見出し画像

This Night

クリスマスこばなし、「ふさいで」の設楽と栄。

「宗太、サンタさんにお願いするもの決まったか? そろそろお手紙書かないとな。何が欲しい?」
「……栄?」
「じゃあ相馬に手紙書こっか、遊びに来てって」
「栄をもうひとりくれたらいいんだけどなー。そしたらひとりは宗介おじさんにあげるから」

『……ていうことがあって』
「何の話だよ」
『うちの子がかわいいって話、まー分裂は無理でもまじで遊びに来てやって、じゃあな、おやすみ』
かわいい、ですませていいものだろうか。枕もとに放り出した携帯の、通話終了アイコンを押したのは栄の指じゃなかった。
「ふたりいてもあげないけど」
「そんな権限付与した覚えはねえよ、つうか聞いてんな」
「聞かれたくないならハンズフリーでしゃべるなよ」
携帯持つのもだるいんだよ。うつ伏せた栄の背中を斜めに横断するように設楽が寄りかかってくる。
「重い」
「かわいいなあ」
「何がだよ」
「無邪気に『もうひとり』なんて言っちゃって、換えがきかないことの喜びも恐怖もまだ本当には知らないんだって思うとかわいいよ」
「ガキと変態の思考回路は俺には理解不能」
「ん?」
「あんなに懐かれるような覚えがこれっぽっちもねえ」
外見にしろ内面にしろ子ども受けする要素はマイナスの乗算だし、栄がつくっていたバラエティ番組が好きと言っても、演者にハマるのならともかく、裏方にご執心なのはマニアックすぎるだろう。
「え、分かんないの? バカだなあ」
「うるせえ重いどけ」
後ろ手であてずっぽうにはたくと手首をつかまれた。手のひらに唇の感触。
「大好きなパパを、大切に思ってくれてる人間だからだよ--何があっても変わらずに」
「ならあんたも条件一緒だろ」
「だから愛されてるだろ、ひとり分けてくれるほどには」
あげないけどね。声をひそめて笑う息が、指のつけ根をくすぐる。
「百人いたら……それでもあげないかなー」
「さっきから悪夢のような妄想してんじゃねえ」
「何で、番組十個はつくれる。二十四時間じゃ足りないな」
何で全員に働かせる前提なんだよ。
「そんであんたも百人に増殖すんのか」
「俺はひとりだよ、何で楽しみをほかの自分とシェアしなきゃいけないの」
世迷言とはいえいかれきった答えで、さすがに笑えた。
「狂ってんな」
「悪い子なんだ」
捕らえたままの指に軽く歯を立てて設楽は言う。
「だから、サンタに選ばれたことがない」
「妥当だね」
「そう、安心する」
ファーザー・クリスマスの愛と善行の光からはみ出し、隠れて、背を向けて、絡まって、眠って。そんな夜だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?