高山が作家として更に飛躍することを願い創作活動を支援したい!~エッセイ「ガーターベルトの女」の作品化を目指して【342】
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随筆「ある所長2」
2018/01/17
所長編は、一編で終わらせようと思ったけど、所長との事と仕事に対する矛盾を書きます。
まあ、それと仕事全般の考えをとっちらかりながらも、情熱だけは入れて書きます。
今までで、多分ブログでは最長のエッセイになりましたが、お付き合いして下さい。
タイトルは、ある所長ですが
所長を通じて仕事に関してですね。
矛盾ってのは、仕事してたら当然有ると思います。
理想と現実です。僕は理想主義者ではないですね。
例えば、今問題になってる沖縄の新しい基地問題です。
これに対しては、政治的に反対です。
しかし、あの辺りに住む土木関係の人を沢山知ってます。
彼らと、かつて仕事してますからね。
彼らは基地に賛成です。
何故かは、基地が出来る事によって付帯する工事が当然出るだろうからです。
そこに、例えばトンネルが出れば、僕は取れたら行きたいです。
それと僕は原発に反対ですが、かつて僕の父は、原発に付帯するトンネル工事をしてます。
それで僕は、学生でしたが潤して貰ったのかも知れないです。
それが、現実です。
それを責めるのは、少し違うのではと思います。
それと僕は、係わったトンネルは何十本有るかは分かりません。
しかし、そのうち本当に役に立ってるのは数本だと思いますね。
若い頃、有る短い、農業の人達が使う為の道路トンネルで女の子と夜にデートに行きました。
車を停めて中でイチャイチャしてましたが、数時間の間に、夜とはいえ一台も車や人が通らないのに驚きましたね。
昼間もポツリポツリしか通りません。
一体、本当に必要だったのかと思いましたよ。
その反面で、まだまだ日本には、ここにトンネルが有ればって場所が沢山有ります。
そういう所にはなかなか出来ませんね。
役所や政治家が決めてるから、そこに利権なども当然絡むのでしょう。
利権の事はある程度知ってても、自分自身が掘るってなるとそういうのを気にしません。
割りきりますよ。
それより、予算が幾らかとかの方が余程大事です。
こういう言い方は変ですが、僕らはそれで飯を食べてる訳です。
飯のおかずが、多少見た目が悪かろうと関係ないのと同じです。
飯を食べれなくなれば、こうしてネットで書くのも難しくなる訳です。
だから、自分自身の仕事に関しては割りきりです。
他の事でも、これに色々な人が関わっててと思うと、迂闊に言えない部分も有ります。
原発等はそうですね。わざわざ僻地に有るのは安全の為と言うより、そこに何らかの産業をでしょう。
それが、原発なんですね。
だから、当然原発を止めるなら、働いて来た人の保証及び今後の新しい産業をです。
そう思いますね。
それを、元請けの所長と雑談してて話しました。
所長も数々のトンネル、及び他の現場を経験してます。
しかし、同じようにそれが、果たして本当に役に立つのかって事には、疑問を持ってるようです。
高山君、中学生じゃないんだからその辺りは俺達は割り切らないとやれないよな、と言われますね。
現場をやってると、しょっちゅうそういう事が起こります。
僕は先ずは効率を考えるのと、うちの会社及び坑夫が儲かるかを考えます。
それと、無駄をやりたくないですね。
本来はもっと沢山のお金が降りて、工期も長くすべきだと思ってます。
安かろう悪かろうでは、困るからですが、なかなか、そうは行きませんね。
そういう中に、薬液の注入工法って有ります。
これは、ここ十年から十五年程で一気に流行ってる工法です。
僕が初めてやったのが三十代初めですが、その頃は新しい工法と言われました。
その後、あちこちでこれをやって来てます。
色々なパターンが有るから簡単に説明しますね。
山が悪い所にこれを使うのが、元々の始まりです。
山が悪いとは、崩れやすいとかですね。
そこに、薬液をホースで岩盤に注入します。
しばらくすると、その薬液が固まるように出来てます。
大体はA液、B液とあって、出す所でそれを一緒に出します。
二つの液体が混ざると、固まり始めるんです。
固まると言っても、見ると発泡スチロールのように固まります。
岩と岩の間をそういう物で固めて、少しでも崩れにくい物にしようです。
昔から、これに似たのは有りました。
モルタル注入です。モルタルで山を固めるんですね。
今でもやりますね。
この薬液の注入は、悪い山だけで無く良い山にも使われるようになりましたね。
何でここに注入するの?って所にです。
注入をするのに簡単なマシンがあって、それでどのくらい入ったか分かるし、予定の分量は入れないといけないんです。
所が、入らないとか多いです。
するとどうするかは、元請け自らがその辺りにぶちまけてくれです。
沖縄でまだ、これが始まったばかりの頃に、元請け自らがそう言った時は呆れましたけどね。
その分量を消費しないと、次の時に予算が削られるんですよ。
そうすると、元請けも困るけど下請けは更に困ります。
そういう事は、大きな工事現場では多く有ります。
トンネルなら、代表的なのがダイナマイトです。
僕らは、ダイナマイトを多く使って山を掘削する事は、三流の坑夫がやる事だと思ってます。
しかし、有る一定の量は使わないといけないんです。
これも、後の予算に影響するからです。
すると、僕らはどうするかと言うと、ダイナマイトを坑内で燃やします。
余るように持ってきて、坑内で処理します。
雷菅もです。ダイナマイトは普通に燃えますが、雷菅は弾けますから注意しますけどね。
そして、帳簿にはそれだけ使ったと書きます。
それでも坑夫は、少ない火薬で山を掘削する事に誇りを持ってますね。
帳簿とか見える所はそうでも、坑夫同士が知ってれば良いと思ってます。
あいつは、やたらに火薬を多く使うと言われるのを、非常に嫌いますからね。
腕が良ければ、火薬を減らすが普通です。
色々な矛盾を抱えながら工事は進むんですよ。
これは、そのあとのコンクリート打設では、更に激しくなりますね。
掘削はまだ、ましですね。
そういう工事をしてて恥ずかしくないのかと言われても、恥ずかしくないです。
そういうのを決めるのは僕らではどうしようもないからと、僕らは飯を食わないといけないからです。
そういう中でも薬液の注入工法には、正直嫌気が差してます。
それで良くなるならやりますが、注入の液は、自分達や設計者が考えてる所に行かないんですよ。
山の中の隙間を伝わって、とんでもない所に行ってたりします。
それは掘削してたら分かりますし、何より山が良いのにそれをやるのか?です。
それとこの工法は、しばらくしてからベテランの坑夫達から山を逆に壊してる、と言われるようになります。
僕もしばらくしてこれは、おかしいってのに何度も気付きましたね。
結局、薬液は違う方向に回ってしまって全く効いてないだけでは無くて、山を悪くしてるですよ。
それに、無駄な工法に時間も取られるんですね。
今回もそれが、入ってて何度かはやりました。
しかし、明らかに良くなってる山にやろうとするから、所長にやらなくて良いのではと言いました。
すると所長はやってくれと言うから、所長、あれで時間を取るし無駄を越えて山を壊すから止めましょう、と言いました。
その代わりに、薬液の処理は所長は知らないことにして、こっちでやるからと言いました。
僕には、他に幾つも現場が有ります。
そこに、マシンと一緒に持ってて処理すると言いました。
マシンは注入のチェックする機械でも有るので、写真もきちんと残さないといけないけどそれもこっちでやるからと言いました。
大量に、僕は液を捨てようと思ってましたからね。
それが、出来る現場を持ってました。
すると、所長はダメだと言うから所長にそれは、絶対にやらないといけない話しですか?それとも、ある程度融通が効くんですか?と聞きました。
役所が来て、絶対にやらないと不味いって事も良くあるんです。
所長は、絶対では無いけどやってくれです。
そこで僕は、うちの他の現場で処理するからと提案しましたが、却下されました。
僕も絶対になら、そこで引きましたよ。
しかし、誤魔化せるんですよ。
そこから、所長と言い合いになりましたね。
僕は、あんな無駄な事をして山を壊すのはおかしいって貴方も知ってるでしょうと言いましたが、所長も意地になってたのか、下請けはきちんと聞くように、みたいに返して来ました。
上からの態度にカチンと来たから、おかしいって事を元請けの地質を見てる人が言ってますよ、と言い返しました。
元請けの一人に、毎回掘削前と掘削後に土を観察してる人が居ます。
地質学を専門にしてるらしい人です。
その人と話すと、高山さん、ここの山で薬液の注入は無駄と言うか全く効いてないですね、と言ってました。
それで薬液は何処に流れてるのだろうと聞くと、トンネルを掘ってる山の上に、多分行ってると言いました。
二人で上に登りました。
何ヵ所か分かれてたけど、大量の薬液の固まりが林の中から出てきましたね。
二人で見てまだ、奥に行けばこういう場所が何ヵ所もあるんだろうなあ、でした。
何だかやってる事がいかに無駄かと思うと空しいね、と言いながら山を降りました。
地質を担当してる人は、高山さんが捨てると言うのは良くないかも知れないけど、全く効いてないですよ、と所長に進言してくれました。
所長は、それでもやると言うから、それならあんた達でやれよと言い返しましたね。
役所が絶対にやれと言うならやるしか無いけど、融通が効くのに効かせない所長に、カチンと来てましたね。
所長は顔を真っ赤にしてました。
僕は事務所を出ると、坑夫にしばらく休憩と言いに行きました。
所長が折れないなら、こっちも折れてたまるかです。
こういうトラブルは、元請けと下請けでは良く有ります。
最初から融通が効かない人なら仕方ないでやることも有りますが、ここの所長なら分かるだろうでしたから、強硬に出ましたね。
坑夫達は、何かしらトラブルだなと言う感じで、休憩所に集まりました。
僕は坑夫に事の経緯を話して、しばらく様子を見ると言いました。
坑夫が一番無駄と言うのを知ってるから、それならしばらくボイコットしましょうでした。
そうしてたら副所長が来て高山君、君の方法で良いよと言いました。
副所長が良いと言うことは、所長も折れたんですね。
僕は、他の現場でかなりの量は処理するように坑夫達に言いました。
全体の半分以上捨てるようにです。
坑夫達は、色々段取りにかかりましたね。
僕はトンネル内に入って、後向と機械にグリスを差してました。
すると所長が歩いて来て、皆の分の缶コーヒーを渡すと、今回は悪かったなあとだけ言いました。
僕も、いえいえ所長に対して偉そうにして、こちらこそすいませんと謝りました。
所長も分かってて、思わず意地を張ったらしいです。
それと後で聞くんですが、現場全体を僕にコントロールされてるような気がして、カチンと来たらしいですね。
しばらくすると、笑い話しになりましたけどね。
坑夫達は、それまで仲良くしてた所長と高山さんが対立したのは驚いたと言ったけど、立場的に今後もこういう事はしょっちゅう起こるぞと言いました。
その後からの所長との打ち解け方は、前よりリラックスしたものになりましたね。
所長は、僕には色々ワガママ言いますけどね。
こないだも、在来工法をしてるうちの現場に連れっててくれと言われて、行きました。
これは、今はほとんどしない工法ですが、小さいトンネル等に使われる基本的工法です。
掘って、そこに鉄の枠の支保工法を入れて、そこを矢板で囲うと言う極めて原始的工法ですが、これが出来ると何処でも使えますね。
所長位の大きい会社では、もうこの工法の現場をやらないんですよね。
だから、理論的には知ってても実際にはほとんど見たこと無いって事で、興味を持ったようです。
しかし、これがトンネルの基本的工法ですし、僕はこの工法が出来る若い人をもっと育てたいです。
それと、この工法は僕の父とか祖父とかの時代は主流でした。
ナトム工法と言うのが出るまでほとんど、これですね。
単純だからこそ、実は難しいって工法です。
まあ、それで所長が連れて行ってと言うからそこの現場の所長に実は、こういう人が行くけどそっちの元請け大丈夫かな?と聞きました。
そこの現場の所長は五十代後半で、僕の若い頃から知ってる人です。
そしたら田舎の元請けだし、ほとんど来るのは測量だけだから大丈夫だけど、その元請けの所長変わってなあ、と答えて来ました。
それで二人で行きました。
ここには、Yが入って上手く自分自身をコントロール出来なくなった三十代の元班長も、移動させて来てます。
彼にも久しぶりに会えるなです。
現場の所長を除くと三人でやってて、夜勤は有りません。
現場の所長は、外で色々雑用したり小さい休憩所兼事務所で、簡単な事務もしてます。
規模の大きさは、元請けの所長の所とは比べ物になりません。
行くと現場の所長が、元請けの所長と挨拶して中に案内しました。
掘削は手でやるんですよ。
ハンマードリルを持って削って行きます。
そして削ったら、土を出して建て込みです。
鉄の枠の支保工を入れて、矢板を入れて行きます。
丁度建て込みの時でした。
これがすっと建て込める時と、なかなか上手く行かない時が有ります。
自分達で測量して立てるんですが、いざ立てるとなると微妙に違ってて、板が入りにくいとか有りますね。
三人が汗をかきながら、これから板を入れようとしてたから、山の様子は堅くて危なくないから元請けの所長を紹介しました。
一人は前の現場で知ってるから、所長ここで何してるんですかと驚いてましたね。
彼もここに来て、賃金は下がったけど毎日必死にやってるとの事です。
体が、更に絞られてるなと思いました。
僕が所長を紹介すると、皆に所長はきちんと挨拶して、これから建て込みかな?と聞くと、出来たら手伝いたいと言いました。
皆、少し驚きながらも、どうぞでした。
これが堅く無くて危ない状態なら、掘ったら直ぐ抑えながら建て込みするんですが、その日は大丈夫でしたからね。
板をどんどん入れて行くのに、所長も入って入れてましたが、なかなか入らないのに悪戦苦闘してました。
僕とうちの所長は後ろで見ながら、時々手伝ってました。
元請けの所長は、焦り過ぎてるのか角度が悪いとかで入らないのも多くて、後ろから僕が脚で蹴って角度を変えてあげたりしてました。
上の部分を囲うのに、たまたま重い矢板を持ってしまって、その上隙間が狭くて所長は汗だくでした。
僕が、大ハンマーを所長に渡してこれで叩き込んでと言うと、大ハンマー持ちました。
しかし、大ハンマーってのは、素人は最初は使えないんですよ。
持ったのは良いけど、打とうとして思い切り外しましたね。
もうその辺りで所長は、体力的に限界に来てましたね。
僕が代わりに行きましょうと言って、大ハンマーを振って二度三度で叩き込みました。
後ろで見てたうちの所長は、流石、力は相変わらず有るとか言って、笑ってました。
若い頃から知ってるし、今は立場が僕が上ですが、かつては色々教えてくれた人なので、僕も苦笑いですね。
建て込みが終わると、うちの所長がコーヒーとかジュースを買ってきてました。
皆で座って休憩ですが、元請けの所長はふらふらしながらも、色々細かく見てはここはどうなってるのかとか、ここはどうやって押さえたのかと聞いてました。
坑夫が答えたり、うちの所長が答えてましたね。
そして、実際にこんなに間近で見るのは、昔一度だけ見学に行って以来で、とても面白いしこれをやるのは、普通のトンネルとは、また違う苦労があるなあと言ってました。
子供が、楽しい玩具を発見したような感じでしたね。
しかし、汗の量が凄くて、ズボンまでびっしょりでした。
眼鏡が曇るからと外してる所長に向かって僕が、所長一人で仕事したみたいに汗が出てますよ、とからかいました。
実は、中に入る時に所長には、中は暑いから上着を脱ぐか中に着込んでるの脱いだ方が良いですよと言ったんですが、こんなに暑いと思ってなかったようです。
上の休憩所に上がると、ストーブを着けて所長の服を乾かしてました。
その間も、色々疑問をうちの所長に聞いてましたね。
聞いていた一人の坑夫が、所長の所のような大きな所ではもうやらないし、まさか手伝いをするとは驚いたと言うと所長は、笑いながら言い返しました。
うちでは、やらないかも知れないけど、これを知らずに何がトンネルの所長だと高山君に言われたし、それに少しでも体験しないと、坑夫の大変さ分からないですからねと答えました。
僕は、そんな風には言って無くてこれが、基本だとだけ言ったんですけどね。
聞いた坑夫は、所長のような人は珍しいし、所長のような所で働けたら坑夫も嬉しいですよ、と答えてましたね。
所長は、汗を拭いながら満足そうでした。
うちの所長が汗だくを見かねて、自分自身のリュックから着替えのシャツと上着を出して、元請けの所長に洗ってるから着替えて下さいと言いました。
所長は良いんですかと聞くと、着替えました。
少しは、ましになったようです。
他にも色々聞くと、もう一度入ってくると言うから何か起こると不味いから、若い坑夫に付いていくように言いました。
うちの所長は、ああいうタイプの所長は初めて見たなあ、と感心しながら笑ってました。
僕も初めてだ、と答えました。
三十分経っても四十分経っても戻らないから、多分あちこち見ては若い坑夫に質問してるんだろうなあと思ったけど、次の予定が有るから僕はトンネルの坑口から、所長帰りますよー!!と怒鳴りました。
所長は、惜しそうに戻ってくると、自販機で皆に二本づつの缶コーヒー買うと配って、また来ますからと言ってありがとうございます、と頭を下げました。
着替えをくれたうちの所長には、洗って返しますと言うからうちの所長は、あげますよと笑ってました。
車に乗るといやあ、凄いなあと言い出して、しばらく走ると自販機で止めてくれと言いました。
僕にまたもや缶コーヒーを渡すと、自分自身は大きめの水を三本程買ってて、それをぐびぐび飲んでました。
相当、実は喉が乾いてたと思います。
その後も二度ほど、自販機で水とかポカリのようなのを買って飲んでましたからね。
喉は、乾いて疲れてるようでしたが、興奮は収まらないようでしたね。
大ハンマーを上手く使えないのは情けないとか、高山君はやはりああいうのも得意だなとか言うから僕は、二十五年以上この世界に居るんですよと答えました。
それと、大ハンマーはパワーでは無くてコツですよ、と笑いました。
釣り好きの所長には、初めて竿を振る人は上手く行かないのと同じです、と言いました。
そして、所長が出来て僕が出来ない事も当然多いんですから、それぞれの持ち場をきっちり出来たら良いんですよ、とも答えましたね。
車で一時間近い所まで行ったから、所長と色々話しながら帰りました。
在来工法には所長は驚きと感動をしてたけど、あれを所長のような大きな所がやらないのは何故か?と言うと、小さ過ぎるのと金にならないからです。
所長から、在来工法やってる所の坑夫の給料聞かれましたから、正直に答えました。
所長の所の大きな現場の、三割程減なんですよね。
確かに、機械化されて大きな現場が多くなりましたが、やはりこういう工法を残すとかするためには、それなりのお金が欲しいのが本音です。
あのね、文化として残すとかではないんですよね。
どうしてもこの工法でないと出来ないって所が、まだまだ沢山有るんですよ。
ナトム工法が万能と思ってるのは、馬鹿ですよ。
そこに行かせるのに、技術者が居なくては困るだろうです。
それと、うちの会社の事情で言うと、一時的に数年前に仕事が激減しました。
それを救ってくれたのが、こういう小さい現場でしたからね。
所長にそういう話しをしましたね。
やはり理想としては、現場を知ってるインテリの所長達が、現場に本当に合う工法を選ぶべきです。
だけど、それで単価が下がるなら意味が無いんですよね。
昔の坑夫は稼いでました。
今は、昔ほど稼げないし、仕事があるだけましと言います。
それは、確かにそうですが、昔の坑夫を知ってる僕らの世代から見ると、今の坑夫は全体にレベルが落ちてます。
何故か?それは稼げないからですよ。
単純なんですよね。当時の坑夫は稼ぐのには必死なんですよね。
凄まじい状況でも、発破を掛けてましたからね。
その頃を見てたり参加してた僕からの意見は、当時の坑夫が何故必死になれたか?です。
そこには、それに見合うお金が出たからです。
そして、そういう風に必死にやってると、自然にレベルも上がるんですよ。
僕の今周りに居る坑夫はレベルは高いですが、これが二十年前ならどうかとなると、普通なのかも知れないです。
坑夫ってのは、サラリーマンじゃないんですよ。
職人なんですよね。
それなら職人らしく扱うべきなのに、徐々にサラリーマンのように扱われ始めましたね。
これを知るのは、僕らの世代がもう最後かも知れないです。
昔は、仕事のきりが良いと時には凄く早く、昼勤務でも上がりました。
例えば、昼に終わりとか有りましたよ。
三時とかは普通でしたね。
今は、それをやらせませんね。
最低でも、五時までは現場に居てとか言われます。
夜勤なら時にはそれをやるけど、やった後、大抵元請けから怒られますね。
職人なんだから時には、丁度良いところまで来てたら、早めに上がって良いと思います。
それでどうこう言われるのが、非常に不快ですね。
他にも、喧嘩とか争い事はしょっちゅうでした。
それを今は、先ずそういう人間を元請けが嫌がります。
腕が有れば、多少の事には目をつむるってのが無くなりましたね。
肝心なのは、腕が良いかです。
それと、それに見合うお金を出してくれです。
段々と画一的になってます。
人格が良いのは勿論良いけど、そればかりでは無くて、破天荒でも腕が有れば良いんですよ。
シリーズで書いた耳の悪いYは、ある意味それですよ。
腕でのしあがってます。
彼に腕が無ければ、あそこまで庇いませんからね。
それを所長には言いましたね。
在来工法の話しと、坑夫は腕が一番だと言うのをね。
それと、それなりの時間とお金を出して欲しいです。
そうでないと、早いけど悪い物がどんどん出来ますよって事です。
所長は、トンネルだけでない世界も見てるから、そういう傾向が非常に強いのを知ってますよ。
それと、工法に関しても疑問を投げ掛けるけど、厳しいなあと言いますね。
多分、役所との関係をリアルに肌で感じてるから、厳しいなあとなるんでしょうね。
その辺り、やはり厳しいですかと言うと、うーんと悩んだように言いますね。
それでは、改革をと言う人が居るでしょうが、それが簡単に出来るなら誰か手を出してますよ。
硬直した国や役所との関係を崩さずにやっていかないと、生き残れないが現実ですね。
理想と現実ですよ。それで気に入らないから仕事を取らないとなると、下請けのうちなんて一年で潰れます。
父親の会社が、一つの現場の失敗が原因で潰れたのを見てますからね。
所長と言うのは、自分達に出来るのは少しでも、良い人材を育てる事だと言いますね。
もう、それくらいしか無いんですよね。
良い大学出て、インテリでも自分自身の生活は守らないと仕方ないなあ、と言いますね。
そりゃそうですね。
だから、大きな改革等出来なくても少しでも、その限定した中で良い物を作って良い人材を次に繋げるですね。
もう昔のような坑夫は出ないと思ってたら、Yのような例外も有りますからね。
しかし、Yは例外中の例外ですね。
第二のYを探すのはまあ、無理でしょうし、それより全体の底上げをすべきですね。
僕が社員になって約十年ですが、その間に心血を最も注いだのが、良い坑夫の確保と良い坑夫に育てる事です。
それが、今は実ってあそこは良いのを使うから、と言われるようになりました。
それでも僕に言わせたらまだまだ、良い坑夫居るし良い坑夫を育てないといけないです。
所長にそういうと、自分自身は後継者と、そして自分自身がいかに坑夫と向き合えるかに頑張って来たと言います。
それと役所との戦いも俺なりにしてきたつもりだけど、どんどん悪くなってると言いますね。
特に今は悪いと言いますね。
多分、この所長は余りその辺りを語らないけど、実は相当、役所や自分自身の会社と戦って来てると思いますね。
それと、この人が求めるのは、自分自身が坑夫に近づきたいです。
実にその辺りはユニークですが、考えたら後一つか二つ、トンネルの現場の所長出来たら良いらしいです。
年齢的にそういう年齢ですよ。
それを考えたら今は、いかに後継者を育てるかと、いかに自分自身が楽しむかだと言いますね。
坑夫に今からなれなくても、少しでも坑夫に近づきたいって、この人のある種の夢の一つかもと思いますね。
五十代半ばでやっとそれが、出来る現場を見つけたのは嬉しいと言いますからね。
この所長を、僕はユニークだと思うけど笑えませんね。
人間ってのは、それぞれの夢が有ると思いますからね。
僕の場合は、この人のようにきちんとした会社でないから、まだまだ現場に出れるでしょう。
それならいかに、良い坑夫を育てて自分達の技術を後に伝えるかです。
それと、僕は良く坑夫に言うんですが、何のためにこんなに汚れてこんなに空気の悪い所で仕事してるんだ?金の為だろうとね。
少しでも、坑夫にお金を取らせてあげたいですね。
その台詞を言いながらも、今の連中は金が取れなくて可哀想だなと内心は思いますよ。
理想は理想ですよ。
理想の坑夫に育てるには、金が付いて回るんですよ。
かつてフリーの頃の僕も、金で現場を動いてましたからね。
それを非難する人は居ませんでしたよ。
理想と堅実の狭間で、所長も僕も苦しんでますが、それでも良い人材をと思いますね。
簡単に理想を語るのは嫌ですね。
理想はあっても、飯を食わなきゃいけないです。
僕の場合は結婚して無いけど、様々な事情から家族を背負ってます。
その為には、仕事を取って現場をいかに上手く動かしながらも。良い人材を育てたり探すかです。
それが、僕の役目です。
所長も役所との戦いよりも、残された自分自身の現場での時間を、いかに有益に好きに過ごすか考えると言いますね。
それでもこの人は何か起これば、自分自身の会社とも役所とも戦うでしょうけどね。
所長が、五十代半ばで僕がもうすぐ五十になります。
この歳になると、自分自身が描いた将来と今の現実に悩みますが、所長はそれが少し解消されたと言います。
それと、所長は僕の過去の経歴を調べてますから何故、会社を興さなかったのかと聞いて来ました。
三度程そういう誘いが有りましたが、父親が悲惨な倒産の仕方をしてるし、僕はそういう器ではないと答えましたね。
もうすぐコンクリート班が入って来ます。
そうなると、この所長とも衝突が多くなるとは思いますが、それでも正直にガンガンやり合いましょうと言うと、そりゃそうだよと答えてくれてます。
それと理想は理想です。
所長に僕は、理想は有るけど、例えば大ハンマーを打つ時の肉体の軋みや、発破を掛けた時のダイナマイトの音を信じますよと言うと、言い方がいかにも君だなと笑いながらも、俺もそう思うと言ってくれましたね。
ユニークで芯の強い所長と出会えたのはとても嬉しい事ですね。
おわり
次回は随筆「ある女性事務員」
「ガーターベルトの女」~映画化のために
「ガーターベルトの女」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 番外編 番外編2 14 15 番外編3
「ガーターベルトの女 外伝」(フィクション編) 1
「新・ガーターベルトの女 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
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