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きみにジュースを買ってあげる

「つないで」発売記念こばなし

※特にネタバレしてません

「設楽さん、夏だから怖い話してください!」
「こらっ、皆川!」
「唐突だな」
「ちびるほど怖いの知ってそうだなって」
「何で? まあいいや、そうだなーー報道局にいた記者の話でもしようか」
「おっ、身近な感じ!『ほん怖』みたいでいいですね〜」
「その記者は仕事に打ち込んで深夜残業上等でばりばり働きました、上司や人事の度重なる注意にも耳を貸さずばりばり働きすぎた結果、人事異動を命じられます」
「ほう」
「異動先は残業がほとんどない事務系の部署でした。九時十八時の勤務を粛々とこなした彼の身にある日とんでもない恐怖が降りかかることになります……」
「それからそれから⁉︎」
「激務だった前年の所得に対してがっつり課税された結果、手取りが十万円を切ってしまったのです」
「キャーッ‼︎」
「え、怖い話ってそっち……?」
「まあ多忙な時って遣う暇もないから貯金はできてたらしいけど」
「思ってたのと違うけどリアル〜! てかそれ相馬さんの話じゃないんすか?報道じゃなくて制作からコンテンツ事業部行った時の」
「残念ながら制作の時点で管理職だったから青天井の残業代なんかつかないんだよね」
「あ、そっか、てことは今も……」
「そう、俺も栄も時給にすると竜起より低賃金なんだから優しくしてね」
「いやいや騙されないっすよー、ボーナスでがつんと差がついてるはず……」
「まだ弊社にそんな夢見てるの?ないない」
「え〜……」

「おい、皆川が唐突に『ジュース買ってあげましょうか?』って話しかけてきたんだけどどういうことだよ」
「竜起はほんと素直だな〜。管理職は金がないってぼやいただけ。手当は減る一方なのに立場なりのおつき合いは増えるし」
「余計なこと吹き込むんじゃねえよ。飲み食いに差し支えるほど困窮してねえだろ」
「差し支えたらバイトでもしようか、副業OKになったし」
「コンビニ? 頑張れよ」
「発想が貧困だね、会社の名前さえ出さなきゃいいんだから、ここで身につけたスキルを応用するほうが手っ取り早い」
「じゃあYouTuber? 逮捕だけはされんなよ恥ずかしいから」
「YouTubeはむしろ素人っぽいほうが有利に見えるな。普通に商業ベースの映像系に取り組むとして……そうだな、栄が監督したAVとか俺は見たいかもしれない」
「『全裸監督』でも見てろ、つうか何で俺が働く設定になってんだ」
「見たいな〜すごく見たいな、食い詰めたらやってくれる?」
「そんな面倒な仕事するぐらいならあんたとやる時に金取るよ、一回十万」
「……いいよ?」
「今リアルに貯金額で割って回数計算しただろ、きめーな」
「与太話なんだからもうひと桁増やせばいいのに、栄は謙虚だなあ。いい子だからジュース買ってあげようか」
「いらねえから異動願持ってこい」
ほんとにいい子だったらがっかりするくせして、何言ってんだかな。

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