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毛髪がウェルネスに貢献。最新メンタルヘルスケアに迫る【ICHIKAWA COMPANY 社会実証実験レポート】

こんにちは、ICHIKAWA COMPANYです。

今回のレポートは、「毛髪から見つめるメンタルヘルスケアプロジェクト」についてです。本実験は、ストレス関連ホルモンをはじめとする、多くの生化学物質を蓄積させながら伸長する性質を持っている毛髪を用いて、中長期的なストレス評価を行い、最適なメンタルヘルスプログラムを実施することで、精神疾患に対する未病段階でのケア効果を検証することを目的としています。

今回は、株式会社イヴケアの五十棲計さんに、髪を用いたストレス評価の概要や、日本のメンタルヘルスケアの課題などについて、お話をお伺いしてきたのでお届けします。

一人ひとりに適したウェルネスに貢献

――「毛髪から見つめるメンタルヘルスケア」について教えてください。

五十棲計さん(以下、五十棲):我々が行なっているのは、毛髪からストレスを評価する技術を活用したメンタルヘルスケアです。

毛髪の中には、体内のバイタル情報の一部が含まれており、伸びた分だけ毛髪の中に蓄積されていきます。中でもストレスを感じると蓄積されるホルモンがあり、そのホルモンの濃度を測定することによって、ストレスのレベルを分析することができます。

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毛髪を活用した技術は、海外ではずっと注目されていたのですが、日本では最近少しずつ普及してきたところです。ただ、髪の毛のホルモンを見るという研究をしているのは、まだ国内では数人しかいません

この評価方法の一番の特徴は、「一回で中長期的な状態を見ることができる」ということです。過去の状態をさかのぼって調べることができるので、年に数回健康診断のような形で、メンタルの変動を見比べることが可能です。

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また、この技術を使用することで、ストレスに対してどの程度の回復力を持っているのかを評価することもできます。つまり、その人が本当にストレスが多くて困っているのか、自分の中でストレス耐性がなくなってしまっているだけなのかを判断することができるんです。

自分の内側の部分は、なかなか自分では把握することができません。自分の中では「まだできる」と思っていても、体は限界を感じてしまっている可能性もあります。

頑張っている人ほどストレスに気づいていなかったりすることが多いため、そういった自分の中の見えない部分を、見える化していくことが重要です。

弊社のサービスでは、メンタルをスクリーニングすることができるため、今まで見えなかった部分がクリアになり、事前に予防することや原因を解明して対処することが可能です。

さらに、自分のメンタルの不調が分かったものの、それを解決するためにはどういったことを行えば良いのかが分からないという方も多いため、セミナーなどを通してアフターケアもしています。

――従来のメンタリングとの違いを教えてください。

五十棲:従来のメンタリングでは、ストレスを減らすためのトレーニングをするのが一般的ですが、我々のプログラムでは、ストレスが多い方だけではなく、ストレスに対する耐性がない方向けのトレーニングも提案できるのが特徴です。

例えば、マインドフルネスのプログラムを取り入れてみたり、それぞれの特性に最適なプログラムを一緒に探し、一人ひとりに合ったヘルスケアを提供しています。

やはりストレス耐性が高い方は、ストレスがかかっても、そのまま突き進んでいくことができますが、ストレス耐性が低い方は、ちょっとしたことでも落ち込んでしまったり、立ち直れなくなってしまうということがあります。

つまり、同じ状況下で同じ量のストレスがかかったとしても、それが全然ストレスだと思わない人もいれば、それをすごく苦痛に感じてしまう人がいるわけです。

ただ、ここで肝心なのは、「ストレスはなさすぎてもいけない」ということです。

人間にとって生きがいや目標を持つことは、どうしてもストレスとぶつかることになります。一方で、ストレスが全くない状態だと、ずっと家でダラダラと寝ているだけの人間になってしまう可能性があるんです。

そういったストレス耐性やストレスの量が異なる者同士で、同じプログラムに取り組むことは、あまり合理的ではありません。

私たちは、一人ひとり適したやり方でストレスと戦っていける状態を作ってあげることが大切だと考えています。

ストレスと客観的に向き合うことの重要性

――本実証実験にエントリーしたきっかけは何ですか?

五十棲:私は教育学部出身なのですが、教育学を学んでいく中で、子供たちのストレス状況を見ていきたいと思うようになりました。

昔の人は、先生や近所の人など、怒ってくれる人がたくさんいたのですが、近年では、子供たちが親以外の誰かから怒られることは滅多にありません。そうすると、ストレス耐性が培われないまま大人になってしまいます。

その結果、ストレスに耐性がない状態で社会に出ることになり、社会からのストレスに耐えきれずに、上手く立ち回れない人も多いのではないかと課題を感じたんです。

そして、どうしたらその問題にリーチできるかを模索した上で、ストレスマネジメントの一環として、この技術が生まれました。

――本実証実験において、どのような課題を解決できると思いますか?

五十棲:今回の実証実験では、市川市民の皆さんを集めて研修会を開き、セルフケアをするためのフィードバックを行う予定です。

弊社では、過去数カ月間のストレスのデータを、主観と客観に分けて取得しています。データはグラフになっていて、「主観と客観がズレ始めてきています」「自分が思っているよりもストレスが溜まっています」などのフィードバックを付けてお渡ししています。

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メンタルヘルスケアを行う上で、我々が重視していることは、行う前と行なった後の、毛髪の変化を見ることです。そして、それをサイクルで回していくことが大切だと考えています。

毛髪の場合、今までの履歴を追うことができるため、この一ヶ月の生活習慣が自分に合っていたかどうかを、客観的に見ることができます。

また、色々な習慣やプログラムを試しながら、データと照らし合わせることができるので、自分に合ったものを生活の中に取り入れていくことが容易になります。

ただ、こういったデータを渡されただけでは、ストレスがどういうものなのか、ストレスをなくすためには何に取り組むべきなのかが分からないという方も多いはずです。そういった理由から、私たちはストレス評価だけではなく、研修会やフィードバックを大切にしています。

「ここはこういう風にとらえてください」「こういう風に取り組んでください」と記載されたフィードバックを受け取ることによって、自分の主観でその評価を受け止めるのではなく、自分のデータを客観的に見ることができます。

さらに、それをサイクルとして一回二回と続けていくことで、最終的に自分にとってどのような環境が一番最適なのかを理解することができます。そして、最適な環境に身を置くことが可能になるのです。

今回の実証実験では、そういった予防段階でのケアの必要性や、ストレスの認知、メンタルヘルスに対する意識の向上などを伝えていきたいと考えています。

企業と従業員が共に成長することが、真の働き方改革

――国内におけるメンタルヘルスケアの課題は何だと思いますか?

五十棲:企業側の、従業員に対するメンタルヘルスケアマネジメントの意識が、まだまだ薄いことでしょうか。

現在、働き方改革で労働時間が短縮されていますが、身体的に休憩することだけが大切なわけではありません。上司に怒られることや、短縮された作業時間での業務量の多さ、人間関係など、様々なことが中長期的なストレスの要因になりえます。

例えば、仕事量ではなく人間関係に対して疲れている従業員が、企業から「仕事量を減らします」と言われたとしても、それは本当のメンタルヘルスマネジメントにはなっていません。

このようなことを防ぐためにも、全員同じマネジメントや教育をするのではなく、一人ひとりに合わせたメンタルヘルスケアをすることが大事なのです。

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しかし、メンタルヘルスケアに投資をすることに対して、なかなか積極的になれない企業や、義務的になってしまっている企業も少なくはありません。一つに、「ストレスがなくなったから生産性が上がりました」という明確なエビデンスを出すのが、決して容易ではないということがあると思います。

ですが、きちんとしたメンタルヘルスケアを導入することによって、従業員のやる気や生産性が向上したり、職場環境が改善されていくことは、企業の価値や企業の成長にもつながります。

目に見えて分からなくても、そういった対策があってこそ、将来的な離職率の減少やリクルート効果にもつながってくると思うんです。

企業側が、従業員や企業の成長のために、ポジティブな姿勢で取り組むことによって、結果企業側も従業員側もそれぞれが幸せになります。それが本当の意味での「働き方改革」に結びついていくのではないでしょうか。

――このメンタルヘルスケアが普及することで、地域社会にどのような効果をもたらすと思いますか?

五十棲:現在は企業に対してアプローチを行なっているのですが、将来的には学校や福祉施設などにも提供していきたいです。

そして一丸となってメンタルヘルスケアに取り組むことで、やりがいや生きがいを持って生きることのできる、そんな社会が作れるのではないでしょうか。

高齢で自分では歩くことができない方や、精神的に喋ることができない方たちのQOLを指標化することは、大変難しいです。施設に入ったとしても、その施設に満足しているのかは分かりません。

しかし、最適な状態で暮らせているのかが、目に見える形で評価できれば、心の健康寿命を伸ばしていくことができるのです。

また、ここ何年も話題になっているハラスメント問題においても、色々なことが解決できると考えています。

例えば会社でパワハラを受けた従業員が、エビデンスとして使用したり、学校の教師がいじめを受けて泣き寝入りをしている生徒に気づけるきっかけになったり、喋ることができない高齢者の介護施設への満足度を知ることができたり、色々なことに使えるのではないかと思います。

どこから参入し、どう広げていくかが課題ですが、まずは、多くの地域施設にこの技術を導入していただくことが目標です。

また、これから社会へと巣立っていく子供たちが、いざ社会に出た時に荒波に飲み込まれてしまわないよう、社会に出る前の足がかりになっていけたらと思っています。

――長期的にはどのようなビジョンを描いていますか?

五十棲:実は、毛髪って色々なことを評価することができるんです。髪の毛一本で、心だけではなく体の健康状態を把握することができるため、将来的には精神面だけではなく身体面でもサポートしていきたいと考えています。

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身体的なことをデータ化すると、「こうしたらもっと健康になれる」ということが予測できるため、より良い状態に持っていくことができ、最終的には自分自身の健康状態を選択することができるようになります。

また、一般的にタバコは健康に害があると言われていますが、一方で、「タバコを吸うと身体的にこうなりますよ」というのが可視化されない限り、吸いたい時に吸うことの方が、本人にとってはストレスになりません。

そこで、毛髪を活用し、「タバコを吸い続けることでこうなります」「一本減らすだけでこうなります」という身体的なデータを提供することによって、本人がそのデータを参考にしつつ、吸うかどうかを自分自身で選択することができます。

そして、精神的な面や身体的な面を見える化することにより、心の健康を保ちつつ、体の健康を保つことができるようになり、上手なバランスを自分で決めることができます。

私たちは、そうして皆さんの生き方の選択肢を広げるお手伝いがしたいと考えています。こうした取り組みを引き続き行うことで、皆さんのQOLの向上や、身体的な健康寿命だけではなく、心の健康寿命にも貢献していきたいと思います。

――ありがとうございました。

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近年、働き方改革などの影響を受けて、メンタルヘルスマネジメントに真摯に取り組んでいる企業も増えています。しかし、ストレスのかかり方や耐性は、従業員によって異なります。

心の問題をなかなか可視化することは容易ではありませんが、だからこそこういったそれぞれに特化したメンタルヘルスケアプログラムが、今後必要となってくるのではないでしょうか。

皆さんが、身体面だけではなく精神面においても、より健やかに過ごせるよう、私たちもストレスフリーな社会づくりを目指して、引き続き努力していきたいと思います。

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