母との記憶

 中学生の頃、母にB'zのライブに連れていかれた。

 自立心が生まれる思春期の真っ只中。母と2人で出かける、ライブに連れていってもらう状況が恥ずかしかった。
 会場は、さいたま市のソニックシティ。席は前から5列目、横位置もど真ん中。毎日家で流れていたB'zの曲が大好きだったこともあり、興奮した。客が女性9割の中で若い男の子が珍しかったのか、ギターの松本さんはピックを何回もこちらに向かって投げてくれた。

 良い気分は、ピックを取り逃したことをなじる母に破壊された。「松ちゃんがせっかく投げてくれたのに!野球でキャッチャーやってるのに、何で取れないのよ!」知るかよ、ピックはボールじゃねーし。
 母のライブ帰りにテンションが上がっている様子も、周囲にライブの興奮を伝える様子も、最高にウザかった。「自分が好きなものを、他人に押しつけるなよ!」と反発した。

 あれから、四半世紀。スポーツ観戦に魅せられた息子は、スポーツの話ばかりして、周囲にあきれられている。自分が好きなものを他人に押しつけているつもりは、ない。

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