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コミュニケーションの可視化を実現。音環境分析テクノロジー【ICHIKAWA COMPANY 社会実証実験レポート】

こんにちは、ICHIKAWA COMPANYです。
今回のレポートは「会話の定量的な分析による異文化コミュニケーションを促す環境の形成」についてです。本実験は、発言者の会話を見える化する技術を活用することで、学校での子ども同士の話し合いを定量化するというもので、相互理解を促す会話環境の設計を目的にしています。

今回は、ハイラブル株式会社の代表取締役、水本 武志(みずもと たけし)さんに、発言者の会話を見える化する技術の詳細や、子ども間のコミュニケーションにおける課題などについて、お話をお伺いしてきたのでお届けします。

多方向から声の識別ができる最新テクノロジー

――「発言者の会話を見える化する技術」とのことですが、具体的にどのような技術なのかを詳しくお聞かせください。

水本 武志さん(以下、水本):我々が開発した技術は、いわゆるスピーチ・トゥ・テキスト(音声認識)ではありません。

このたまご型マイクには、マイクロホンアレイといって、マイクが8個付いているのですが、それを使用することによって、誰がどこで喋っているのかを聞き分けることができます

今出回っている音声認識のデバイスやサービスは、話しかけるとテキストになって表示されるものが殆どだと思います。しかし我々のサービス「Hylable Discussion」では、いつ誰がたくさん話していたのかがクラウド上で自動的にデータ化され、グラフで表示されるようになっているんです。

このデータは、我々の持つ音環境分析技術と議論分析技術によって定量的に分析された結果です。

この技術は、3人同時の会話や10人同時の注文などを聞き分けたり、多方向から声を聞き分けることができるため、この技術を使った声を聞き分けるロボット「聖徳太子ロボット」にも使われているんですよ。。

グラフは色分けされており、誰がいつ喋ったのかが明確に表示されるようになっています。

今回の実証実験でも、30人程度の子供たちが数人ごとの班に分かれて同時に会話をしている中で、それぞれを聞き分けるということをしました。子供たちが30人も喋っていると、結構な騒がしさになるのですが、騒音の中で精度よく分析できることも特徴の一つです。

――この技術を生み出すことになったきっかけを教えてください。

水本:私が大学で入った研究室で、ロボット聴覚という、ロボットにマイクをつけて、聞き分ける能力を実現する分野を研究していました。

実は、元々大学で研究していたのが「カエルの合唱」でした(笑)。主にニホンアマガエルの合唱のメカニズムを調べていたのですが、カエルは数十匹近く一斉に鳴くため、人の耳で調べることも従来のマイクで調べることも困難を極めました。

そして、どのカエルがどのようなコミュニケーションを取っているのか騒がしい状況の中でも把握できるようなツールを作るべく、研究を重ねました。こうして開発したのが、「カエルホタル」というマイクとLEDをつなげた装置です。

それから派生して、人間にもこの原理を使うことで話している人たちのそれぞれの話を聞き分け、コミュニケーションレベルを把握するなど人々の生活に役立てるのではないかと考え始めました。

――どのように個人の声を特定しているのでしょうか。

水本:実は、位置で特定しています。このたまご型マイクに搭載されている8個のマイクを組み合わせることで、どの方向から音が聞こえたのか、私たちの技術で聞き分けるんです。

そして、その方向に準じて、誰が喋ったのかを可視化してくれます。

従来の音声認識や声紋認証は、静かな環境下では性能が良いのですが、騒がしい環境下だと一気に精度が下がってしまうのが難点です。

そうすると、「デモンストレーションやリハーサルだと問題なかったのに、本番ではうまく動かなかった」などということも起こり得ます。しかし、このサービスを使えば、たとえザワザワしている中でも読み取ることができるんです。

コミュニケーションの可視化を実現

――使用しているサービスは自社で開発されたのですか?

水本:はい、サービスも自社で開発したものを使用しています。

ブラウザ上で、例えばAさんがマイナス15度、Bさんがマイナス130度、Cさんが120度などと、それぞれのいる位置を設定し、録音ボタンを押します。すると、装置が赤くなり、録音開始のサインを示します。

このたまご型マイクと Hylable Discussionを使用すれば、どこで誰が話したかが分かるだけではなく、録音機能もあるため、声を残すことも可能です。

数十人もの小学生がいると、だいぶ騒がしくなるため、先生の耳では全てを聞き取ることはできません。

しかし、このたまご型マイクを活用すればブラウザ上で鮮明に見える化されるため、それぞれが喋った頻度やコミュニケーション能力などをより明確に知ることができます。

また「このグループにこの人を加えたら相性が良いかも」などと推定することもできるため、ビジネスの領域でも役に立てるのではないかと思います。

――今流行している音声アシスタントとの違いを教えてください。

水本:それらのツールは、消費者の命令や質問を解決することに重きを置いていますが、私たちのサービスは、あくまでも「計測をすること」が目的です。

「ターンテイク」という言葉があるのですが、これは話している人が切り替わることで、我々のサービスでも、矢印でコミュニケーションの密度が分かるようになっています。

例えば、会議などで複数の人が会話をしている時に、ファシリテーター的な役割を担っている方は、全員に話を振ることができなくてはなりません。

このサービスであれば、「この人はファシリテーターに向いている」「自分は他の人に話を振れてないから、改善しなくては」「この人は極端に会話量が少ない」など、様々な観点から分析することが可能です。

また、無駄に長くなってしまいがちな会議などでも、レポートから改善すべき点を解析し、無駄な時間を削り、効率化することもできます。

さらにHylable Discussionには「発話量」「割り込み量」「盛り上げ量」などが表示される機能や、分析レポートの機能も搭載されているため、序盤・中盤・終盤で、誰が中心となって話を進めたかなどの結果が、ひと目で理解できるのも特徴です。

これらのデータに基づいて「自分だけ話してしまっているから、ビジネスミーティングの際には、気をつけよう」などの判断ができるため、学生や社会人研修などでも役立てられるのではないでしょうか。

実証実験で感じた絶大なシナジー効果

――授業研究などで行われた実証実験の結果を教えてください。

水本:今回のいちかわ未来創造会議では、小学校で2度実証実験をさせていただきました。

この装置のもう1つの良いところは、1人の児童だけではなく、色々な児童との組み合わせを分析できた、という点だと思います。

例えば、「この児童は人見知りだけど、この人と組むと喋れる」ということが把握できるようになります。

あと、別の場所で行った実験でも起こったのですが、このサービスを使って子どもが自分の行動を振り返ると、喋りすぎな児童の会話量が減ったり、逆に普段無口な子の会話量が増えたんです。このような結果を受けて、大きな手応えを感じました。

――児童たちからはどんな反響がありましたか?

水本:おかげさまで、子どもたちには「面白い!」と笑顔で言ってもらうことができました。何よりも嬉しかったのは、「今までの道徳の授業で一番面白かった」って言ってもらえたことです。

あとはたまご型マイクが可愛いと言ってくれる子たちもいましたね。また、分析レポートをまとめたワークシートを提供しているのですが、それが楽しいと感じてくれる子たちもいました。

全体的に結構評価が良かったので、現場の声を生で感じることができて私たちも嬉しかったです。

やはり人間が全ての話を聞くことは不可能ですが、Hylable Discussionを使えば、聞き逃しをしてしまう心配がありません。それを肌で感じることができて大変満足です。

従来の音声認識技術における落とし穴

――現在の市川市において、解決すべき課題は何だと思いますか?

水本:実は市川市には外国移住者が多く、日本語が得意ではない方もいます。

しかし、従来の音声認識技術の場合、片言の英語や日本語だと認識されないという欠点があります。それは日本語ネイティブであっても、まだ話し方が洗練されていない子供たちにも言えることです。

しかし、Hylable Discussionを使用すれば、少なくとも量は見えるので、言語が伝わらない場合でも、頑張ってコミュニケーションを図ったりしているかが容易に分かります。

また、そのデータを元に「このメンバーの中に入れれば、仲良くなれる」とか、「このクラスに入れれば溶け込める」などの推定がしやすくなります。

以前はICレコーダーなどで記録したデータを聞き返すか、時間やお金を費やして文字起こしをして、状況を判断するしかありませんでした。

そして、音声ではなくテキストで読むとなると、なかなか雰囲気や状況などの全体像が把握しにくいという難点がありました。しかし、Hylable Discussionを利用すれば、瞬時に全体像を掴むことができます。

子どもたちや外国人にとっても住み心地が良く、学校生活にも支障のない環境を作るため、こういったテクノロジーを今後もぜひ活用し、役立てていただきたいです。

自分を客観視することで、より優しい地域社会へ

――このツールが普及することで、地域社会にどのような効果をもたらすでしょうか。

水本:社会人に出ると、話し合いやディスカッションをする機会は増えます。

しかし、そういった場数を踏んでいない子供たちがいざ社会に出た時に路頭に迷ってしまわないよう、今の内から大人がきちんとサポートしてあげることが大切です。

また、子どもたちだけではなく小学校の道徳などで指導をしている先生がHylable Discussionを活用して指導を練習することもできます。

子どもたちも、直接口頭で「話しすぎ」「もっと喋りなさい」などと注意をされてしまうと、自信をなくして落ち込んでしまう可能性があります。しかし、こういったデータを通して自分の短所に気づくことができればスーッと理解することができ、ダメージも大きくありません。

そうして「喋りすぎ」などの改善すべき点を客観的に見ることによって、それぞれの意識改革にもつながります。そうすれば、それぞれが思いやりを持ち、より優しい地域社会になるのではないでしょうか。

――今後の展望を教えてください。

水本:元々カエルから始まっているプロジェクトなので、いずれは動物と人とのコミュニケーションなどの領域にも挑戦してみたいです。

動物は人間とは違う方法でコミュニケーションを取っているため、コミュニケーションの内容などを人間が把握することはなかなか容易ではありません。しかし、たまご型マイクで観測しすることによって、また新たな何かを発見をすることができたら、それは本望です。

また最終的な目標は、世界中の教室やオフィスの机に、このたまご型マイクが設置されることです。そんな未来を作るために、引き続き試行錯誤して頑張りたいと思います。

――ありがとうございました。

――

今回の実証実験を受けて、この音環境分析テクノロジーのあらゆる可能性を、改めて感じることができました。

普段は自分たちの会話を聞いたり見たりする機会は、滅多にありません。しかし、それらを見える化し、客観視することによって、改善点の把握や自らの成長など、様々なシナジー効果をもたらします。

私たちも引き続き様々な実証実験に取り組み、こうした最新テクノロジーを積極的に活用していきながら、より良い地域づくりに向けて日々努めていきたいと思います。

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