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こばなし二本(カジノと林檎)

※2016年3月のJ.GARDENで配布したペーパーよりの再録です。新しめなので「ASSORT MIX」からは省きました。写真と本文は一切関連ないです……。

*一哉と逸(ノーモアベット)

「おい逸、この赤と青のコードのどっちか切らないと爆弾が爆発して死んじゃうんだってさ」
「唐突すぎるし理不尽すぎるし」
「ほら、タイマー一分切ってるし、とりまお前決めろよ」
「えっ」
「土壇場の引きってお前のほうが強い気するし」
「無理!」
「えー、じゃあ俺切るわ、青な」
「早い早い早い!」
「何だよ」
「青の根拠は?」
「コナン君の映画」
「適当すぎる」
「だってこんなもん考えるだけ無駄だろ、手がかりねーし。じゃあ赤にする?」
「いやそれも……」
「煮え切らねーなー」

「即断できるほうがおかしい。……そうだ、じゃんけんにしよう」
「おう、どっちが勝っても恨みっこなしな。最初はグー、じゃんけん……」
「ちょっと待った」
「おいっ」
「勝ったほうが選ぶのか負けたほうが選ぶのか決めてない」
「あー」
「だからそれを決めるためのじゃんけんをしよう」
「で、それを決めるためのじゃんけんは勝ったほう負けたほうどっちが選ぶんだよ」
「ほんとだ、えっと……あと一回勝負か三回勝負か」
「ていうか」
「なに」
「逸くんもう時間切れだわ、あと二秒」
「あっ」

「……何かすっげえ疲れる夢見たんだけど」
「俺も……」

*藤堂と雪(ワンダーリング)

「––––というわけで二択で死んじゃうらしいです」
「いや省略されすぎて全然分からない」
「一目瞭然でしょ、これ見よがしな赤青のコード、これ見よがしなダイナマイト、これ見よがしなタイマー」
「どっちか切った時だけ停止するって回路組むのも難しそうだけど……どうする?」
「んー、一分じゃなーんにもできない、せめて三十分あったらなー。まいっか、できるとこまでで」
「…………………キスしてる場合なのかな?」
「いつでも切ってくれていいですよ」
「どっちを?」
「ご自由に」
「さすがにプレッシャーなんだけど」
「そうですねー、死んじゃったらさすがに天国と地獄でお別れですもんね」
「そんな善人じゃない」
「ごけんそーん。蜘蛛の糸でも垂らしてくれます?」
「登ってこないくせに……いいよ僕が行くから。あっちでカジノでもやろう。きっと儲かる」
「じゃっ、話もついたし、もうさっくり両方切っちゃいますね」
「あ、おい」
「……ちゃんと落ちてきてくれるの、いい子で待ってますから」

「……微妙に幸せな夢を見たけど思い出せない」
「へえ」
「なに笑ってる?」
「ひみつ」

*桂と志緒(林檎)

行儀悪く、書類を読みながらコーヒーが入ったマグカップに手を伸ばすと、予想外に熱かった。まさにちゃんと予想をしていなかったせいで、心の準備が間に合わなくて身体が必要以上にびっくりしたのだと思う。
「あちっ!」
とっさに指を耳元に持っていき、熱を冷ましていると後ろから笑い声が聞こえた。
「英ちゃん、昭和〜!」
「は?」
「だって熱くて耳たぶ触る人なんか漫画かドラマでしか見ないよ!」
「え、そんなことねーだろ」
「あるある」
いや別に昭和で全然いいけど、するだろ普通に。と思って若者(志緒)に訊いてみると「したことないかも」と言われた。
「え、まじで……?」
「古いっていうより、冬でもない限り耳たぶのつめたさなんか知れてない?とっさにそこで冷やすって感覚がよく分かんない」
こんなところにジェネレーションギャップがひそんでいようとは。
「え、じゃあ機械叩くのは昭和だと思う?」
「機械ってテレビとかパソコン?」
「いや、コピー機。職員室でちょいちょい詰まるのあんの。いつもじゃないし、メーカーさんに見てもらっても故障はしてないんだけど、なーんかこう機嫌悪い時ある的な……つい叩いちゃうんだけど、それも何か笑われたから」
「大学の研究室にもあるよ、時々動かなくなるプリンタ。でも叩きはしないかな」
「あ、やっぱり?」
「でも撫でちゃう」
「え?」
「叩くよりは撫でるほうが機嫌直してくれる気しない?」
「あー……そーだね……でも、それやって許される人と許されない人がいると思う」
「何それ」
「だって志緒ちゃんがやってたらかわいいじゃん」
「はっ?」
「かわいーなあ、今度うちでもやって、ていうか俺も撫でて!」
「意味わかんないし!」
「あれ叩かれたよおっかしーなー」
「ていうか!」
「うん?」
「耳たぶもコピー機も、構ってほしくてちょっかい出されてるだけじゃん!」
「え、いや、まあねえ……」
「ばか」
ご機嫌斜めになった志緒の耳たぶは熱かった。その後、熱くならないマグカップ買ってもらいました。ラッキー。

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