イラストaaaa5

Colchicum(2018)

夏が去っても何も終わらない、進むしかない。


喉元過ぎれば熱さを忘れるとは言うが、本当にあれだけ悶えていた夏の暑さも過去の思い出になってしまった。
真夏の直射日光をもろに浴びながら家の近くにあるコンビニまでとぼとぼ歩いたこと、コンビニのドアが開いた瞬間に涼しい空気に包まれて生気を取り戻しセブンイレブンに心から感謝したこと、炭酸を買って店を出てそれを一気に飲み干したこと、また一瞬で直射日光に生気を奪われたこと。
太陽に照らされたアスファルトと街路樹に電柱、ビル、その一直線上に短く伸びる黒い影。街はフォトショップで補正したような彩度とコントラストを帯びていた。輝いていた。


太陽光の触感や炭酸の味はもう思い出せない。昨日の晩御飯も思い出せない。
夏期講習などというふざけたものの所為で形だけになってしまった夏休みは体感では一週間弱で終わってしまった。ついにウナギは絶滅したし熊谷は溶けて無くなった。ワイドショーは未だに専ら有名俳優のゴシップとお偉いさん方のごたごたの話題を取り上げていてプライベートブランドに寡占されたスーパーマーケットくらいつまらない。
夏の強烈な光と陰は矢が飛ぶような速さで過ぎ去った。最良の日々だったとさえ思わせる漠然とした好印象を残して姿を消した。


もう既に肌寒くなり始めた町を歩く。週末だからか人が多い。
過ぎ去った記憶はいつだって美しい、だったら今不安に満ちている未来だって過去のものになれば美しくなるんじゃないか。
今はただ、やみくもに進むしかないのかもしれない。