見出し画像

『衣裳箪笥のアリス』感想

『衣裳箪笥のアリス』の最終日の夜公演に行ってきました。この公演があるから諦めずに済んだ(かわいいけれど着ていく場所がない、と二の足を踏んでいたので)、夢のようにかわいい服を着て。
外に着ていくのは初めてなのもあり、少し緊張しながら向かったRITTER BASEさんの入り口には、ぼくとは違う、でも同じようにとびきりかわいい服を着たひとが案内のために立ってくれていて、うれしさが緊張をふきとばしてくれた。開場時間を少し過ぎていたのでいそいそと開場へ向かってしまい、あとから「お洋服についてもっとお話させてもらえばよかった……」と悔やんだ。どこの……どこのお洋服ですか……『奇病庭園』のときの庭師さんと同じお洋服ですか……??最高にかわいかったです……。

公演はそれはもう夢のようにすてきで、ぼくは「なりたいもの」「なりたかったもの」「なってみたいもの」「なってみたかったもの」が本当に数多くあるタイプの生き物で、そのなかには(いずれも概念としての)『少年』『完璧な少女』『アリス』もあって、昨日は確実に『アリス』にはなれたと思う。会場に迷い込んだひとたちはみんなひとりひとり違うそれぞれのアリスだった。〈着たかった服を探す人〉と同じようにみんな衣裳箪笥に迷い込んで、それぞれのアリスになったんだと思った。それがとっっってもうれしかった。ぼくはあの日、なりたいもののひとつになれたのだ。

全体の流れや詳細、雰囲気はぜひとも配信を観てほしいのですが(4/8現在、まだ配信チケットが購入できるので)どういった公演かをざっくり説明すると、ロリィタ短歌をその作者である川野芽生さんと、舞台俳優である嬉野ゆうさん、鳥居志歩さん、大島朋恵さんがみなさんロリィタ服を身にまとい、じゃみーさんの音楽とエレキギターの演奏をバックに朗読するイベントです。友達に「こういうイベントに行くんだ〜〜〜」って話したら「えっちょっとまって要素が多い……!」と言われました。わかる、わかるよ……。
つまりは素敵な場所で素敵なお洋服を着て素敵な音楽をバックに素敵な短歌を朗読するイベントということですね!まさにその通りでした。会場のRITTERBASEさんは地下にあって、前回の『奇病庭園』の朗読イベントで今回の告知がされたとき「えっっっ地下の国のアリスじゃん、絶対に行く……」と思ったのをおぼえています。

公演の内容の感想に入ると、〈着たかった服を探す人〉がはじめて読む一首が『はるのゆき 少女のやうな少年に一度生まれてみたかつたこと』で、もともとすごく好きな一首なのに、〈着たかった服を探す人〉が着たかった服に出会う前の、なにかが足りていないようにも思える状態で、まっすぐ〈フリル〉と〈模造宝石〉のほうを向いて言うものだからほとんど泣きそうになってしまった。配信でみていたらおもうさま泣いていただろうし、普段どおりにマスカラをしていなかったら、涙をハンカチで拭いながら観られたのになあと少し後悔した。

応答するように同じ一首を複数のひとたちで読み合う、という短歌の読み方をはじめてみたけれど、「そのきもち、わかるよ」と言い合っているようでよかった……なんて言えばいいんだ、うらやましい、でもないし(少しそれも含んでいるのだが)、そういったかたちでわかりあえるとしたら、それはとても素敵な「気持ちの共有のしかた」だなあ、というか……。
短歌として読んでいたときもとても好きだった短歌たちをもっと好きになった。

演劇のようにお話が進んでいくのに、住人たちや〈着たかった服を探す人〉が発するのは短歌で、不思議な感じがした。状況を説明するようなセリフみたいなものがなくてもお話の流れって作れるんだ、みたいな……
どちらも短歌を発しているのに、住人たちはいつもどこか妖精のようだったし、〈着たかった服を探す人〉はそちらに歩み寄っていきつつもずっと『アリス』だったように思う。不思議の国に迷い込む、でも不思議の国の住人ではない存在としての。でももちろんそれは悪いことではなくて、『アリス』は『アリス』のまま、妖精にならなくても、妖精たちと気持ちを渡し合えるのだ、という感じがすきだった。

ぼくは、感情移入する先としての〈着たかった服を探す人〉、憧れとしての住人たち、のように観ていたと思う。

とにかく最初から最後まで素敵だったのですが、文章をまとめるのが得意ではない生き物なので、困ったときに頼ってしまう箇条書きに今回も頼って、好きだったところを箇条書きで羅列してみようと思います。短歌については正直ほとんどの短歌を好きなので、演出と相まって好きだったところとか、泣くのよ……ってところをよりぬいて羅列します。(といっても書き出したらとても量が多い)

・開演前の時点ですでに素敵で、〈薔薇模様のドレス〉が目を覚ますところ(〈フリル〉と〈模造宝石〉が〈薔薇模様のドレス〉にかかっていたお洋服をとってあげるところ)が、衣装箪笥の住人達の仲の良さがにじみでていて好きだった。そもそも服にまみれて眠っているのがかわいすぎる……
素敵なお洋服たちが壁を覆って、レースやリボンが垂れ下がり、マイクにもリボンの装飾があり、オルゴールのような音楽が流れていて……という空間がまず素敵だったのですが……

・〈模造宝石〉がはじめに大きな模造宝石(リングに加工されていないもの)を光に透かすところ、光がまわりに散るのがきれいだったし、別の作品の登場人物に例えるのは失礼かもしれないのだけれども『たのしいムーミン一家』にでてくる大きなルビーを探す「飛行鬼」を思い出して好き!って思った。服装の影響も大きいだろうので、他の公演ではもしかしたら飛行鬼のことを思い出さなかったかもしれない
(配信をみたらぜんぜん飛行鬼ではなかった、お洋服とメイクの与える印象の差ってすごいなと思った。あと、ちがうかもしれないけれどお洋服によって身振りの感じとか発声のしかたとか変えてらっしゃいましたか……?変えていなかったとしても、それくらい印象がちがった。どちらの〈模造宝石〉も好き!)

・〈フリル〉も、ぼくのみた回では「ユニコーンの暮らす森に住んでいそうな妖精」という感じを受けたけど、別の回のお洋服だと絶対にイメージがちがうだろうと思う
(配信をみたらオルゴールのお人形さんみたいだった、その回は〈フリル〉だけでなくみんながそんなイメージだった、かわいすぎる……31日お昼の回の皇子装もみたかったーーー!)

・〈着たかった服を探す人〉が〈薔薇模様のドレス〉に気づいたとき、うれしさとともに泣きたさがすごかった。光がぱっと〈薔薇模様のドレス〉に当たってからの『おいで、光をみせてあげるよ』は引力が強すぎる

・〈薔薇模様のドレス〉はもしかして声を発しないのかな、と思っていたら『おいで、光を見せてあげるよ』で声を発して、〈フリル〉と〈模造宝石〉が入り口の近くまで呼び寄せた〈着たかった服を探す人〉の手を〈薔薇模様のドレス〉が引いて不思議の国(衣裳箪笥の世界)にぐっと引き込んでいく感じがしてすごく好きだった、たしかにあのときに〈着たかった服を探す人〉は不思議の国への扉をくぐったと思う

・『植物になるならなにに?』の〈フリル〉と〈模造宝石〉のやりとり、すごく楽しそうですきだった。『さくのはくるしそう』なのに

・エレキギターがひずんだ音を出しているなかで読まれる『ひな人形〜』『疎まれし〜』『はるのゆき〜』の流れのときの『はるのゆき』泣く、泣くのよ〜〜〜〜切実なそれ(泣き叫ぶかのような)、という感じで……(その後の『はるのゆき』は、「いまはもう、諦めたけどね」という印象があって、それはそれで泣いてしまう)

・『いつまでもこの世の道で迷ひつつぼくらはアリスとアリスとアリス』がもとから好きだけど、公演では『アリスと……』が繰り返されていて、「やっぱりぼくたち観客もアリスですよね?!仲間にいれてくれてありがとうございます……」みたいな気持ちになった

・オフィーリア、泣く、〈フリル〉と〈模造宝石〉どちらの言い方も泣いてしまう

・好きな服を着ていいという希望をとりもどしていくかんじ、または、着たかった服が確かにあったことを思い出してつかみなおす感じ、を短歌と演出で表現するのすごい、説明的なセリフが無いのにこんなに伝わるの……すごい……

・『薔薇もやうのドレスのためトルソーとなるときゆるすおのが軀を』、泣く

・〈着たかった服を探す人〉が、服を〈フリル〉と〈模造宝石〉に着せてもらいながら次々と着ていくのが『たれも姫にてたれもその侍女』だったしたのしそうであまりにすきだった、〈薔薇模様のドレス〉がうれしそうに、「お洋服似合うよ!」「この靴もきっと似合うよ!」みたいにすてきな靴をもってきて、〈着たかった服を探す人〉に履かせてくれるところ素敵すぎたし、そのあと靴のかかとをならしながらぴょんぴょんとびはねる〈着たかった服を探す人〉かわいすぎた、レースグローブを〈薔薇模様のドレス〉に見せて「おそろい!」みたいに笑うのもよすぎた。「着たかった服に出会えた瞬間(理想の服を自分も着ていい、という自由を手にした瞬間)」を観せられて(観せてくださってありがとうございますがすぎるのだが)、その光景の多幸感もすごくて泣きそうになった

・せっかく「また会えた」けど、アリスは衣裳箪笥の世界から外の世界にでかけていくんだね、衣裳箪笥の住人達とのハグが「またね」であることを願う(着たかった服をみつけたからここへ来なくてよくなるのか、また不思議の国としての衣裳箪笥の世界にもどってこれるのか気になる、戻って来れてほしい)(自分を取り戻したあとに不思議の国や不思議な生き物が「役目を終えて」もう会えなくなってしまう、という展開の作品が多いように思うのですが、それをずっと「さみしい」と思っているので)

・『おとなになって、少女らはおとなになって、完璧な少女になったのでした』はあまりにロリィタを端的にかつ完璧に表現しすぎているし、ロリィタへの憧れはあれど、ロリィタを着て行く場所ないしな……と二の足を踏んでいたぼくの出かけてゆく先としてもあの公演があったので、ぼくはあのひ『完璧な少女』にもなれたのだ(ドロワーズを手にしていないので、『完璧な少女』には一歩足りないのですがそれはまた別のはなし)

・〈薔薇模様のドレス〉の身体表現というか、身体のつかいかた?がしっかり筋肉あるひとのやつだ?!って感じで好きってなった、もしかしてバレエを通ってらっしゃいます?みたいな……

・音楽も最高だった、オルゴールみたいな曲はやさしくてすきだし(ねむるとき流したい)、ギュイギュイのエレキギターも最高だった〜〜〜ライブハウスでやってるライブに行きたさがアップした

・『羽衣とともに手にせりいましばし地上に残るための勇気を』が自分の気持ちと合いすぎるというか、素敵なお洋服がなければ生きていけない、自分にぴったりくるお洋服がないと、と思っているので……えっと、つまりは泣いてしまう、ってことなんですけど(配信では心置きなく泣きながらみました)
そのすぐあとに『涙代りのビジューを縫ひ留めて、おそれない。どんなひかりも海も』といって〈着たかった服を探す人〉が衣裳箪笥をでていくの、おわりとしてかんぺきすぎるなと思いました。『羽衣とともに手にせりいましばし地上に残るための勇気を』で終わっても覚悟のあるかたちの終わり方で素敵だしそれでも絶対に好きなのだけど、おそれないほう、光がすこし差す感じで終わってくれたのうれしかった。なぜならぼくたちも衣裳箪笥からこのあと出ていかないといけないので……

最高だったので、アーカイブ配信期間中にこれでもかというほど見返そうと思います。
素敵な公演を本当にありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?