容易なため降雪や大降雨などの災害時に備えた地産地消のための発電機として役立つことが期待される。

画像13

図12 ビル群の屋上に設置されたアドバルーン群(昭和30年ごろか)
 
また、この渦巻き型風力発電機の応用例として高層ビル屋上での風力発電が考えられる。この発電機は安定したエネルギーを得ることが出来、かつ、テザーで構成されているために構造的に騒音や振動の難点も少なく、高層ビル群のエネルギー供給に加えて災害時の電気供給手段として用いることが出来る。図12はアドバルーン全盛時代のビル屋上に設置されたアドバルーン群である。今後渦巻き型風力発電機が改良されてアドバルーンにとってかわれば都市のエネルギー問題も軽減されることが期待できる。

3.まとめ


日常の使用から多くの分野で使われているテザー技術は宇宙航空工学でも最先端技術である。ここで取り上げた、宇宙デブリの削減は宇宙開発においては深刻なテーマであり、空中風力発電や持ち運びの出来る風力発電装置は生活に大きな効果をもたらすものである。太陽発電衛星や宇宙エレベーターも人類の将来の発展に大きくかかわるものである。
特に、再生エネルギー手法の風力発電は地球温暖化に対する強力な対策であるので,世界各国がしのぎを削って研究開発をしており,風力発電手法において空中風力発電手法が世界的に急速に発展しつつある。ここで提案したプロジェクトは我が国の国情に照らして小規模ながら我が国の優れた直線風車技術を用いたテザー型であり,設備稼働率に優れ,かつ,モバイル性,耐災害性性能の良い風力発電方式であると考えられる。
これらのみに限らず、TMITでは重要な要素技術を極めることを目標として多様性を保った研究を進めている。今後とも各分野の各位のご理解を得て,幅広い分野への研究成果の活用を進めてゆきたいと考えている。
なお、今回の研究開発において,関連する特許は第4660763号「宇宙構造物」,第4986218号「張力調節装置および宇宙構造物」であり,4節の「渦巻き型風車」については,特許申請中である。

謝辞
宇宙テザーの研究開発に関しては、ISAS/JAXA,NASA/MSFC,ESA、USEF、三菱重工などの、また、空中風力発電に関しては,都立大学,都立産技高専,神奈川工科大学,福井大学,東京工芸大学,大阪府立大学,日本大学、前田建設などとの共同研究の成果でもある。さらに、前田建設工業株式会社とは、グリーンコミット「災害時BCPセンターに適用可能なテザーを利用した高空風力発電装置」に関して研究開発を共同して行った。ここで、多くの方々のご協力に深く感謝します。