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VRを活用した最新心理療法がもたらす効果と可能性【ICHIKAWA COMPANY 社会実証実験レポート】

こんにちは、ICHIKAWA COMPANYです。
今回のレポートは、「VRを用いた不安症に対する曝露(ばくろ)療法」についてです。本実験は、VRを用いた不安症に対するVR曝露療法ソフトウェアを実際に体験してもらうことによって、その効果の確認及び利用者の評価を検証することを目的としています。

今回は、株式会社魔法アプリの代表取締役 福井 健人さんに、サービスの概要や不安症を始めとするメンタルヘルスの現状などについて、お話をお伺いしてきたのでお届けします。

最新テクノロジーを活用した心理療法

――貴社で開発されたサービスについて教えてください。

福井 健人さん(以下、福井):不安症の治療では、「薬物療法」と「心理療法」の2種類があり、我々は心理療法を行なっています。心理療法とは認知行動療法を用いてどのような不安があるのかを把握する治療です。

また、心理療法には「曝露療法」という治療方法があります。不安症の患者さんは、広場恐怖、高所恐怖、スピーチや会食場面など、人によって不安になる条件が異なってくるのですが、この治療は安全な状況下で苦手な状況に直面してもらって慣れさせるという方法です。患者の方も最初は強い不安を示すものの、何度も反復することによって耐性ができ、最終的には克服できます。

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ただ、不安な状況を再現するといっても、カウンセリングルームで再現できることには限界があります。

例えば、パニック症で電車が苦手な患者さんに対し曝露療法を行いたくても、カウンセリングルームで電車に乗ることはできません。しかしVRを使用すれば、カウンセリングをしながらでも電車に乗った体験をすることが可能になるんです。

最近あった事例だと、幼少期のトラウマから乗り物に乗れず仕事に支障があった患者さんに実施したところ、最終的には船や飛行機にも乗れるようになりました。

VR曝露療法自体は1990年頃から行われていたのですが、多くの帰還兵がPTSDになってしまったことがきっかけとなり、始まった治療です。

VRを活用した曝露療法はヨーロッパ辺りでは普及してきているのですが、日本ではまだ開発も販売もされていないため、自分たちで開発することにしました。

――海外の曝露療法とは主にどの点が異なるのでしょうか。

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福井:海外のVR曝露療法ソフトウェアの場合、その国と地域に特化していることです。

例えば、海外で多い不安症の一つに、外国人恐怖症というものがあります。これは他の人種に対して苦手だと感じる症状なのですが、このような症状は日本ではあまり見られません。

また、映像などもその国や地域の光景が映し出されているため、電車から見る景色やオフィスの光景なども、日本とは全く違います。

弊社のサービスでは、日本人に特化したものを使用しています。また、カウンセリングで使用する前提のものを開発しており、それも大きな特徴の一つです。

さらに、日本ではまだまだ薬物療法に頼っているという現状があります。例えば、少し古いデータではありますが、国際連合の国際麻薬統制委員会(International Narcotics Control Board:INCB)は、2007年から2009年の人口当たりのベンゾジアゼピン受容体作動薬の服薬量を算出した結果、日本の服用量は欧州諸外国の約2倍強であり、北中南米諸国の約4倍強であるとの報告もあります。

それには、保険制度の問題があります。例えば、心理療法の認知行動療法を実施した場合、30分以上1日1回で480点にしかならず、また、心理療法には熟練した技術が必要となるため、実施できる人の育成にも準備にも時間がかかるのに対し、保険点数が足りていません。

通院精神療法の場合、30分未満でも330点であることから、時間もカウンセリングほどかからないため患者の回転率を上げることができます。

薬物治療だけで完治させることは難しく、完治させるには心理療法が必要です。しかし、これらの理由や患者の数に対して精神科医の数が少ないため、薬物療法が主流となってしまっているのです。

実際に、メンタルヘルス疾患での受診率は中度の患者の受診率で各国を比較すると、ベルギーの受診率が50.0%と最も高く、日本は16.7%で最低でした。

また、平成16〜18年度厚生労働科学研究費補助金こころの健康についての疫学調査に関する研究の結果では、日本の不安症受診率は18.7%程度と、やはり低い現状にあります。

不安障がいへの認知と理解がもたらす未来

――そういった課題を解決するためには、どのような対策が必要だと思いますか?

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福井:イギリスのように医療費が全部無料になったり、心理士が行う心理療法に保険が利くようになれば、少しは改善されると思うのですが、それはなかなか簡単なことではありません。

実は去年、市川市に協力をしてもらって、不安症になった際の受診率の分析をするために1,320人のデータを集めたのですが、その結果、知識がある人とない人で差があり、何かしらの啓発があれば受診率が上がるという結果が出たんです。

このリサーチは、「不安症を知っている人」「それに加え、認知行動療法も知っている人」さらに「自立支援医医療制度を知っている人」に「もし不安症(不安障がい)になったら、病院に行きますか?」という質問をしたものです。

また、回答には「相談に行く」「相談に行くかもしれない」「相談に行かない」という三択で答えてもらいました。

すると「相談に行く」と答えた人は、「不安障がいを知っている人」が32.82%、「聞いたことあるけど具体的には知らない人」が14.29%、「不安障がいのことを全く知らない人」が13.22%という結果が出たんです。

このように、きちんと不安症だけではなく、治療方法や、公的な支援制度を理解するだけで、13.22%から32.82%まで受診率が上がるため、これだけでも市川市の予算を大幅に削ることができます。

こういった理由から、来年度は市川市で中学校高校生を対象とした不安症の啓発を行いつつ、市内の病院に弊社のVRを提供し、どのくらい受診率が上がるかをリサーチしたいと考えています。

2022年には保健体育の授業で、約40年ぶりに精神疾患についての指導が行われるようになるので、それも含めて今後さらにお役に立てられたらと思います。

――今回の実証実験を行なってみて、感じた成果などはありますか?

福井:12月7日に、市川市で「Iあいフェスタ」という障害者週間イベントが行われたのですが、弊社も体験コーナーを設置させていただきました。

使用した映像は、50階という非常に高い場所に移動したり、下まで見えるガラス製の床に立っているなど、高所恐怖症の方向けの内容です。

一見荒療治にも思えるのですが、厚生労働省のパニック症に対する認知行動療法マニュアルにも記載されている治療法になります。

様々な方が体験してくださったのですが、どちらかというと、不安症よりもVRに興味を示している方が多かった印象でした。

まだまだそういった課題はあるものの、興味を持ってくれたこと自体は非常に大きな前進なのでとても嬉しかったです。

きちんと啓発を行うことが予防に繋がる

――今回の市川市の取り組みを今後どう活かせると思いますか?

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福井:この実証実験に参加させていただいたおかげで、市川市が認定しているということで興味を持ってくださる団体さんがとても増えました。

市川市で啓発と治療の機会を提供し、「年間水準がこれだけ下がった」というようなエビデンスができれば、他の地域でも広がっていくと思うんです。

精神疾患の治療とVRやARの相性はとても良いです。なので、どこか一つ大きい会社が導入すれば、今後どんどん普及していくのではないでしょうか。

また、不安症を持っている方は10代〜25歳くらいの方が多いです。しかし、発症するまでに知識として理解していないと、予防をすることもできません。

そのため、10代の子供たちに対してもっと啓発を行い、病院に行くように促すことのできるプロセスを整えてあげるべきだと思います。

今後は、不安症だけではなく、認知症やあらゆる依存症の治療など様々な分野に幅を広げ、より地域社会の役に立っていきたいです。

――ありがとうございました。

――

ストレス社会と言われ、近年耳にすることも多くなった「不安症」。厚生労働省によると、何らかの不安障がいを有する人の数は、生涯有病率で9.2%にのぼるといいます。

発症の原因はきちんと解明されていませんが、家庭のストレスや社会的なストレスなどが理由として挙げられています。

私たち市川市では、今後とも皆様がストレスフリーな生活を送ることができるよう、暮らしやすい地域づくりを目指すと共に、引き続き実証実験を行いながら、様々なストレスに対するソリューションを模索していきたいと思います。


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