人妻とジジイと俺とクリリン

電車で赤ちゃんを抱えている奥様に席を譲った。

譲った後、隣に座っていた銀歯がギラリと輝くお爺さんが赤ちゃんに向けて手帳型スマホケースで顔を隠したあと剽軽な顔で出てくるいないいないばあをしていた。
歯が銀歯なのと、顔がちゃんとお爺さんなのが相まって少し怖かった。

赤ちゃんは確実にお爺さんの顔は見ていたが特に喜ぶでも泣くでも無く無反応であった。

お爺さんはめげずに、というかもういないいないばあをしている自分自身が面白くなってしまったかのような様子でその後もいないいないばあを盛らずに30回くらい連発していた。誰もウケてないのに。

やがてお爺さんはいないいないばあに飽きてスマホを弄りだした。
すると赤ちゃんがスマホに興味を持ち、お爺さんの携帯を掴んで引っ張った。
お爺さんのスマホは地面に落ちた。

画面には銀閣寺の写真が写っていた。
待ち受け画面が銀閣寺とかでは無く、インターネットブラウザーで銀閣寺の写真が表示されていた。

お爺さんも「銀閣寺 画像」で検索とかするんだ、と思った。

奥様はお爺さんに謝り、お爺さんはいえいえ大丈夫ですよといった雰囲気。
そこからお爺さんはお子さんおいくつなんですか?等と世間話を始めた。

こんな事言うのもアレだがその奥様はめちゃくちゃ“良”かった。
かなり美人で性格も良さそうでエッチな最高の人妻であった。
声優で言うと井口裕香の見た目に早見沙織の雰囲気を併せ持ったような感じ。

段々とジジイにムカついてきた。
本来ならそのポジションは俺の筈。
俺が赤ちゃんにいないいないばあとか出来ないし人妻に世間話をふっかけられるような性格じゃないからってお前が奪うな。
俺が席を譲ったんだ。
俺の妻だ。

僕はずっと本を読んでいたのだが怒りで内容は全く頭に入って来なかった。

俺もフランクに人に話しかけれるたちだったらなぁとか、席をどうぞと言う所までは出来るけどその後繋ぐのは難しいよなぁとか考えていたら人妻は立ち上がり「もうすぐ降りるのでどうぞ。ありがとうございました。」と言ってくれた。

救われた。

ジジイへの怒りも収まり、またジジイの横へ座り落ち着いて本を読んでいた。

暫くするとまた赤ちゃんを抱えた人妻が乗ってきた。
今度は阿澄佳奈似の人妻。阿澄佳奈も人妻なので最早アレは阿澄佳奈本人そのもの。

すかさず席を譲った。
下心が全く無いと言ったら嘘ではあるが、さっきの人妻には譲ったのに今度の人妻には譲らないというのは何か気持ち悪いし、降りる駅ももうすぐだった。

ジジイもすかさずいないいないばあをしていた。
もうコンビネーションだ。
俺が席を譲り、ジジイが笑かす。誰も笑ってないけど。
気付けば俺とジジイはお笑いコンビを結成していた。(?)

すぐ自分の降りる駅についてしまったので電車を降りようとした際、人妻は軽く会釈をしてくれた。
ジジイはずっといないいないばあをしていた。

「もうええわ」って言ってやろうかと思ったし、もしかしたら「もうええわ」を待っていたのかもしれない。

その後ジジイがいつまでいないいないばあをしていたのかはわからない。
もしかしたら終点までやっていたかもしれない。

善行を積んで気分が良かったのでスクラッチを1枚だけ買って削った。

ハズレ。


ジジイ許さない。

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