いちたって誰だよ
近所の靴屋のレジで店員に「もしかしていちた?(本当は本名)」と聞かれた。
見たところ僕と同い年くらいのようだ。
恐らく小学校か中学校かの同級生なのだろうが誰なのか全くわからない覚えていない。
とりあえず「そうですけど…」と情けなく返した。
「やっぱり〜!誰かわかってないでしょ!青木(仮名)だよ〜」と向こうから名乗ってくれた。
言われてみれば確かに青木だった。
ただ、青木は見た目がかなりギャル化しており一目見ただけでは確実に気付けないなという程に変わっていた。
日は変わってバイトの帰り道、家の近くで「お、いちた?(本当は本名)」と声をかけられた。
声の主は背の低いヤンキーであった。
僕の小中学校はかなり治安が良くやんちゃな子はいたがヤンキーは居なかった為またしても誰だかわからなかった。
「ごめん誰だかわからないや」と正直に打ち明けたところそいつは吉野(仮名)だった。
吉野とは中学時代はかなり仲が良かった。校内の車椅子用のスロープを全力で吹っ飛んで滑るという遊びをして制服のズボンを摩擦でテッカテカにして床のワックスをこそぎ落として遊んでいた。
あんなに一緒に遊んでいた吉野さえわからなくなってしまっている自分に一瞬悲しくなったが、冷静に考えてみると吉野の見た目も相当ギャル化している。男なのでギャル男化だろうか。
これだけ変わっているとわからなくても仕方がないなという気持ちにもなった。
同窓会でも似た様な事があった。
飲み会の途中で僕がトイレで小便をしていると後から入ってきた人に「いや〜みんな変わったよね〜」と話しかけられた。
僕はそいつが誰なのかわからず飲み会中ずっと気になっていた。
僕のモジモジに気づいたのか向こうが「もしかして誰かわかってない?」と聞いてきた。申し訳なさそうに名前を聞くとそいつは中川(仮名)だった。
言われてみれば顔はかなり中川のままだ。ただパーマを当てており小さめのアフロになっていた。
声もかなり低くなっていた。中川ともかなり仲が良かった為僕は本当に申し訳なく思い悲しくなった。だって中川の顔は割と中川だったから。髪型だけ突飛になったただの中川ですらわかってやれないのかと情けなく思った。
逆に皆よく僕の事を僕だとわかるなと思った。
僕は中学生の頃はテニス部で肌が黒く、中肉で背は低く背の順では前から3番目だった。声は比較的高く、剽軽(ひょうきん)で割と明るい性格だった。人前で一発芸とかしていた。
今の僕は背は高校でグンと伸び、声はかなり低くなった。外に出ないし元々色白な為肌は白く、ガリガリ。思春期を通して性格はかなり落ち着いて、暗めになったと自分では思う。
僕もかなり変化しているのだ。
なんなら4人くらいに「いちた(本当は本名)変わったね〜」と言われた。
だよね?
何故みんな約10年ぶりにあった僕の事がすぐにわかるのだろうか。
ふと股間に目をやると産まれた時から変わらず皮に包まれたままの陰茎がそこにはへにゃりと横たわっていたのであった。
早く手術をしよう。
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