『かわうそ』 春風亭貫いち

かわうそーー漢字で書くと獺、または川獺と書く。学術的には食肉目イタチ科に分類されており、2000年代に突入してからは人気は鰻登りである。その愛らしい姿は人々を癒し、都内にはいくつものカワウソカフェ、ないしはカワウソもいるアニマルカフェが店を構えている。サンシャイン通りにもお店があり、コロナ前の休日には、スタッフがカワウソを抱えて店の前で呼び込みをしていた。その可愛さに惹かれて多くの女子高生やカップルが店に吸い込まれていった。ちなみに貫いちは吸い込まれていない。吸い込まれたい気持ちもあるにはあったが、そのようなデートスポットに野郎一人で突撃するのは忍びなかったからである。
このカワウソという名前にはいくつが語源となる学説が存在するので、どれが正しいかは明らかでないが、それを紹介していこうと思う。

【学説①】
人を化かすのは狐や狸だけだと思われがちであるが、実はイタチの中でも一部の長命な個体は妖術を身につけ、イタズラをしたと言われている。彼らは川辺に生息している。彼らが活動するのは真夜中時分――酒に酔った男なんぞが水を飲もうと川に近づいてくると「ちょいとお兄さん」と声をかけてくる者がいる。男は誰だろうと顔を上げて見るとそこには一人の絶世の美女!「お兄さん、手ですくって飲むのは面倒でしょ?」と言って女は柄杓を差し出してくれた。ありがてぇと思った男は女から柄杓を受け取り、水をすくって口に運ぶ。ゴクゴクゴクと喉を鳴らして飲み込んでいく。やはり酔った時の水は格別に美味い!ふぅ~~と柄杓を口から離して一息つくと……柄杓の水は全く減っていない。「お兄さん酔ってるから水を飲んでるつもりでも全然飲んでなかったわよ」確かにそうかもしれない。改めて水を一息に…………飲みきることが出来ないっ!!「も~お兄さんったら、酔ってるんだから水をちゃんと飲まなきゃ駄目よ」そう言った女は男の手から柄杓を奪い、男の口に無理やりつける。「さぁさぁ、早く飲んで」「待ってくれ、これ以上は、、、もう」「何言ってるの、早く早く」女は手を休めることなく男に水を飲ませ続けた。翌朝になると川岸に一つの土左衛門が上がっていた。彼のお腹は水の飲みすぎなのか、ズタズタに張り裂けていたそうだ。
村の者は噂した。「やっぱりこれは、あの川に住んでいる化けイタチのせいに違いねぇ!あの川に近づくと化かされる!絶対に近づいちゃならねぇ」……これより村では化けイタチのことを川で人を騙す、川で人に嘘をつく、川の嘘のバケモノと呼び、これが今日のカワウソの由来となった。
【学説②】
蘇我氏と言えば有名な豪族である。特に蘇我馬子や蘇我入鹿は中・高の日本史の教科書にも載っており、日本人の認知度は割と高い。しかし蘇我氏にはあまり知られざるエピソードがあったのだ。
大化の改新において蘇我入鹿は中大兄皇子と中臣鎌足によって討たれた。この時、家族の多くは捕まってしまったが、入鹿と侍女の間に産まれていた隠し子は何とか脱出することにした。そして子どもは必死で走り吉野川まで辿り着いた。しかし閉鎖的なむら社会人であった当時では、他所から知らない子どもが来たとなると村人たちは穏やかではない。そして村人の一人が朝廷に報告を入れ、吉野川に追手が迫ってきた。彼はすぐに捕まってしまい、あわやその場で処刑されようかという時、自ら下をかみ切って命を絶ってしまった。そして死の間際、子どもは追手たちに呪いの言葉を残した。「親が何をしようと子がなぜ命を落とさなければならないのだ!外道のようなその所業を私は許さない!お前たちの家族、七代先まで取り憑き殺してやる」子どもの亡骸が突然獣の姿に変わり、追手・そして家族を殺してしまった。これは「吉野川の蘇我氏の怪」と呼ばれ、後年になると「吉野川の蘇我」「川の蘇」と省略形で語り継がれ、この地域に住む胴の長い動物をカワウソと言うようになった。
【学説③】
これは関ヶ原の戦を知らずに産まれてきた人が増えてきて、時代が天下泰平などと言われていた頃の話――ある男は江戸の商家を訪れた。男は狐の毛皮を買ってほしいと言う。しかし旦那も番頭も狐など生まれてこの方見たことがない。しかしそんなことを言えば足元を見られ、法外な値段を請求されることを知っている二人は、男の言い値五両で毛皮を買い取ることを決めた。しかしこの店の小僧は田舎育ちであるため、狐狸は見慣れているので、男の帰り際にこっそり聞いてみた。
「おじさん、あれ狐じゃないでしょ?」
「いや、ウチの近くの川で捕まえた狐だよ」
「狐は川に住んでないよ」
「最近、川住まいに変えたらしい」
「顔が長くないね」
「水によく顔をつけるからふやけたんだな」
「耳が尖ってないよ」
「世の中は天下泰平だ!時代が変われば人も変わる。狐も時代に合わせて尖ってないで丸くなったんだろう」
そう言って男は金を握りしめて足早に去っていった。
この頃、同様の手口で狐と言って別の獣の皮を売りつけられる事件があいつぎ、これらの皮は「嘘の皮」と呼ばれ、江戸後期にはこの動物が学術的に狐とは別の生き物であることが蘭学の浸透と共に広がり、この狐でない動物は「嘘の皮」が転じて「カワウソ」と呼ばれるようになった。


信じるか信じないかはあなた次第!!

2021.5.29

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