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9歳で『女吸血鬼カーミラ』に出会った話

とにかく、読書が好きな子どもだった。

放っておけば、一日中ひとりで本を読んでいた。福音館書店の月刊誌を複数買い与えられ、国語や道徳の教科書は配られたその日に通読して、低学年で高学年向けの本を読み、図書委員会に入って当番を口実に図書室に入り浸っていた。

私が9歳の頃、クラスで「学校の怪談本」が流行ったことがある。
教室内で回し読みされていたシリーズを読破してしまった私は、もっと怖い話が読んでみたくて、図書室のホラー・ミステリー小説の棚を漁るようになった。

そこで出会ったのが、『女吸血鬼カーミラ』だった。

(私が読んだのはこのバージョンではなく、子ども向けのものだったと記憶している。)

当時の私は、おそらく年間100冊以上の本を読んでいたのだが、タイトルや内容を鮮明に覚えているのはこの本くらいだ。

それほどの面白さ、世界にはこんな物語があるのかという衝撃、もっとこういう作品を読んでみたいという好奇心、さまざまな感情が掻き立てられた。
当時は言語化できなかったが、「萌え」の感覚もあったのだと思う。

それ以前は、親に買い与えられた絵本、名作文学の子ども向けリライトなど、お行儀の良い作品ばかりを読んでいた私が、親が眉を顰めるおどろおどろしい嗜好に目覚めたのは、この作品があったからこそだ。

そこから私は、同じ棚にある他のホラー小説や、アガサ・クリスティー全集を読み始め、エンタメどっぷりの読書遍歴へ進むことになる。

1872年に発表され、ブラム・ストーカー『ドラキュラ』にも影響を与えた怪奇小説。レズビアニズム色の濃密な作品でもあり、「百合族」のバイブルともされる

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そして、誰かや何かの導きもなく、9歳の私が、このように紹介される本に出会っていたのは、その後の趣味やセクシュアリティの暗示めいていた。


それから3年後、自らのセクシュアリティや性自認に惑う12歳の私は、ゲイ・レズビアン作品を調べるなかで再び、『女吸血鬼カーミラ』に巡り会うことになる。