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fhána「星をあつめて」感想~作品に託す絆と永遠は、きっと喪失の救いになる

はじめに~2019年のfhánaを振り返って~

こんにちは、いち亀です。今回も長文fhána新譜感想、お届けいたします……そろそろ恒例になってきた感。
ここまでのfhána流れはというと、まずは前シングル「僕を見つけて」が、当初の思い入れ以上に大きな意味を持つ曲になったことは避けては通れないでしょう。

佐藤さんによる述懐。まだ読んでいない方がいましたら、是非。

(前ブログで書いたモノです、こちらもよければ)

その想定外の意味合いは、アニサマのステージでもマジックを起こして。ふぁなみりーのみならず、多くのアニソンリスナーに寄り添う一曲になったように感じます。

そして、昨年末に行っていたwhere you are Tour 2019(個人的には"find" Tourという呼び方もしっくりきますが)

またもや再掲で恐縮ですが、激動の1年の終わりにfhánaが見せてくれた景色について、気持ちを詰め込んだ文でして。

fhánaが悲しみや孤独と向き合い続けてきたのは、それが起こってしまう世界であるからで。
永訣という、一番深い悲しみに寄り添う、共に立ち上がろうと手を差し伸べてくれる曲を届けてくれたことに。改めて、fhánaを見つけられて、fhánaが見つけてくれて、良かった。

僕にとっての2019年(の夏以降)のfhánaは、常にこんな感情と共にありました。

そんな風に。ファンのみならずクリエイターたちに寄り添い、捧げる音楽を歌ってきたfhánaが、"SHIROBAKO" という、まさにクリエイターの裏側にフォーカスした作品で主題歌を担当するという縁には、強すぎる運命を感じてなりません。
……そんな最新シングルについて、まずは劇場版SHIROBAKO鑑賞前の感想を書いていこうと思います。観る前後でどう受け取り方が変わったか、自分なりに残しておきたいですし、何より早く共有したい。

(ちなみにSHIROBAKOの感想はこんな感じです、つい最近履修しました)

星をあつめて

まずは表題曲……の前に、ジャケットの話を。

左がスリーブケースの表、右がCDケースの表。
SHIROBAKOメンバーとサポートメンバーに対するfhána4人、しかも重ねるとちょうど3グループが重なるという構図で。
つまり今回のfhánaにとって、SHIROBAKO内のクリエイターは(フィクションの住人というよりも)演奏をサポートしてくれるミュージシャンと同じ、大事な共演者なんだ……そこに次元の違いはないんだ、というメッセージが読めるように思いました。
(僕が気づいたというよりも、他のふぁなみりーとのやり取りで気づいた発想です。皆さんいつもありがとうございます……!)

こんなデザインに象徴されるように、今回はfhánaアニソンの中でも特に、作中と自身の重ね合わせが強い……というより、近いレイヤーで行われているように思いました。リンクが強いのはこれまでの曲でも同じなのですが、今回はひと味違うような。

さて、楽曲の話に。
まずはサウンド全体ですが、fhánaの、特にシングルの中では突出して「生っぽい、温かい」音になっている印象です。ストリングスにブラスに、和賀さんはアコギも入れているかな。多くのタイアップ曲にストリングスは参加していますし、「虹を編めたら」では生楽器のフィーチャーも素敵でしたが、ここまでデジタル感が薄いのは珍しい……「僕を見つけて」の傾向が続いている、ともいえるのですが。

このセッション感、各楽器が引き立て合うように、あるいは競い合うように音楽を作っている感触は、これまでのfhánaのシングルにはない聴き心地です(アルバム曲だと多くなってきましたが)
精妙に作り込まれたデジタルサウンドも大好きですが、今回みたいなのも勿論素敵で。

こうしたアレンジになっている理由は……第一に「メロに合うから」でしょうし、それは十二分に堪能しているのですが。
クリエイター賛歌の表われとしてか、「集団」であることと「奏者のイメージ」を重視しているように思いました。耳に届く音のひとつひとつの先に、弾いている人の手が、吹いている人の呼吸が、それぞれの体温があること……さながら、アニメで表現される一瞬一瞬の裏に、幾人の地道な作業があることのように。

あるいはライブ感、生身の人間どうしが生み出す「一瞬」の熱量を込めたいという思いもあるでしょうし。歌詞でも語られているように。3rd AL以降のfhánaに生音が多くなったのは、「箱庭から出た」こととも関係がある……というのは、メンバーからの発言にあったかもしれませんが。

後は、佐藤さんのコーラスがtowanaさんとハモる形で多めに入っているのも嬉しいですね、最近は別メロも多かったので。「いつかの、いくつかのきみとのせかい」や「虹を編めたら」での二声のハーモニーに惹かれたというふぁなみりーは多い印象です、僕も含めて……とはいえ、これまでとは違うエフェクトが掛かっているのも新鮮です。

英題は「Trace the Stars」です、traceを持ってきたのお洒落ですし、ペンで仕事するアニメーターへのリスペクトを感じたりも。

さて、歌を追っていきましょう。
まず1番Aメロ、いきなり「魔法の靴を履き潰して」「働くよ」というワードにドキッとします。fhánaで「働く」が歌われたの初かも?
夢を叶えるために履いた魔法の靴。夢に描いていた肩書きが現実、タスクになってしまった後の戦い。SHIROBAKOキャラは(劇場版時点では)それぞれが夢だったアニメ関連職で働いていますし、fhánaだって昔からミュージシャンに憧れていた人たちのはずです(当初のkevinくんはアマのつもりだったとか、その辺の事情は深いですが)

ただどちらも、現実の「仕事」に対する消耗は味わっています。SHIROBAKOはそれが中心にある作品ですし、fhána……特に佐藤さんは、疲労感や追い込まれっぷりを率直に発信する人ですし(佐藤さんほど忙しいのも珍しいとは思いますが)
そんな「現実」について長々と語る訳にもいかないけれど、言わずにいるのも苦しい……というより、言わないと地に足つかないよね、というのが冒頭の2行だと思いました。それでも、だからこそ「奇跡を祈りながら」が切実に響く。

Bメロ、「ランプ」に「おとぎ話」といった、ファンタジーなワードが並びます。アニメというフィクションを本気で作っているからこそ、あえて「おとぎ話」で希望を表現しているように感じました。
「一夜だけで世界変える不思議」とは、つまりは彼らの成果……アニメであり、曲やライブであると解釈しました。
そのアニメの一話、ライブの一回、曲を聴く数分。それが魔法のように、自分の世界も見方を塗り替える経験、オタクやってる皆さんなら覚えがあると思います。僕にとってはfhánaがそうですし。
あるいはクリエイターにとっても、手応えを得られたこと、完成に達すること、誰かに届いたのを確かめたことは、自らが救われるような体験になると思うのです。Webの隅っこで小説書いてる僕だって味わった感覚ですし、プロの皆さんなら、きっと何度も。

Bメロからサビへの、ブラスを中心とした盛り上がり、情熱の発露といったイメージで大好きです。2番だとさらにエネルギッシュですし。

そしてサビ、というよりこの曲の中心になるのですが。
「星」とは、世界中のクリエイターやファン自身だったり、彼らの才能や技術だったり、生まれる感情だったり。とにかく、創作に関わる人の中にあるあらゆる要素で。
普段は世界中に散らばって、交わることもないけれど。作品が生まれる過程でつながって、その人のその一瞬の断片……磨いた技術の一部、尊い情熱や信念の一部が、作品という「箱」の中に複製されて、「トワ」に残る。人の一部がアーカイブ化される。
「箱」は直接的なSHIROBAKOオマージュでもありますけど、この「アーカイブ化」こそがこの曲のミソの一つだと思うのです。アニメでも音源でも、(条件が満たされれば)時間や場所を越えてアクセスすることができる。「たとえまた遠く離れてしまった」人であっても、その一部には触れることができる。

サビの終盤、「たとえまた」での曲調がほんとにfhánaっぽい。一番上がる所で切ない歌詞を持ってくるのもfhánaっぽいです。

……という風に自分の解釈をぶちまけた後なんですが、本人からも語られていたので貼っておきます。もっと限定的な話で、「本質」……イデア界みたいな、現実の向こう側にある美しさを、創作を介して引き出すことをイメージしていたみたいですね。この辺は昨年のツアーパンフでガッツリ語られていたんですが、僕にはトレースしにくい考え方で。林さんの言葉選びには(特に小説書くときに)ガッツリ影響を受けているつもりなんですけど、根っこの思考法は到底なぞれない予感がひしひしと。

続いて2番。「涙あふれそうになる」「心に空いた穴」という、喪失を経た後の心の形。立ち直れてはいないけれど、それでも「歩けるさ」……あるいは、歩けるなら歩いていかないといけないよね、という強がりにも思えますが。
そこから「聴こえる声」「あの日に誓い合った約束」が歌われます。
「僕を見つけて」では「I can't talk you/hear you」と不可能性を直視しつつも、「遠くから届く祈りと光」で実在を信じるように語られていました。今回も離別の後なのは変わらないのですが、過去の思い出には触れられること、交わした言動は自分の中に息づいていることをこそ強調するような歌われ方になっていました。

「約束」は劇場版のSHIROBAKOでもキーワードになっています。誰かと一緒に創作に携わる中で、「いつかこんなことも」と語り合うこと。
あるいは誰かの作品から力を受け継ぐたびに、その感動に報いるためにも、これからも創り続けていこう……いつか自分が伝える側に回ろうと決意すること。
途中でその人に会えなくなってしまったとしても、止まってはいられない。
fhánaは昔から、自分たちの音楽のインスパイア元に正直ですし。年が経つほどに、共闘したクリエイターとの思い出も深く、広くなっていますし。聴いてほしい、けどもう会えないという人への敬意や愛しさは、ちゃんと心の中に生きているんだという姿勢が鮮明に伝わるようでした。

2番サビ。星座、星の連なり。Gothic×Luckの「きみは帰る場所」で「星座になれない星も」と歌ってからの、「新しい星座を結ぼう」です。疎外される人がいないような、新しい集団の創出。
作品に詰まるのは、キャラクターたちの物語だけでなく、作り手たちのドラマでもあって。フィクションにも劣らないその熱さ、スケールの大きさを誇らしく謳うような一節でした。

間奏、和賀さんのソロを中心に華やかながらも、どこか切なげなパートに感じました。和賀さんのギターが感情を語っていることは多い印象なんですけど、今回は「後ろ髪を引かれつつも前進する」みたいな様子が浮かびました。締めでベースが唸ってからのウィンドチャイムがすごく綺麗。

Cメロで初めて「あなた」が登場します。シンプルに僕ら、というよりも受け手のことだと取りました。別れに立ち会ってもなお歩き続けた自分たちだからこそ、別れに打ちひしがれる誰かに寄り添いたい。会えない人からの祈り、会えない人への祈りが届くように……作品を介して、届いたと信じられるような体験を提供したい。
ここのパート、アレンジでもMVでの演出でもそうなんですけど、towanaさんから始まって段々と仲間が増えていく流れになっていて。この辺にも、孤独を抱える人への寄り添いが表われているように思いました。メロディやtowanaさんの声色の変化も、そばに寄り添って、遠くに思いを馳せて、前を向いて……というストーリーが浮かんでドラマチック。

そしてラスサビ、入りの音の奔流が最高。
「永遠の一瞬の光」……今回、この二つはセットで語られていますよね。虹編めでの「瞬間、心重ねた」を思い出したりもしましたが、作り手にしても受け手にしても、要素が積み重なった先で心がグッと動くのは本当に一瞬のことで。けど、それに触れる機会は永遠になる。
救いは、奇跡は、待ち望むだけでなく創り出すもの。それを信じて、何度でも歩きだす決意表明であり、僕らへのエールでもあり。

……という風に追ってきましたが。
やはり、作品を介した人と人とのつながりの可能性……直接の関わり合いだけでなく、数え切れない人の断片が時を越えて残り続けること、それを突き詰めた一曲だと感じました。クリエイターや、それを取り巻くカルチャー全体に対する賛歌であり。fhánaにとっては、叶わない再会がある世界にあって音楽を続ける理由であり。「僕を見つけて」で描いたレクイエムから焦点を移して、今も歩き続けるひとりひとりへの応援と、会えなくなってしまったクリエイターたちへの敬意を込めた一曲。
喪失を歌いつつも、賛歌であり祝福の歌であると感じます。メロディの優しさと華やかさは、間違いなく前を向いていますし、背中を押してくれます。


Code "Genius" ? English ver.

ナカノヒトゲノム【実況中】の挿入歌として作られた曲の英語バージョン、fhánaでいうと逆Reliefといった経緯。where you are Tourでは撮影OK曲としても披露されていました、towanaさんの英語の歌い回しは相変わらず格好いい!

日本語バージョンはこちらでも取り上げていました、抜粋すると。

この曲でも、メロとリズムへの言葉のハマリ方がゾクッと来るくらい見事で。特にサビ前、コーラスと速い譜割りのコンボで「おうっ!?」と引きつけてからの、ジャストタイミングで来るサビの解放感がエグい。随所のライミングとか、音の似せ方とかも。

そして今回の英訳です。専門外ながらも翻訳まわりの比較が大好きな人間なので、今回はさいとーぴーがどう英語曲に生まれ変わらせたのかを中心に注目します。ぜひ、両バージョンの歌詞を確かめながら読んでいただけると。

和→英の訳だと、時間あたりの言葉数……意味の量が多くなりがちなので、どうニュアンスを足していくかが中心になると思うんですよね。後は、日本語で格好よく仕上がった言葉並びを、英語でどう反映させるか。

そしてご本人からこんなお題が出ているので、fhánaはできるだけ拾えるように頑張ります。ナカゲノも観ていまいしたし。

なお英詞やボーカルの監修は、「Relief」の作詞を担当されたLynn Hobdayさんとのこと。

まずは1番Aメロ。
"sentence" を同じ位置に持ってきたのナイスですよね。
「証明終了 反証ないように」のouコンボも、「No more contradiction」で再現。そこからゆっくり「Q.E.D」という、聞き取りやすいキメフレーズを置くのも良き。
そこからは英語オリジナルのニュアンスですが、「color your rainbow」というfhánaっぽいワードだったのは嬉しいです。2番も含めて、空に喩えてますね……「星」をあつめて、だからというのは飛躍しすぎかもですが。

Bメロ。
「何気もなく」の意味は少し薄れましたが、響きや語感はかなり近いチョイスになっててお洒落。「what a beautiful line」という言い回しも、WWWLを想起させる分かりて感。
言葉がバキバキに詰まった後半……僕が特に「どうすんだここ」と楽しみにしていたパートですが、もうリズムの良さが最高。but/that/possible、what's/darkest/shadowみたいな、響き近いワードで刻んでいて。この怒濤のリズムを完璧に歌いこなしているtowanaさんも格好よすぎです。
後、日本語版では明確な二人称がなかったのですが、こっちではyouが頻繁に出ているんですよね。終盤でweになっているので、共に謎に立ち向かう仲間、あるいは自分に助けを求めている誰かと捉えていいと思います。

サビ。
「解けないはずがない」「見つかんないはずがない」に対して、メタファーを持ってくるという発想! スタイリッシュ!
それで片方がゴルディアスの結び目(を解く)で、もう一方がメビウスの輪を……このleaveは脱出ですかね? メビウスの輪は無限とか輪廻のモチーフがあるので、そこから抜け出すことを示しているような? 後はfhánaだからこそ「ループ」を持ってきたか、OoMオマージュで。
いずれにせよ「発想の転換で難題を解明」することの象徴だと思います。ナカゲノの該当回がそういうテーマでしたし。そし最後、自身の内面の変化による解決を「意思あるところに道は開ける」で歌ったのも良い置き換え。「星をあつめて」でも、祈り信じることが進むためのキーになっているように取れますし。

……細かいですけど、楽しいので続けます。

2番Aメロ。
1番と併せて「keep on standing/breathing」という対比に。生き残るためには解かねばならないという宿命。「見透かして」に対してはバッサリ「nobody knew」を持ってきました。
そしてここから、「曖昧」に「I MY」を被せて、futureは揃えるというピッタリ芸を見せつけます。やられた。アイマイ被せはタイトルとかでたまに聞きますけど、訳でやってるのはなかなかにレアなのでは?

Bメロ。
前半は1番と同じく響き先行。「怖いから」を持ってきてはないんですけど、easyを重ねているの気になりますね。後、「ゲームのルールを知った」も引っかかります、ナカゲノだとシステムの中核に誰より近づいていたのが(この曲でスポットが当たっている)路々森だったので。
後半もやはりバキバキと。possible/collectableで1番と語尾揃えてますね。Do you~以降はdarkest shadowが中心ってのも同じ。日本語に比べて、文の作りを重ねている箇所が増えていますよね。「知らない自分」からのmaskかな。

サビ。
「Riddle me a riddle」とは何ぞや、リドルと聞くとハリポタが真っ先に出てくるオタクですが……検索で見つかりました、「なぞなぞを出して」だそう。labyrinthと併せての謎を意味する表現……あと、riddle/this/labyrinthで語尾を重ねたかな、いいリズム。
後半、日本語だと暗めなフレーズで間奏に行きますけど、こっちだと「So remember」以降を重ねつつ前向きなニュアンスになってますね……ところでここのtowanaさんのshoutingの言い方が超好きなんですけど分かります?

さいとーぴーからのリプライなんですけど、この辺り……Don't carry~の辺りかなと。課題は分け合うもの、光さす方に歩こう……「星をあつめて」のキーワードが「光」だったことも折り込んでいそうな。

さて、難所のCメロです。
「goldfish bowl」が最初謎すぎたんですよね。金魚鉢、飼われている状態、キュウべえ的なメタファー……と訝しみつつ検索したら「衆人環視、プライバシーのなさ」の比喩でも使われるそうで。前後と合わせて、誰もが監視者になって探り合いをしているって解釈でしょうか。ネット社会みたいな。ナカゲノの舞台、全てがネットを介して実況されているような状況を指しているようにも思いました。
「tit for tat」は「売り言葉に買い言葉、しっぺ返し」だそう。からの「trick or treat」は、語感での接続もありそうですが……後ろに「start a war」が来ていることも踏まえて、「取引/茶番よりは真っ向勝負だ!」みたいな解釈だと思います。
という風になんとなくの流れは掴めたんですけど自信ないですし、さいとーぴーはどこからこんな発想をしたんだ……?
そしてスーパーtowanaさんタイムでもあります。声のエフェクトも相まって、独特のトリップ感が生まれているような。

そしてラスサビ。
直前で「指先/finally」で韻を重ねてから、1番の歌詞を疑問形→肯定(二重否定)にしてサクセスを強調。なんで前半だけNo way~にしたんだろうと思ったら、日本語版と頭韻を合わせてましたね。隅々まで気が利いている。
ただ後半が随分と違う展開で。使命が終わったらお別れだよ、立ち止まったら出発だ……という、あたかも今シングルのテーマをなぞるようなラストで。
加えて、「where you are」が登場しているのもfhánaからの引用を感じさせますし。全体的に、このシングルの中で生まれ変わるからこそのストーリー展開になっているように思いました。

という訳で、歌詞にかじりついて追ってきましたけど。
さいとーぴー凄まじいですね!? 日本語版と音や並びを重ねるとことは重ねつつ、アレンジ強めるところも格好よく聞こえるように仕上げてますし。fhánaのストーリーラインが反映されてもいますし……

掘ってみたらこんなツイが。伏線……
隠されたpieceをどれだけ拾えたかは分かりませんが、とにかく楽しい比較でした。

そういえば、サウンドもナカゲノ盤とは全然違うんですよね。アコギがで始まってバンドっぽいアレンジだったのが、よりデジタルでダンサブルな……佐藤さんっぽいアレンジになっているように思います。本人も含めて「Relief」とのリンクを感じる人は多い印象。佐藤さんの赤いシンセが唸るのがライブでの見どころだったり。


世界を変える夢を見て

この副題、絶対にエヴァ新劇場版のオマージュだし佐藤さんチョイスでしょと思っていたんですけど、外れだったかな?

和賀さんらしい青春感、爽やかさ。そして今回の中で一番fhánaっぽい、格好いいんだけどどこか安心感のあるアレンジだと思いました。ピアノのコードがあって、歪んだエレキギターがあって、シンセや細かい装飾音が至る所にあって……ただ今回、アコギが主役を張ってる印象が強いですよね。序盤からアルペジオで曲を彩りつつ、リズム刻んだりもして。そしてリズム隊の疾走感も熱いです。

歌に入ります。
まずはAメロ、まさに別れの一幕ですね。ここまでのfhána曲と比べると、「真っ白」「現在地」の後、「ユーレカ」「snow scene」の前ともいえそうな。今回は去る側、置いていく側の視点。選んだのはこっちだけど、それでも名残惜しい。「永遠じゃなくて少しだけ」が切実ですよね。
続きで「使命」が出てきて「calling」を思い出したんですけど、理想とか夢と捉えることもできそうですよね。で、それが叶った後の「抜け殻」を心配していて……「星をあつめて」で現実への消耗の話はしたんですけど、それが行き着く先の一つには「抜け殻」みたいな燃え尽き状態がありますよね。挫折するでも、次の目標に進むでもなく、叶えて終わらせちゃうルート。

Bメロ、ここで「僕/僕らの街」じゃなくて「君の街」にしているのが絶妙ですよね。もう心は離れつつあるけど、まだ気がかりな人がいる。ふぁなみりーは「君の住む街」を思い出したりもするでしょうし。

サビ、「きっと明日を掴むためには/何かを捨てなきゃいけない」と、かなりストレートに現実を語ってますよね、刺さる人は多いはず。旅立ちテーマで潔く「捨てる」と言い切るの、fhánaには珍しくもあったり。
最近のfhánaは喪失と向き合っているんですけど、喪失をそれ以前から見たら「会えなくなる前にできるだけ一緒にいようね」になるんですよ。離れる訳にはいかない、けど、現実として離れなければ出会えない人が、自分がいる。だからこそ「矛盾」ですし、このシングルの流れで「別れを選ぶ」曲を持ってくるの凄いです、カウンター的に効いていて。
自己実現、目標を「世界を変える」で表現しているの、和賀さんの言う通り自分の世界を新しくすることに加えて、誰かの世界を変えることも指して良そうですね、「星をあつめて」とのリンクを考えると。
サビの音作り、力強い圧と細かいリズムになっていて。なんだか列車みたいだなって感じました。駅っぽいロケーションですし。

2番にいきます。
1番をリフレインさせつつ、「でも前に進まなきゃ」「面影拭き消して」でさらに別れに近づいて。拭き消すってことはやっぱり車窓なような……後、「面影」は「君の住む街」でも歌われていましたね、林さん好きそう。

サビでの「矛盾」は先述しましたし、それを経ているからこそ焦るんですけど、その選択自体は肯定しているようで。「地図」はこれまでのfhánaでも頻出でしたが、今回は「葛藤の中で巡らせた思考が指標になる」こと、あるいは「迷ったぶんだけ決意は固い」辺りでしょうか。
そして表情は「眩しい微笑み」から「寂しい横顔」に変わりました。

間奏の歌詞、「星をあつめて」でもそうなんですけど、喪失感とか迷いを克服するんじゃなくて、同居させながらでも進もうって姿勢で。きっぱり断ち切っていかないのはfhánaらしいと感じました。
ここでのtowanaさんの聴こえ方とか繰り返し方、脳裏で響いている感覚で。ついて回るものだよって言われているような。楽器の激しい掛け合いも格好よくて、ライブで聴くのが非常に楽しみです。

そしてラスサビ、「密かに抱いた願いは水の底沈めた」……この願いは、置いていかれようとしている「君」に関わっていそうだなと。置いていくなりに、秘めるべきは秘めるという筋の通し方。「沈めた」は「星屑のインターリュード」でも歌われていましたけど、ドキッとする言葉選びですよね。
ラスサビでだけ「ほら」というコーラスが加わっているの、もしかしたら「君」からのエールの象徴かなと思ったり。最後は「眩しい微笑み」になっていますし。

おわりに

ここまで1万文字、お付き合いくださりありがとうございました。
シングルを通して、別れを受け止めたうえで前進を、創作を続けようという意思が強く伝わってきて。今の社会に生きる人に必要な音楽を届ける、そんなfhánaの魅力がまた強固になったように思いました。

最近のfhánaからは、いわゆる「アニソンユニット」からは離れて、もっと広い音楽シーンに飛びだそうとしている姿勢も見えて。そもそもアニソンシーンには飽和の気配がある……というよりも、アニメ供給が多すぎて、視聴者も作り手も対応できていないという現状がある訳で。業界のコンパクト化が適切にも思える中で、タイアップ依存とは別のスタイルを確立するのは正解に思えます。

それでも。やっぱり僕はアニソンが大好きで。アニメと音楽の共演が好きで、アニメを通した出会いが好きで、アニメだからこそ生まれる色が好きで、アニサマみたいな舞台が好きで。だからこそ、自分たちが愛してきたアニメカルチャーに対するリスペクトを込めた今回のシングルは非常に嬉しいものでした。

昨年のツアーファイナルで佐藤さんから「4th アルバム作るよ」という発言もポロッとありました。「僕を見つけて」「where you are」「星をあつめて」の先にアルバムがあるとしたら、別れと決意にじっくり向き合った非常にコンセプチュアルな一枚になりそうですし、またもや人生最重要アルバムになる予感がします。
その前に劇場版SHIROBAKOが超楽しみ。

という訳で、長々とお付き合いくださりありがとうございました。
(楽器とか作曲理論とか詳しい人、気づきをまとめてアウトプットしてくれてもいいのよ!)


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