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水中VRでカラダから解放され、ココロ満たされる。【ICHIKAWA COMPANY 社会実証実験レポート】

こんにちは、ICHIKAWA COMPANYです。
今回のレポートは「高齢者、障がい者向けプールVRゲーム プロジェクト」です。

株式会社Rockin’ Poolの代表取締役CEOの西川隼矢氏に、実証実験での狙いや得られた効果など伺いました。

水中の無重力状態が高齢、障がい者の負担を軽くする

――御社名には「プール」と入っていますね。

西川隼矢さん(以下、西川):そうなんです。プールのコト以外はやらないと決めてこの社名を付けました(笑)。

――実証実験も当然、プールを使って?

西川:はい。もともと当社のプロダクトにプールVR(ヴァーチャルリアリティ)ゲームがあり、それを応用しました。

水の中って、重力がかからないですよね? 運動がしやすい水中環境を活かし、関節や筋肉などに痛みのある方、障がい者、高齢者が、浮遊感の中でVRゲームを組み合わせると安心して楽しく運動を続けられる。

それが、今回のプールVRゲームの実証実験の狙いです。

――そもそもなぜ「プールVR」のサービスを始めたのでしょうか。

西川:私は大学時代に競泳選手でした。プールってすごく楽しいのに、あまり活用されていないんですね。現状では規制が多く、何か不測のトラブルが起きないように、スイムモードのあるスマートウォッチですら着用して入場できないプールがほとんどです。

プールに自由と遊び心が足りない。それでプールに特化した会社を起こし、イベントやアイテム開発などを展開して盛り上げています。その中のひとつがプールVRです。

VRの意味は、没入感をいかに演出できるか

――実際に行った実証実験の内容を具体的に教えてください。

西川:今回の実証実験では11名の方に、プールVRを体験していただきました。年齢は42〜57歳までで、比較的健康な方や関節の疾患、痛みを抱えている方などさまざまです。深さ1.2mの市民プールを貸し切り実施しました。

水中VRゲームは、プールに入りながらVRのゴーグルを頭にかぶってもらいます。VRのモニターはスマホを装着するタイプで、シューティングゲームが映されます。手にはセンサー付きのコントローラーを装着します。

ゲーム画面上にはキューブ状のオブジェクトが飛んできて、タイミングを合わせて腕を動かして打つと弾け、得点が加算されます。アーケードゲーム「太鼓の達人」とシューティングゲームを合わせたものを想像していただくと分かりやすいかもしれません。

ゲームの中に入ると、水中であることを忘れるほどの没入感がありますよ。

――今回の実証実験で新たに加えた要素はありますか?

西川:手に装着するコントローラーを一新しました。今回の実証実験では50万円の補助金が出ているので、それを活用してセンサーの精度を上げました。これまでは「押す」のワンアクションしかできなかったのですが、新しいものは加速度センサーが両手に付き、動きの速さや向きを細かく拾えるため反応精度が向上しました。

この進化のおかげで、体験者の体力や腕力を計測しながら、ゲームのモードやレベルを調整できるようになったのです。

また、水への感圧度が格段に上がりました。これまでは斜め方向に腕を動かしてしまうと反応しないことがあったのに、水を押したときの反応はかなり正確になりました。プレーヤーの動作とゲーム内での動きに乖離がなくなり、体験者のストレスがなくなりました。

――体験時間はひとりあたりどれくらい?

西川:ひとりずつ水中に入っていただき、3分間で95個のキューブが飛んできます。後半になるにつれ連続技が要るなどクリア条件がハードになっていきます。

それとは別に、「VRなし」の実証実験も行いました。「VRあり」の場合と全く同じタイミングと回数でスピーカーから音を出して、カラダやココロの変化についてのアンケートを取り、集計しました。

――結果はどうだったのでしょうか?

西川:今回は、カラダの変化とココロの変化をそれぞれアンケートで定性的に集計しています。結果では明らかな有意差(統計上、偶然ではない差)が、ありました。

「VRあり」のほうが「楽しくできた」「時間の経過が短く感じた」「またやりたい」「継続したい」「より集中してできた」「運動のモチベーションにつながる」などの感想をいただき、VRありの方を100%支持していただきました。

また、運動強度の面でもゲームに没入している分、「力がいつの間にか入っていていい疲労を感じられた」との意見が多かったです。

結果を見れば、VRが明らかにモチベーション維持に寄与していると考えられます。

カラダを動かすことよりココロの変化が重要

――機器を付けてのデータ測定は行わなかったのでしょうか?

西川:本来は「高齢者などの運動機能の向上」「プール利用者の満足度の向上」を、心拍や筋電図、乳酸値などを採って測りたい。しかし今回は予算的に測定できず、次回以降にバージョンアップさせたいと思います。そのため、アンケートのみ実施しました。

――実証実験を行う上でもっともこだわった点や狙いは?

西川:私は、カラダの変化よりもココロの変化のほうが重要だと考えています。例えば、筋肉や関節にとっては有意義な運動だとしても、数回で飽きて、心がしんどいと感じてしまうようでは無意味だからです。筋トレが続きづらい理由と似ています。

一方、位置情報ゲーム「Pokemon GO」は、欲しいキャラクターを求めて普段は歩かない人でも外へ出ていきますよね。楽しんでいたらいつの間にか運動になっている。いかに継続できる楽しさを引き出せるか、工夫が必要です。

その可能性が感じられる結果を第1回目の実証実験で得ようと狙いました。

――楽しい仕掛けがあると続けられそうですね。今後に向けての改善点はありましたか?

西川:感電リスクについては、バッテリーとつなぐ経路を排除し、全て防水スマホからの電源供給にして感電のリスクをなくし、安全性を確保していました。

一方、VRゴーグルをかけることで体験者は外の視界が塞がれているので、いつの間にか夢中になって壁が近くなることがありました。その点は工夫や配慮があればもっと安心で安全に楽しめると思いました。

環境が人間を変えるーー水中VRの必然性をどう伝えるか

――今後はどのような未来を描いているのでしょうか?

西川:長期と中期の目標がそれぞれあります。

中期的には、高級ホテルの一室や空港のラウンジに、専用の小型個室プールがあるイメージです。観光の帰りやフライトの前にそこでリラクゼーションや体力の回復を目的にして使ってもらいたい。

また、自宅にいながら水中フィットネスを行えるように、富裕層向けのサービスを開発したいです。

長期的には、寝たきりの重力弱者の方が、24時間365日栄養や美容液で満たされたプールの中で水生生活ができるような映画の世界を実現したい。映画「マトリックス」の世界です。

バーチャル世界は年齢や筋力が関係なくなりますから、もう一度、人生をやりなおせるんです。90歳で寝たきり生活を余儀なくされている方でもVRの中では美少女や美少年、ドラゴンに生まれ変わって全く違った人生をワクワクしながら過ごせる。人生の楽しみが増え、QOLが上がって健康的な気持ちで過ごせます。

水の中で幸せに暮らせる環境は重力に負けて寝たきりなってしまった重力弱者にとって唯一のユートピアになりえると考えています。富裕層が行き着く先は健康か延命だと考えているので、水の中で生活できることがが技術的に可能となった未来には、プールVRに世界の注目とニーズが集まり、巨大なマーケットになっていくと考えています。

――バーチャルと現実の境界がなくなれば、それが可能になりますね。その着想を得た原体験があるのでしょうか?

西川:私の祖母は山奥で元気に暮らしていたのに、谷から落ちて腰を骨折してから認知症になり、半年後に亡くなりました。後を追うように祖父が認知症になり、同じ年に亡くなりました。ここから、環境が人を老いさせることを体感的に知りました。

たとえカラダが不自由でも、脳やココロが活性化されていれば認知症になることを防げるのではないかとの仮説を立てています。環境次第で人間は良くも悪くも変わってしまう。その点、ベッドの上でVRをするよりも、水中でのVR体験はより豊かになると信じています。

――あくまで水中VRである理由にこだわりたい、と。

西川:VRは世の中にすでに存在していますが、ほとんどのアミューズメント施設は赤字だと思います。理由は、1回の体験で満足してしまうことと、VRが酔いやすいこと、ゲームの開発費、つまりランニングコストがかかるために値段も高いことなどが挙げられます。また、一人あたりの回遊率が低く、人件費率が高い。

ただ、ビジネスにしづらいという空気にはしたくないです。もちろん、今述べたようにエンタメだけでは勝負が難しいので、水上、水中ならではの訴求をして人々の生活の一部にしていくしか道はない。

そのためには「楽しさ」を数字にして継続的にエビデンス(根拠)を出し、どれだけ健康に寄与するのかを医学的に証明していく必要があります。

ひとつ面白いのが、プール、水中でのVRは酔わないんですよ。11人の体験者が誰ひとり酔わなかった。この理由も含めて今、追求しているところです。

VRがなかなか普及しない理由のひとつは、まだVRに必然性がないからだと思います。

――いまのところ、なくてもこまらないし、周囲に持っている人も少ない。

西川:はい。その状況でいかに必然性を生み出せるか。水中でのメリットを出せる唯一の可能性として考えているのは、ヘルスケアからリハビリ、睡眠、美容、メンタルヘルス、ダイエットまで1回30分で全てを一気に満足させる「全部入りサービス」の提供です。

このサービスが実現できれば、時間をお金で買いたい経営者やスポーツ選手なども対象になるかもしれません。イメージは、悟空やベジータが戦闘の傷を回復するために「メディカルマシーン」に入って、気泡がコポコポしてるイメージです(笑)。

ぼくらドラゴンボール世代には刺さると思うんです。お風呂と酸素カプセルとサウナのいいとこ取り、そういう訴求の仕方も模索したいですね。

――ありがとうございました。

――

水中は究極のバーチャル世界を実現できると考えているRockin’ Pool。まるで映画の中の世界ですが、本気で実現しようとした人のみが夢の世界を現実にできるのかもしれません。水中VRが身近になって、老後がより楽しみになる世界が到来することを願います。

ICHIKAWA COMPANYならびに市川市は、市民のみなさんと専門性の高い民間企業の協力のもと、先進的な取り組みや課題解決を通じて都市のよりよい未来を目指しています。

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